飼いならす
あら、私に御用? 夫と別れて欲しい?
あらあら、またですの? 懲りないですわね。
では、慰謝料をお支払いするのでお帰りいただけます? うちの夫が迷惑をかけた詫びです。どうぞ、受け取って?
狼狽えないのかって? 何度目だと思ってらっしゃるの? あなた一人なんてわけないでしょう。
あなた方の概念にはないでしょうけど、男というのは浮気をしないものはいないんですって。一度や二度くらい見逃せというお話よ。もっとも夫は数が多すぎるのですけど。
そんな話、ただの愚痴にすらならない。
泣きわめかないでちょうだい。頭が痛くなるわ。
え、子供がいる。
そう、かわいそうに。
病院に連れて行ってくださる? そう、いつものところにね。
言わなければ、しばらくは、静かだったでしょうに。
本当に困りものだわ。
さあ、部屋を乱してちょうだい。さっきの方は暴れていったの。私は、そうね、頬を叩かれて泣いているの。
旦那様は、誰にも渡しはしませんと気丈に言い張った、それでいいわね。
あんな浮気者の旦那様のどこが良いのだと? あら、あなたからそんなことを聞くなんて。子供なんてひどすぎる。確かにね。
本当に、旦那様の子かどうかも怪しいけれど、怪しければ抹消すべきでしょう。
誤魔化してないわよ。
ええ、ろくでなしの人でなし、そう確かにそうね。
だから、私は、やさしくしてあげるの。あなただけとその望みを満たしてあげる限り、彼はここに戻ってくるの。
そうする価値? ろくでなしなんていなくていいって過激ね。
あの人がひどいほどに、私は、かわいそうなお姫様でいれるの。おいたわしいと言われ、許せば心が広いと称賛される。
とても心地よいわ。
愚かと笑われる? それが? 離縁して次の男がまともと限らないでしょ? 奥さんを殺す男はいっぱいいるの。夫を殺す妻もね。
心を殺して、殺しつくして、それでも、意味は、ないでしょうに。
落ちぶれていく、壊れていくものを見るのは、とても。
さあ、旦那様が青ざめてやってくる前に、全て済ませてしまいましょう。
気分良く過ごさせてあげれば、いいのですよ。
愛しい旦那様のためですもの。いくらでも、頑張れますわ。