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第57話 また会う日まで

「綺麗だなー……」


 屋上で満天の星空を見上げてオレは一人呟く。

 眼下には当たり前だけど人工の光なんてものは無く、真の闇が広がっている。

 ひんやりとした夜の空気の中、この世界が持つ神秘にただただ見惚れていた。


 豪勢な夕食を皆で食べた後は各々自由に過ごしている。

 爺様は早々に自室へ戻ったし、シリウスさんと空叶はアルガーさんの発案でボードゲームをし始めてた。

 レナードさんはこやきにギターを教えて貰っていた。


 伝説の旅芸人となっているこやきの弾き語りを見てから、レナードさんってばこやきにずっと手ほどきをお願いしていたんだって。

 こやきは旅の道中ではしっかり教えることが出来ないとお断りしていたのだが、ようやくレッスンを受ける機会が訪れたようだ。


 レナードさんはなんとファーゼイストの町の劇場に時々出演している吟遊詩人の会の一員でもあるという。

 ちょっとだけその団体の演奏会気になっちゃったよ。


 オレはお風呂に入りに行き、その後なんとなく夜空を見たくなって屋上へ上がってきた。

 もちろん湯冷めをしないように万全な格好で。

 

 この世界に来て見るもの全てが目新しかったけど、夜空だけは特別。

 元の世界の空とは星の並びは違うけれど、見上げるという行為は変わらない。


「空叶どうしたのー?」

「おうり、よく俺だって分かったね」

「分かるよ、だって空叶の気配だし」


 背後から微かな足音と扉が開く音、そして気配察知が働き、空から視線を外してその闇に向かった先に声を掛ける。

 月明かりの下、少し驚いた顔をしながら空叶はこちらに歩み寄ってきた。


「星空見るの、好きなんだよね。でもこの世界には知ってる星座は無いみたい。オリオン座とか北斗七星とか、どこにも無いね」

「そうなんだ」

「でも星空の綺麗さは同じくらいかな」

「うん、綺麗だよね」


 隣に並び、同じように夜空を見ている空叶に話していると、スッとオレの手を探って繋いできた。

 突然のことにちょっとびっくりしたけど、繋がれた手から伝わる体温がじんわり温かい。


「……おうり、寒くない? 大丈夫?」

「絶対湯冷めしないように厚着してるから平気だよ」

「そっか……」


 空叶の視線が夜空ではなく、オレ自身に向けられていることに気が付く。

 目線を合わせると、繋いだ手に力が込められる。

 

「あのさ……、おうりのこと、ギュッとしてもいいかな?」

「え、うん……、いいよ」


 言い終わるか終わらないかのうちに背中に腕が回され、空叶の胸の中にすっぽりと収まる。

 厚着していたけど割と冷えていたみたいで、空叶の体温が冷えた肌に心地良い。


「……おうり、ハグ、ありがと」

「どーいたしましてー」

「……もう一個おねだりしてもいい?」

「もう一個?」


 空叶はゆっくり体を離して、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけてくる。

 目は潤み耳まで真っ赤になってて、体が小刻みに震えている。


「空叶、震えるほど寒いなら部屋に戻ろう」

「……ダメなら、……突き放して」


 あ、これは、前にも……。

 おねだりってこれのことだったんだ。

 温かくて柔らかな感触を唇から感じる。

 空叶の体温がそのまま自分の唇に乗り移ってくるようだよ。


 一瞬触れてから離れ、すぐに深く吸い付くように重ねてくる。

 さっきまであんなに震えていたのに、今は震えもなくぎっちり抱き寄せられている。

 必死で、一生懸命な空叶からの想いをオレは突き放すことなく受け入れていた。






「……っ、……もう俺、心臓が破裂しそう……」


 空叶はオレの肩におでこを預けて動かなくなっている。

 途切れ途切れの声で、深く呼吸を整えながら呟いた。

 

「おうり、……嫌、じゃなかった……?」


 肩越しに聞こえた今にも消え入りそうな不安げな声。

 あんなに必死に、一生懸命に想いをぶつけてきたのに、今更どう思っているか聞いてくるなんて繊細というか何というか。

 返事は前から変わらず決まっているのにね。

 

「嫌なわけないじゃん」


 オレの言葉に空叶は小さく肩を跳ねさせる。

 そしてようやくゆっくりと顔を上げた。

 目元は潤んでいて、真っ赤に染まっている頬はまだ熱を帯びているようだ。

 表情は子供のように無邪気で、弾けるような笑顔になっている。


「……よかったぁ。……ねえ、もう一回、してもいい?」


 さっきまでの不安そうな声とは違う、少しだけ低く、熱を持った声。

 断る理由は無いので頷いてみせる。

 今度は少しだけ余裕を感じさせる顔だ。

 

 視線が絡み合った瞬間、空叶の瞳に宿る深い真剣さに思わず魅入ってしまった。


 






 翌日、シリウスさんと空叶の二人を見送るために皆で屋上に集まっていた。

 どこまても深く澄み渡った天青石色の空が広がっている。

 

 昨日まで世界を覆っていた重苦しい闇は消え去り、遠い地平線から差し込む朝日が綺麗で眩しい。


「王子、俺たちはいつでも力になるからな! またいつかゲームで対戦しようぜ!」

「シリウス王子、何かあれば私たちにも声をかけてくださいね」

「アルガー、レナード、ありがとう。その時は遠慮なく頼らせて貰うよ」

「シリウスさん、良い友達ができて良かったですね〜」

「ああ、そうだね。本当だよ」


 シリウスさんの顔は感激に満ちていて、朝日を受け一層輝いて見えた。

 目には涙が滲んでいるのが見て取れた。

 

「オウリ、コヤキ、君たち二人には救われたよ。あの時君たちに出会わなかったら今の私はここにいなかっただろう」

「そんなそんなー、オレたちはただのきっかけですよー」

「そうそう、結果オーライなので万々歳ですよ〜」

「君たちが元の世界に戻ったとしても、この恩は生涯忘れないよ。それからソラトのことは私に任せてくれ。ちゃんと君たちの元へ責任を持って送り届けるから」

「よろしくでーす」

「シリウスさんお世話になります、よろしくお願いします!」

「天宮くん、早めに戻って来ないと不具合起こすかもよ〜、おうりが」

「えっ! おうりが不具合!?」

「こやき何それー。空叶も間に受けないでー」

「ふふっ、そうなる前には帰したいね」


 勇者の凱旋に伴って、色々な催し物が行われるんだろうな。

 パレードとか祝宴とか、旅の話を聞きに様々な人たちが集まるよね。

 空叶と離れるのは心配だけど、シリウスさんにお任せすることにしよう。


「それじゃあそろそろ私たちは城へ戻るよ。皆、本当にありがとう! また会おう!」

「おう! またな!」

「お体に気を付けて!」

「お元気でー!」

「お達者で〜」

「じゃあ俺も行ってきます! おうりが不具合起こさないように早めに戻るね!」

「……だから、真に受けんなってば」

「あはははー、行ってらっしゃーい」

 

 皆に見送られ、シリウスさんと空叶は移動魔法でローダン国へと向かって行った。

 しばらくの間空を見上げていたが、気持ちを切り替えて動くことにする。


「じゃあオレとこやきは予定通り食料や日用品の買い出しへ行ってきますね」

「はい、宜しくお願いしますね。私たちも早速今日からお爺様と魔導書の解読に入ります」

「無理しないで下さいね〜。食事と睡眠取りながらでお願いしま〜す」

「レナードと爺さんは研究に夢中になるとそれが疎かになるからな。健康管理は俺がちゃんと見るから安心していいぜ」

「アルガーが言うほど疎かにしているつもりはなかったんですが、そう見えていたなら心外ですね」

「心外ってなんだよ。今回はソラトたちのためでもあるし、倒れられたら困るからな」

「まあ、今回はお任せすることにしましょう」


 この二人のお兄さんズ、言い合いするけど仲がいいよね。

 人への配慮もプロフェッショナルなレベルで人柄もいい。

 残念なのは妹の性格だけど。

 

「んじゃこやき行こうか。魔王を倒した話が伝わると普通に買い物出来なくなりそうだし。お祭り騒ぎになる前に行っとかないと」

「そうだよね〜。落ち着いて買い物したいし、便乗商品出回ると振り払うの面倒だからね。まとめ買いしてくるので遅くなるかもでーす」

「行ってきまーす」


 魔導書の解読待ち中この塔で生活するにあたって、今日は生活必需品の買い出しに行くことにしていた。

 お金と収納には困らないので、しばらく引き込もれるように爆買いをする予定である。


 勇者が魔王を倒したのは歴史的快挙なのだから、当然世間は大盛り上がりになる。

 絶対数多くの便乗商品や関連グッズが市場に溢れかえるよね。


 空叶、割と押しに弱いから、勇者のグッズ販売に巻き込まれないかちょっと心配になるや。

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