4 繋がる想い
ミアが応接室のソファーに座ってしばらく待っていると、ティオがやってきた。少し疲れ顔だ。
「お疲れ様。どうしたのティオ?」
ミアがそう聞くと、ティオがハッとした顔をして頭を横に振りながら言った。
「い、いえ。何でもありません」
……ロベルト様がティオから私の人となりを聞き出そうとしたのかな?
そう思ったミアは、苦笑しながらティオに言った。
「私のことを色々と聞かれた? ロベルト様は、『お互いに気が合わないと辛い』って言ってたし……どうだった? 婚約は進みそう?」
「は、はい。ミア様……滞りなく婚約の話は進みそうです」
ティオが言葉を選びながらそう言った。
……多分、ティオは私のために色々と頑張って説明してくれたのね。
そう考えたミアは、ソファーから立ち上がり、笑顔で言った。
「ありがと、ティオ。あなたのお蔭ね」
「あ、いえ……」
ティオが恥ずかしそうな、少し悲しそうな、何ともいえない表情でそう言った。ミアが笑顔で話を続ける。
「ロベルト様は、今までの婚約相手と違って一目惚れっていう感じじゃないけど、何だか気が合いそう。いい結婚生活が送れそうだわ」
「そうですか……それは良かったです!」
ティオが嬉しそうにそう言った。その表情は、心の底から喜んでいるように感じられた。
ミアは、そんなティオの顔を見ていて、ふと、あることに気づいた。
結婚するってことは、ティオと離れることになるんだ……
ティオは伯爵家の従者。結婚して家を出るミアに付き従うことは通常ない。
ミアは、ティオの顔を見つめた。見慣れた赤い巻き毛に丸縁メガネ。真面目な、だけどどこかホッとする顔。
幼なじみで子どもの頃からずっと一緒に遊んでいたティオ。大人になってからも、従者として常の私の側にいてくれて、いつも私のことを大事に思ってくれる、私の幸せを誰よりも考えてくれるティオ。
今までの婚約者に抱いた一目惚れとは違う。ロベルト様に対する気持ちとも違う。ティオに対する自然な、優しい、温かい感情……
……あ、私、ティオのことが好きなんだ。愛してるんだ。
ミアの脳裏に、突然そんな言葉が浮かんだ。
「どうされました? ミア様?」
ミアの表情に何かを察したのか、ティオが心配そうに言った。
「う、ううん。何でもない。ちょっと疲れたかな」
ミアは笑って誤魔化した。身分違いの、決して表に出してはいけない気持ち。今まで心の奥底に無意識に押さえ込んでいたティオに対するこの気持ち。
ミアはその気持ちを必死に隠そうとしたが、どうしても我慢できなかった。しばしの逡巡の後、ミアはポツリとティオに言った。
「……私が宮中伯家に嫁いでも、ティオは一緒に来てくれる?」
「……ミア様がよろしければ、ずっと、どこまでもお供します」
少し驚いた顔をした後、ティオがにっこり微笑んでそう答えた。心なしか、その目が潤んでいるように感じられた。
ミアは、そんなティオの表情を見て、ティオの気持ちが、秘めた想いが分かったような気がした。
「ありがと、ティオ」
ありったけの想いを込めて、ミアはティオにそう言った。
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