表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あすの空、きみに青い旋律を  作者: 陽野 幸人
第六章 再生の音色

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/71

再生の音色 4

            *



 翌夜、薄暗い部屋に俺はいる。

画面の明るさが際立つSNSを開いて時が来るのを待っていた。

黒を基調とした画面から音が飛び出してくる。

荒々しくも美しい旋律。兄さんの音色だ。

ライブ配信を待つ全国のファンは固唾をのんでいるだろう。

画面が切り替わって白壁を背景に一人の女性が口を開いた。


「こんばんはー! セックス・ライフルズのシイだよ!

みんなの前に出るのは一年ぶりだね! 今……こいつ誰だよ、って思った?」


 セックス・ライフルズ時におけるメイクではない。

普段から見慣れる詩織さんの姿があった。


「私は正真正銘シイだよ。これは公式アカウントだから。

みんなに伝えたいことがあって配信してるよー」

 

 目にも留まらぬ速さで画面の文字が流れていく。


 シイー!


 ひさしぶりー


 堕天使様のナチュラルメイクかわいすぎる!


 知らない女で草 


 声が堕天使の叫びじゃなくね?


 堕天使様が復活されたー!


 タイシくん……今でも大好きだよー!


 シイ様、久しぶりー!


 愛してるよ!


 ギターが死んで活動してなかったんだよね?


 オワコンで草


 堕天使復活!


 タイシがいないんじゃ聴く気にもなれねえ


 死人商法やろうとしていて草


 シイ様、かわいいー!


 同時接続者数に目を向けると七十万人を超えている。

ファンであったり、興味本位であったり、アンチテーゼを持つ者であったり様々だろう。

B.M.Tのメンバーも画面を通し見守っている。


「おー、みんなコメントありがとー!

でも、大詩のこと悪く言ったら、ぶっころ……あっ、これはまずいね。

悪く言ったら殴るからねー! 覚悟しとけよー」


 かわいい!


 キャラが迷走してるw


 堕天使の叫び声聴かせてー!


 オワコンバンドのボーカルかよ


 かわいいんだけど!


 今の方が好みー


「あのね、私……セックス・ライフルズとは別にバンドを組んでいます」


 いきなりの告白w


 パンクとかいって結局は商業で草


 人の死を利用した飯はうまいかい?


「そのバンドは……高校生の子たちと一緒にやっています」


 未成年略取!


 シイ、大好きー!


 学生とバンドとか落ちぶれていて草


 でしゃばんな、カス!


 堕天使様ー! 久しぶりー!


「その子たちと過ごした夏が……とても楽しかったの。

私は……大詩が亡くなって……音楽を辞めてたのね。

応援してくれる、みんなの声からも逃げてた。ごめんなさい」


 逃げ腰!


 そんなことないよ!


 シイの声は勇気をくれるよ!


 タイシ利用されてて草


「色々なことがあっても……私は音楽が好きなんだなって。

大詩が教えてくれた音楽を嫌いになんてなれない。

私の歌声を好きって言ってくれた、みんなに届けたい」


 シイ様! がんばってー!


 泣かないでー!


 いつでも大好きだよー!


「みんなに届けたい……私が感じたこと……私が見てきたもの……」


 独りよがりで草


 押し付けんなよ、カスが


 届けてー! シイ!


 好きだよー


「今度、チャリティーライブをしようと思います。

――偽善といわれてもいいです。

大詩が望んでいた世の中に少しでも近付きたい。

懸命に練習していた子たちに演奏の場を用意したい」


 堕天使様ー!


 私たちは応援してるよー!


「みんなの……力を貸して……私たちだけじゃ無理なの。

大詩が……私たちと……みんなを繋げてくれた音楽だから、ちゃんと届けたい」


 どこでやるの?


 絶対に行くよー!


 死人に口なしで草


 メンバーの死を利用すんなよ


 泣かないでー! 好きだよー!


「場所は穴来高校というところで文化祭ライブに出演します。

体育館だから……あまり人は入れません。

学校関係者は勝手なことを言って怒るかと思います。

でも……私は今、伝えたい。逃げてばかりじゃ前に進めないから」


 見に行くよー!


 落ちぶれすぎて草


 た、体育館?


 箱が小さくて哀れなんだけどw


 絶対に行くよ!


 学校側迷惑で草


 泣いている姿もかわいくて草


 行くよー!


「さっきから変なコメントしてるやつ! いいから見に来いよー!

きみたちの心に溜まった苦しい想いを吹き飛ばしてやるから!

あんまり、ちょーしに乗んなよー!」


 急にキレてて草


 私は絶対に行くよー!


 情緒不安定やんけw


 歌よりも抱いてほしい


 シイの生歌聴きたい!


「みんな、楽しみにしていてね!

大詩が願っていたことを絶やしちゃいけないから……!

私は絶対にライブをやりたい……!」


 必ず行くよ!


 結局、死人商法


 わたしも絶対に行く


 学生バンドかー。ひょっとこがいないなら行くw


 応援してるよー!


 昔、ひょっとこに殴られてバスドラに刺されたw


 タイシくん、シイちゃんがんばってるよー!


 もうタイシのギター聴けないんだよね……


 ひょっとこが暴れたら箱も壊れるw


 タイシが草葉の陰から泣いてるぞ


 タイシくんは応援してるよー!


 タイシが見守ってるよ!


 シイちゃん、素敵な声待ってるよー。


「みんな色々なコメントありがとー!

しっかりと受け止めるから……ライブ見に来てね!」


 開始前の画面に戻ると会場と日付が大きく表示された。


 これでよかったのか……それはわからない。

俺も詩織さんと想いをは違えど確かなる意思を持っている。

彼女は俺たちに演奏の場を用意したい。

兄さんの子どもたちに対する想いや世の中に対する想いを繋げていきたい。

俺にも……それらの意思はあるが、それよりも果たしたいことがある。

文化祭ライブ中止、部活動停止。


 俺は……逃げていた。


『人は逃げてはいけない時がある』


 兄さんから教わったんだ。


 配信が終わったスマートフォンの画面から目を離す。

机に置いてある白い紙を見つめた。

一年前から置いてある。いつも俺のことを見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ