表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4

 授業が始まって数日、教室でのジェニア様は多くのご令嬢に囲まれていた。それもそうだろう、彼女は公爵令嬢で王太子殿下の婚約者という立場、彼女に取り入りたい家門は少なくないはずだ。親に言われて親しくなろうと躍起になっている人たちの中に入る勇気は私にはなかった。


「どうして教室で話しかけてくださらないの!?」


 そう私の部屋に突撃してきたジェニア様に、他のご令嬢方に睨まれるのが怖いと伝えると、少し考える素振りをして「確かに」とあっさり納得してくれたのは幸いだった。

 しかし、後ろ髪を引かれる思いはあるのか、こちらの様子を気にされているようで度々目が合う。今だってちらっとこちらを見て、慌てて話しているご令嬢の方を向いた。一緒に行動しているヴィルはそんな様子を見て「混ざってきたらいいのに」と笑う。


「ヴィルが他のご子息と交流しに行くなら私も行くわ」

「えぇ……リネアがそんなに僕といたいならこのままでいいよ」


 結局、揃って新しい交友関係に消極的なのだ。

 ジェニア様を取り巻く人たちを見て分かる通り、おべっかを使って相手の機嫌を取り、笑顔を貼り付けて腹の探り合う、これから社交界に出れば当たり前なのだろうけど、そんなことを在学三年間も続けるのは億劫だった。既にジェニア様に目をつけられてはいるけれど、今のところ教室で話しかけられることはないし、予防線を張ったから他のご令嬢にやっかまれることはないだろう。ただ、思うところがあれば、躊躇なく寮の私室に押しかけてくるので、それが知られれば糾弾される可能性は高い。事実がどうであれ、傍から見たら田舎者の子爵令嬢が権威ある公爵家のご令嬢を呼びつけているように感じるだろう。

 そう考えたら、今の状況も大して安心できるものではないように思えた。思わず頭を抱えると隣から「大丈夫?」と声をかけられ「大丈夫じゃないかもしれない」と答えた。

 ヴィルは「なるようになるよ」と他人事のように言った。



 話は変わるが、この学級にはジェニア様の他に目立つ生徒がいる。具体的に何が目立つかといえば髪色だ。ジェニア様から聞いたところ、この世界を舞台にした乙女ゲームの主要キャラにはモチーフカラーが設定されていて、それが髪色と相関関係にあるらしい。私を含め大半の人間が濃淡はあれどブラウン系の髪色をしているのに対し、ジェニア様が黒、王太子殿下が緋、ヴィオラお姉様が紫といった風にだ。例外として、ヴィルはモチーフカラーが紫のお姉様と血縁者なので彼女より濃い紫の髪をしている。

 ジェニア様から聞いた情報と照らし合わせて確認できたのが、ペールピンクの髪をしたラヴァン侯爵令嬢、彼女がゲームの主人公だそうだ。ジェニア様とは対象的に柔らかな雰囲気で可愛らしい容姿をしている。元々貴族令嬢として育っているわけではないからか、周りとは馴染めていないようで一人でいることが多い。実際、彼女が庶子というのは知られていてヒソヒソ陰口を言われているのだから居心地は悪くて当然だろう。ゲームのヒロインがイジメられている現場に悪役令嬢の主人公が居合わせてをそれを見咎め一喝し懐かれるというのが悪役令嬢モノでは一つのパターンとなっているが、ジェニア様は以前「ヒロインのフラグを邪魔したくない」と言っていたからあまり関わる気はなさそうだった。

 もう一人が翡翠色の髪をしたシノープル男爵子息、騎士から身を立てた家門らしく騎士道に溢れた人物で、ラヴァン嬢が面倒な相手に絡まれているところに割って入り庇ったことをきっかけに仲を深めていくというストーリー展開で、シノープル卿が騎士の誓いをするところがとにかくいいとジェニア様が熱く語っていた。

 最後は生徒ではなくブロンド髪の担任教師グラーノ先生、侯爵家の三男で生徒を教え導くなどという崇高な志ではなく、在学中に座学の成績を見込まれ流されるまま教師という職についたタイプらしい。彼の手伝いをする選択肢を優先して選んでいくとフラグが立ち、選択肢をひとつでも間違えると攻略に失敗するのよねとストーリーの内容より攻略難度の方がジェニア様の印象には残っているようだった。

 あと、三年生の王太子殿下とジェニア様の異母兄――夜明け前のような青藍色の髪をしているらしい――以外に二年生にオレンジ髪の攻略キャラがひとりいるそうだが、「チャラくて、私の好みではなかったし、ストーリーも他と比べて薄かった印象であまり覚えてないのよね」と話していた。

 把握はしたものの、今後、ラヴァン嬢やシノープル卿と私が直接接することはないだろう。ジェニア様はゲームの強制力とかで厄介事に巻き込まれることがあるかもしれないが、私は所詮モブなのだ、前世があろうと強制力に干渉される対象ではない、と思う。

 ただ、オタクの精神はあるのでラヴァン嬢がどういう選択をして誰との仲を深めていくのかは興味があった。悪趣味ではあるがほどほどに観察はさせてもらおう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ