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第七話|隠して

蒼【最近、ちょっと困ってることがあってさ】

蒼【高校の同級生がいるんだけど、やけに俺に優しいんだ。……優しすぎて、正直ちょっと疲れる】

ハク【……どういうこと?】

蒼【何て言えばいいのか、自分でもよく分からなくて……】

ハク【それって、ちゃんと応えたい気持ちはある?それとも、正直あんまり応えたくない?】

蒼【……】

蒼【……分からない】

ハク【多分ね。応えたい気持ちはあるけど、言葉を選ぶのが面倒で、考えるのも疲れて……だから、結局返せてないんじゃない?】

蒼【……なんでそんなに分かるんだよ】

ハク【(笑)蒼くん、どう見ても“面倒くさがり”だもん】

ハク【そういえば、前に話した仕事の件はどう?考えてくれた?】

蒼【……うん。やってみようと思う】

ハク【それはよかった! 頑張ってね】


スマホを置いても、しばらくその場から動けなかった。画面は暗くなっているのに、胸の奥だけがざわついたままだ。

「……八年間も、誰が好きだったと思ってるの……」


誰にも届かない声が、静かな部屋に溶けていった。


数日後。蒼は少し緊張した面持ちで、会社の扉をくぐった。


「はじめまして。今日からお世話になります……」

「君は蒼ですか?」


声をかけてきたのは、落ち着いた雰囲気の男性だった。


「はい。よろしくお願いします」

「そうか……ハクの曲を手伝ってくれたんだって?すごく良かったよ」

「ハク……会社に来ることはありますか?」

「? 必要があれば、かな。どうして?」

「いえ……ちょっと気になって。どんな人なのかなって……」


その一言に、初はわずかに表情を変えた。


「……?君たち、前から知り合いじゃなかったの?」

「前から?曲を頼まれたときですか? その時も会ってませんよ?」

「…………」


短い沈黙のあと、初は静かに頷いた。

「……そうなんだ。分かった」


その時にはもう、初は気づいていた。私が“別の名前”で、蒼と繋がっているということに。



次のカバー曲の打ち合わせの件で、私は会社を訪れた。

「初くん……来たよ———」


声をかけた瞬間、初が素早く距離を詰めた。背中が壁に触れる。


——ドン——


「……!? な、なに……?」

「大丈夫。動かなくていい」


低く、落ち着いた声だった。


「……蒼が来てる。今ここで会うのは、避けたいだろ?」

「え? あ……うん……ハクの名前で連絡してたから……」

「…………そう」


一拍置いてから、静かに続ける。


「どうして、隠してたの?」

「だって……蒼、私のメッセージには返してくれなかったから……」


初は責めることなく、ただ私の手首を取った。力は強くないのに、迷いがない。


「……来て。ここだと落ち着いて話せない」


そのまま導かれるように歩き、会議室へ入る。扉が閉まる音が、静かに響いた。



「……座って」


初はしゃがみ込み、自然に視線を合わせる。


「全部、話していい」


私は一度、深く息を吸った。


「蒼は……私の高校の同級生」

「でも、もう七年も会ってない」

「昔から、彼は私を避けるくせに……ちょっとした行動ひとつで、いつも期待させてきた」


言葉にした途端、視界が滲む。


「……私は、蒼が好き」

「……でも、あの日……はっきり拒絶された」

「……そっか」


初は否定もせず、ただ頷いた。


「……つらかったな」


伸ばされた指が、そっと涙を拭う。その手のひらは、驚くほど温かかった。


(……あったかい)


「これからどうしたい?今は、無理に答えを出さなくてもいい」

「……何も考えてなかった」


少し困ったように息を吐いてから、額に軽く触れられる。


「もう……こういうことは、一人で抱え込まなくていい」

「いっ……なにするの!」

「確認。ちゃんとここにいるかどうか」


そう言って、わずかに笑った。


「——仕方ないな」

「しばらくは、俺が隣にいる。考えるの、手伝うよ」

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