序章
風に音が乗って、果てしない空を飛び回る。
鳴り止まない拍手と熱を放出する観客。
それは声であり、汗であり、心の声でもある。
歌声、ギター、ベース、ドラム、キーボードから生まれた旋律は、地面と肉の細胞に吸い込まれていった。
何度も蹴り飛ばされた大地は、昨日まで考えたことがなかったと思う。
ちっぽけな人間に、自身という大きい存在を激しく攻撃されるなんて。
青春の光を何粒か垂らしたバンドメンバーが、舞台袖で私を迎え入れてくれた。
振り上げられた手のひらは、歓喜の出会いを待ち焦がれている。
触れ合うたびに……心が飛び跳ねた。
「みんなー、やったねー!」
「うえーい! 最高っすねー!」
「た……楽し……かった……ですね」
「そうね。バンドとして、人前で演奏するのは初めてだったけど……とても、楽しかった」
「……オール……! ……コール! アン……コール! アンコール! アンコール!」
楽曲を催促する声援が広がる。
不揃いで無骨であった音が、徐々に整然とした合唱になっていく。
大海の波がステージに押し寄せる。
醒めない夢と興奮を手にした観客、メンバーは求められることへの喜悦を手にしていた。
「ど……どうします……か? アンコール……」
「いくしかないっしょ! アンコール! アンコール! ライツ! ナウ! ナハハハ!」
「――オリジナルは、すべて演奏したから……どうするの?」
「うーん、そうだね……それじゃあ、あの曲でいこうよ! 私達が初めて合わせた……あの曲で! いいでしょ? ねっ!」
*
ねえ……聞こえている?
あなたが私たちに『繋いでくれた想い』なんだよ。
人の出会い……巡りあいって、偶然じゃないって思うんだ。
『軌跡』と『奇跡』の交わり。
私たちの想いを乗せた音楽は、きっと誰かに届いてくれる。
もう一度、私に歌わせてくれて……ありがとう。
――ねえ、聞こえているよね?
届けたい音。届けたい言葉。届けたい想い。
少しでもいいから、みんなにも届くといいな……。