表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすの空、きみに青い旋律を  作者: 陽野 幸人
終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/71

終章 2

 大詩。また……来たよ。

ね、聞いて。あの時とは変わったことがあるの。

前に来た時は塞ぎ込んでいて誰の言葉も耳に入れたくなかった。今は……違うよ。

――大詩が想いを託した子たち。

優詩くん、美波ちゃん、凛花ちゃん、悠馬くん。

大詩が繋げてくれたんだよね。手紙……優詩くんに見せてもらったよ。

いつも私のことを心配してくれてたよね。自分のこと、もっと考えてほしかった。

でもね……すごく嬉しかった。嬉しかったよ。

今度は大きい報告をできるように頑張るから。空の上から見ていてね。


 目を開けて振り返ると四人の温かな眼差しがある。


「――みんな……行こっか」


 石畳が敷かれた道を歩く。

みんなが私の前を歩いて明るい空が心を照らす。


 ライブが終わった後の後夜祭で優詩くんが教えてくれた。

初めて会った時に演奏した楽曲に対する彼なりの解釈を。




『過去は間違いなく存在する。記憶には愛した人が待っていてくれる。

いつでも会えるから大丈夫』




 息を小さく吸い込んでワンコーラス歌う。あの時とは違って、まったく怖くない。


「――――――」


「えっ? なんすか? その曲? 新曲っすか?」


「この曲……知らないなんて……音楽やってるのに……」


「うるせえよ……! 広く知ってりゃいいわけじゃねえよ! 眼鏡女!」


「基本……だもん。音楽史に残る名曲。それを……知らないなんて、おかしい……」


「名曲とか音楽ジャンルとか、どうでもいいんだよ!

バンドやる上で重要じゃねえよ! 音楽に詳しいからってなんなんだよ?

専門家にでもなりてえのかよ、バーカ! パンクじゃねえーな!」


「パンクだもん……! これから……もっとパンクになるもん……!」


「パンクじゃねーよ! 大体、パンクってなんだよ!」


「悠馬……静かにしろ。墓で騒ぐなよ」


「優詩先輩。こいつパンクって言葉に酔ってるんすよ。

そういうやつが一番パンクじゃねーんすよ。気にしてる時点で違くないっすか?」


「私……パンクだもん……!」


「金本くん……島崎さんをイジメないでね。

女の子に酷いこと言ったりバカにする人は最低よ」


「はい、すんませんっす……」


「ふざけているのは……わかるけど。校長室では島崎さんのこと庇っていたじゃない。

普段から、もう少し思いやりのある言葉をかけてあげたら?

そうしたほうが良いよ。金本くんは優しい人なんだから」


「わかったっす……つか、俺のこと見てくれてるんすね!

それって気になってるってことっすよね?」


「…………。島崎さんも喧嘩腰になるのはよくないよ。私たちバンドメンバーでしょ?」


「でも……でも……いつも私のこと……バカにしてきます……」


「それは裏返し……ね。照れてるのよ、金本くん。女の子好きだから」


「いやー、それはねえっすよ。島崎は、ねえっす。

根暗で眼鏡じゃないっすか。少しぐらいエロい身体してるからって俺は無理っすね。

優詩先輩もそう思うっすよね?」


「思わないよ。それに……凛花ちゃんは悠馬が思うよりも多くの人に好かれてる」


「なんすか、それ。この間のライブのことっすか? あっ……あれっすか?

最近、教室でやってるギャンブルで島崎が勝ちまくって、人気があるってことっすか?」


「ギャンブル?」


 優詩くんと美波ちゃんの声が綺麗に重なった。


 背後から風が強く吹いてくる。

持ち帰る桃の甘い香りが微かに上ってきた。先を歩くメンバーの背中を見つめる。


 私は……ゆっくりと振り返った。


 うん。大丈夫……大丈夫だよ。歩いていけるよ。

過去の痛み、深い傷は二度と消えない。ずっと心に残るものだから。

でも……悲しい記憶だけじゃないんだよ。大切な思い出がある。

私は『大切な思い出』と『今の幸福』を抱きしめるよ。


 大詩が私に残してくれたもの。確かに存在しているよ。

時々、相談してもいいよね? その時は、いつもみたいに笑ってくれる?

それと……私のこと愛しているのに一度も直接言わなかったよね?

反省しろ、この変態! バカ……!


………………。


 助けてくれたこと。抱きしめてくれたこと。

忘れないよ。私のことをいつも助けてくれて……ありがとう。


 身体を前方へ戻すと、みんなが私を待っていてくれた。


「姉さん、行くっすよー」


「悠馬の店で、ご馳走してくれるみたいです」


「詩織さん、行きましょう」


「お、お好み焼き……一緒に食べたいです」


 これからも痛いこと、悲しいことはある。


 それでも生きていく。


 私は一人じゃないから。


 彼に……届くかな。


 みんなに……届くかな。


 届いてほしいな、私の気持ち。


 瞬きを一つして声を出す。


 明日の空を迎えられるように。











「うん、ありがとう! みんな大好きだよ……!」






      あすの空、きみに青い旋律を 


           






お読みいただきありがとうございます。

あなた様のレビュー、感想、ブックマークを

お待ちしておりますので、応援の程よろしくお願いいたします。


面白いと感じていただけましたら、下部にある

☆☆☆☆☆を使用して評価をお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ