【3】
“何”で、私じゃないんだろう…。
同じ血が通ってるのに、先生は、一向に私を見ず、お姉ちゃんばかり見ている。ソレはもう、四六時中、とばかりに…。
――苦しいよ。胸が、ギュッて…、締付けられるの……
もうすぐ私は卒業する。学校と別れる、という事は、先生とは他人になる。お姉ちゃんを通さなきゃ、先生と接する機会が無くなるわけで、ソレは詰り――先生とお姉ちゃんの距離を、縮める行為に過ぎない…。
「………そんなの、嫌…っ」
「……何が? 」
「ぎゃあっ!? 」
影が落ちてきたかと思うと、頭上から降ってきた声に私は驚き、奇声を上げる。
「……何、其の反応…。先生、傷付いちゃったんだけど…」
「いっ…、行き成り先生が話掛けてくるからでしょッ! ……って!? 」
「!」
振り返ると、予想していたよりも先生の顔が近くにあって、私は頭の中が真っ白になる。
――何、コレ……
状況が掴めず、ボーっと先生の顔を見詰ていると、――あれ?
段々顔が近付いてる様に見えるけど、気のせい? まさかね。そう思っていると、唇に、柔らかくも、熱い感触が伝い――。
――え?
「! ……悪ぃ…っ」
焦った声とともに、視界いっぱいだった先生の顔は、離れていく。
――さっきの、って…
私は、人差し指で唇をなぞる。其処は、熱を孕んでいた。
ドックン、ドックンっと、何時もよりも早い鼓動。
「………すまねぇ。手ぇ、出しちまって…」
「…………もっと…」
「……え…? 」
「……先生と、もっと、チュウしたい…っ」
そう言うと、先生は顔を悲しげに歪め、首を横に振った。――ソレは出来ない。そう語っていた。
何で?
訊こうと思ったけど、止めた。どうせ、「俺達は教師と生徒の関係だろ? 」って、はぐらかされるのが目に見えてるから。
「先生は、お姉ちゃんしか、見えてないんだね」
「……………」
「好い加減、諦めたら如何ですか? 叶わない恋したって、辛いだけですよ」
「……そんなのっ、御前に関係ないだろ! 」
「………関係…なくない、もん…っ」
「何言ってんだおま――」
「好きなんだよ!先生の事が! 好い加減に気付けっ! こンの鈍感ヤロー!! 」
固まった先生を視界に捉えた途端、逃出したい衝動に駆られた私は、彼を置き去りに、此の場を逃げ去った。――その勢いで、学校を飛出し、自宅へと向かう。
言ったもん“勝”ち
“先生の答えなんて、もう、如何でも好くなっていた。――どうせ、結果は見えてるし。だから、今迄の想いを込めての、勢い余っての告白は、私の中で、多少は満足していた。”
初出【2013年2月14日】