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 次の休みにピクニックに行こうと提案してくれたのはヴィルだった。先日のお茶会での出来事を話したから気晴らしのつもりで誘ってくれたのだろう。当日になって、お姉様が郊外への外出許可と授業で使用している馬の貸与を学校に申請してくれていたのには驚いた。それと同時にパンツスタイルを指定された理由もわかった。乗馬の授業は二年生からだが、ヴィルも私も入学前から乗馬は嗜んでいる。アンが留守番を申し出たのは先にこのことを聞かされていて自身は馬に乗れないからということだったのかと合点がいった。

 貸与された馬は、授業で使用するからか大人しく初心者でも扱いやすい子をよりすぐっていることが感じられた。私がお世話になる子は栗毛で額から鼻先にかけて白いラインが入っており、長いまつ毛と伏し目がちに見える目元がセクシーな印象を受けた。よろしくねと顔を撫でると鼻を鳴らして返事をしてくれた。

 お姉様の先導のもと、王都の北側に位置する木立に入り、少し進むと開けた場所に湖が広がっていた。透明度が高く水底の砂利や岩、沈んで藻に覆われた倒木まではっきりと見え、その上をスイーっと魚が泳いでいった。


「わあ……」

「いい場所だろう、徒歩だと少し距離があるけど自然に触れたくなったときに来るんだ」


 青い匂いを運んできた柔らかい風がお姉様の長い髪を揺らす。

 湖に沿ってぐるりと回り、座りやすい場所に腰を落ち着けた。お姉様が侍女に作ってもらったと持参していたサンドイッチをいただいて、彼女はもう少し馬を走らせてくると言って木立の向こうに走っていった。残されたヴィルと私は湖畔の水際に座ってのんびりと過ごしていた。靴を脱いでズボンの裾を上げて水面に浸した足がひんやりとして心地いい。四方から聞こえてくる鳥の声やたまに水面を跳ねる魚、風に揺れる葉擦れの音が穏やかな気持にさせてくれる。


「ヴィル、ありがとうね」

「どういたしまして。まあ、プランの大体は姉さんが考えてくれたんだけど」

「そうだよね、だってヴィルが自分から乗馬に誘うなんて考えられないもの」

「領地の見回りとかで必要なのはわかってるけど、馬に乗るのは疲れるから」

「馬の高さから見る景色とか風を切る感じ、私は好きだけどな」


 それは僕も嫌いじゃないけどと言うヴィルは複雑そうな表情をしていた。彼は本来、自分で体験するよりも本に埋もれて知識の海に溺れている方が好きなのだ。本人としては図書館デートとかをしたかったのだろうけど、今回は私の好みを優先するためにわざわざお姉様に相談して今日の企画をしてくれたと思うと嬉しかった。

 パチャパチャと足の裏で水面を叩く。本当は湖に飛び込みたいくらいだけど、水着は持ってきていないし、何より透明度の高い湖は水深が見た目からは測りづらい。浅く見えても足がつかないほど深いなんてこともあるらしい。だから足先だけで我慢だ。

 背中を地面に預けるように倒れ込んで目を閉じて大きく息を吸い込むと土と草の匂いがした。暖かい陽射しに意識が微睡んでいく。撫でられている感触に思わず猫のように頭を押し付けた。

 気がつくと眠っていたようで馬の足音で目を覚ました。緩々と身体を起こし、戻ってきたお姉様の姿を確認して、水に浸かったままだった足を引き上げると間髪入れずに隣からタオルを差し出されてありがとうと受け取る。


「二人ともゆっくりできたみたいだね」

「はい、ありがとうございます。寝ちゃってごめんねヴィル」

「本読んでたし、そんな長い時間じゃないから大丈夫だよ」


 さて、と馬の上からお姉様がそろそろ戻ろうかと言った。馬を借りての外出だしあまり遅くなるのも望ましくないだろう。パパッと靴を履いて、足元の草を食んでいた馬に帰りもよろしくと声をかけて繋いであった手綱を外した。

 帰りも行きと同様お姉様が先導してくれてあっという間に学校へ戻ってきた。行き帰りの短い時間だったけれど、私を乗せてくれた子を馬房に戻して別れるのは少し寂しく感じた。カントリーハウスの厩舎で自身の馬の世話を率先していた私にはここの空気感も懐かしくあったし、たまに動物に触れたくなったときには覗きに来てもいいだろうか。

 今日はありがとうと声をかけて顔を撫でると、ブルンとひと鳴きして応えてくれた。


 夕食後には、久し振りにジェニア様が私の部屋に訪れて、


「ヴィオレッタ様と乗馬なんて羨ましい! どうしてこの世界にはカメラやスクショ機能がないのかしら!」


とまくし立てていった。

 どうやら今日は王太子殿下とのお茶会の日だったらしく、その帰りにたまたま見かけたらしい。お姉様のパートナーは青毛の馬だったのだけど、それも凛々しくてかっこよかったとお姉様賛称に余念はなかった。


 後日、教室で一波乱あることをこのときは思いもしなかった。

結局筆が進まず短いです、幕間ということでひとつ

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