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2 宮中伯嫡男の別荘

「変わり者で有名な宮中伯嫡男……どんな変わった別荘かと思ったら、案外普通ね」

 

「ミア様、周りに聞こえますよ」

 

 ミアとティオは、ひそひそ話をしながら、宮中伯の嫡男が住む別荘に入って行った。

 

 宮中伯は、皇帝の側近中の側近で、枢密院の筆頭顧問官を務めている。その嫡男であるロベルトは、22歳という若さで枢密院副書記官長を拝命していた。


 ロベルトには、様々な大貴族から縁談話が引っ切り無しに来ていたようだが、それを断り続けているという噂だった。

 

 そして、貴族同士の舞踏会や茶会に一切顔を出さず、偏屈な変わり者ということで有名だった。

 

 そんなロベルトに、ミアの父親がダメ元で縁談を申し込んだところ、何と一度会ってみたいという話になったのだった。ただし、不思議な条件が付けられていた。

 

「それにしても、どうして副書記官長様は、ミア様に従者一人だけを伴って会いに来いなんて条件を付けたのでしょう?」

 

 案内人に従って別荘の廊下を歩きながら、ティオが不思議そうな顔でミアに小声で尋ねた。

 

「さあね。あまり社交界に出たがらないって話だし、恥ずかしがり屋さんなのかもね」

 

 ミアが小声でそう答えたとき、案内人がドアの前で立ち止まった。

 

「主はこちらの部屋でお待ちです。どうぞお入りください。そちらの従者様もご一緒にどうぞ」

 

「え、私も? 流石に従者である私が同席するのはちょっと……」

 

「いいじゃない、そう言ってくれてるんだし。一緒に入りましょ」

 

 驚くティオにミアが笑顔でそう言うと、ドアをノックした。

 

「どうぞ~」

 

 中から若い男性の声がした。やたらと軽い口調だ。ミアはドアを開け、ティオを伴って部屋の中へ入った。

 

 

 † † †

 

 

 部屋の中は、質素だが居心地の良さそうな書斎になっていた。

 

 部屋に入って左側の壁は一面が書棚となっており、様々な書物が配架されていた。部屋の右側は暖炉だ。

 

 部屋の中央にはローテーブルを挟んで向かい合う形でソファーが置かれ、部屋の正面奥には年季の入った机が置かれていた。

 

 その机の前に、若い男性が立っていた。長身で整った顔立ちに、やや軽薄そうな笑み。どうやら、彼がロベルトのようだった。


 ミアはその若者に向かって頭を下げた。

 

「初めまして、枢密院副書記官長様。私はオルデラ伯爵の長女、ミアと申します」

 

 ミアがそう挨拶すると、机の前に立っていた若者が、部屋中央のソファーに向かって歩き出した。

 

「初めまして、伯爵ご令嬢。ミアさんって呼ばせてもらうよ。俺のことはロベルトって呼んでくれ。後ろに控えているのが従者かな?」

 

「はい、ロベルト様。彼は、私の最も信頼する従者、ティオです」

 

 ロベルトの問いに、ミアが笑顔でそう答えた。


 ミアはティオに言っていなかったが、ロベルトの出した条件は、「ミアが最も信頼する従者を一人だけ伴うこと」というものだった。


 ミアの言葉を聞いたティオが一瞬頬を赤らめたが、すぐにいつもの真面目な顔になった。

 

「そっか。さあ、ソファーにどうぞ」

 

 ロベルトが笑顔でソファーに座りながら言った。ミアがロベルトの向かいに座る。ティオはミアの後ろに控えて立ったままだ。

 

 それに気づいたロベルトがティオに声を掛けた。

 

「従者君も座りな」

 

「え? し、しかし私は……」

 

「ほら、ティオ。ロベルト様がそう仰ってるんだし、遠慮しないで」

 

 ミアにそう言われ、ティオが躊躇(ためら)いながらミアの左手側のソファーに座った。

 

 それと同時に、書斎のドアが開き、若い女性の使用人がお茶と菓子のセットを持ってきた。

 

「おお、ありがと。彼女、アンナって言うんだけど、彼女の淹れるお茶は絶品なんだ」

 

 アンナと呼ばれた使用人が嬉しそうに会釈する。ロベルトがローテーブルに置かれたティーカップを手に取り、一口飲んだ。


 ロベルトに勧められ、ミアとティオもティーカップを手に取る。

 

「アンナさんの淹れたお茶、ほんと美味しいです!」

 

 ミアが笑顔で言った。それを聞いたロベルトが、嬉しそうに軽く頷いた。

 

「だろ? 気に入ってくれて良かった」


 ロベルトが、アンナと呼ばれた使用人に目を向けた。


 アンナと呼ばれた使用人は、笑顔で一礼すると、書斎から出ていった。


 ロベルトが、おもむろに話し始めた。


「さて、ミアさん……ミアさんも知ってのとおり、貴族の結婚は政略の一手段。恋愛感情が入る余地はない」

 

「は、はい……」

 

 以前、婚約相手に一目惚れをしたことのあるミアは、曖昧に返事をした。

 

「とはいえ、生涯の伴侶になるんだ。お互いに気が合わないと辛いしね」

 

 ミアの内心を知ってか知らずか、ロベルトがそう言うと、ローテーブルに置かれた皿から焼き菓子を手に取り口に放り込んだ。

 

 貴族らしからぬ振る舞いにミアが驚いていると、ロベルトが苦笑した。

 

「ははは。俺は子どもの頃から堅苦しいのが大嫌いでね。友達はもっぱら館の近くの庶民の子ばかり。中には貧民窟の子もいた。でも、そういった友達、仲間と遊ぶのが楽しくてね。ミアさんはどう思う?」

 

 ロベルトがソファーの背もたれにもたれかかり、両手を頭の後ろに回しながら、ミアにそう尋ねた。

 

「私も幼い頃は館の近くの子どもとよく遊んでいました。最近は会う機会が減ってしまいましたが、今でも大切な友達です」

 

 ミアが笑顔で答えた。ちらりとティオを見る。それに気づいたティオが小さく会釈をした。

 

「なるほどね……よっと!」

 

 ロベルトが飛び跳ねるようにソファーから立ち上がった。驚くミアに、ロベルトが笑顔で言った。

 

「君とは気が合いそうだ。婚約の方向で進めよう!」

 

「え? ほ、ホントですか?」

 

「ああ、もし君がよければだけど」

 

「ありがとうございます! 是非とも」

 

 ミアは立ち上がり、笑顔でそう答えると、ロベルトに頭を下げた。

 

「決まりだね。それじゃ、今後に向けた事務的な打ち合わせをこの従者君とするから、ミアさんは応接室で待っててもらってもいいかな?」

 

「は、はい。分かりました」

 

 ミアがそう答えると、見計らったように書斎のドアが開き、先程の案内人が現れた。


 ミアは、案内人に連れられて、応接室に向かった。

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