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04

昼休みは中山さんは近所に住んでいるため家に帰って昼食を取るらしい。私は自分のデスクでお弁当を食べた。何人かの営業さん達と挨拶程度の会話をした。

昼休みがあけるころ、中山さんは自分のデスクに戻ってきた。


「じゃぁね、レクチャー的なのの続きしましょうか?」

「よろしくおねがいします。」

「はい、まぁ昼飯食いながら考えたんだけどね、架空の課題だと、しらけると思うので、本番の作業をやってもらおうかなと思うんだけど。」

「え! 無理じゃないですか?」

「いやいや全部じゃなくて、僕の仕事の一部分を手伝ってもらおうかなと思ってるんだけど、横で教えながやっていくので、挑戦してくれる?」

「はい、頑張ってみます。」


というわけで、私は生まれて初めてグラフィックデザインの一部を、お手伝いという形で体験した。

チラシの裏面の下の部分にある、お問い合わせ先や住所や電話番号などをタイピングして、横から中山さんが指示をして、言われる通りにマウスを動かして、書体の種類や大きさやを変更し、言われる通りに配置した。

中山さんはと言うと、私に指示をしながら、自分のマシンでは、それ以外の部分をデザインしているようだった。


「はいありがとう。お問い合わせの部分をやってもらって助かりました。言われるままやってもらったから、どういう理由で自分がこの操作をしているか、わかんない部分が多かったよね?」

「はい、まさに」

「うんうん。まぁ、体験してもらったってことです。言われる通りにマウスを動かせるってことは、すごい技術です。」

「そうなんんですか?」

「そうよ。大したもんよ。で、本日の大切なことを言っていい?」

「はい、おねがいします。」


「今、小畑さんがやってくれた部分、お問い合わせ先とか、電話番号とかね、デザインしてるなー、って感じした?」

「いえ、言われるままにしていたので、そういうわけでは、、、」

「だよね。しかもお問い合わせ先とか、電話番号とかって、誰がデザインしても一緒で、一言でいうと、面白くない箇所だったよね?」

「まぁ、そうですね」

「うん。今回のチラシのね全体のデザイン、ちょっと見てくれる? 保険会社の表裏のチラシで、表面はカラフルで、見る人にアピールする部分で、裏面はカラフルじゃなくて、色々な決まりや、数値的なことや、表とかね。そしてお問い合わせ先ね。」

「はい」

「クソ面白くない部分が多いよね?」

「面白くないと言うか、なんというか、必要な部分?」

「そうなの。必要な部分なの。今回は保険のチラシだから、お金の数値も記載されていて、非常に大事な部分だよね。創ってる方はクソ面白くないけどね。」

「はい」


「でね、グラフィックデザインは、7割くらい、こういう、面白くないと言うか、地味な部分を作る作業なのね。この地味な部分がしっかり作れているから、表面のカラフルで見る人にアピールする部分が意味を持ってくるみたいなね。」

「はい」

「グラフィックデザイナーってカタカナ職業で、かっこいい感じするけどね、実際は超地味。嫌になった?」

「いや、そういうわけではないですけど、そう言われれば、全部創るのだとすれば、派手じゃない部分のほうが多いですね」


「そうなのよ。でね、多分信じられないかもしれないけどね、こういう地味な部分をデザインする作業を続けていくと、華やかな、カラフルな部分のデザインの腕も上がっていくのよね。」

「え? よくわからないです。なぜなんですか?」

「ね。昔僕も先輩から言われて少し疑ったことがある。先輩が面倒なことを後輩に押し付ける口実じゃないかって。でもそうでもないのよね。当時の先輩や今の僕にとって、その面倒なことって、そんなに面倒じゃないのよ。」

「そうなんですか?」

「まぁ、少しは面倒だけど、仕事としてはしんどい部類じゃないのよね。そういう作業をたくさんやってきてるからね。後輩に押し付けるくらいなら自分でやったほうが早いのよ。」

「はぁ」


「小畑さんは美大でセンスとか発想とか才能とか、そんなことについて考えたことはあると思うのね。でもね、この仕事、そんなことよりも“数”なのよね。手を動かした時間、案件に向き合って考えた時間、ようするに“数”なのよね」

「経験ってことですか?」

「あ、今、少しムッっとした? 経験といえば経験だけど、1年2年っていう、年数ってことじゃないのよ。」

「ムッっとしてないですよ。年数じゃないんですか?」

「年数じゃないね。手を動かした時間、っていうのは、そうなんだけど、ダラダラ年数を費やすことではないのよ。効率的に手を動かして、考えて、ってやっていけば、デザイナー歴3年とかいう人がいても、半年で並べる事もできる感じかな。そのデザイナー歴3年の子は考えてないので、半年で並ばれて、1年後には抜かれてるってイメージかな。」

「よくわからないのですけど、もしよろしければ、特急で育成をお願いしたいです。」

「もちろん! リニアでいきましょう!」


この会話で、私は中山さんに私の育成をすべて任せようと思った。というか、今日が初日の初心者の私にはこの人しか頼る人がいないし、少しノリが軽いおじさんだけど、就活全滅の私にはこの人しか選択肢がなかった。


その後、レクチャーは世間話のような話題で、初日の就業時間の終りを迎えた。

中山さんは世間話をしながらも、いくつかの案件を処理していたようだ。


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