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第二話 銀の硬貨に導かれ

 友人と手を振り合ってからも、しばらく葵はその場で立ち尽くし、鳴り止まない蝉の声をBGMにガチャポンのラインナップと睨み合っていた。そっと中身の容量を確認するように顔を傾けてみれば、まだまだカプセルはたくさん閉じ込められている。

 ショッピングモ―ルにあるようなカプセルトイが立ち並んだ場所では無く、本当にお店をやっているのか見た目ではわからない、ガチャポンの種類だって少ない個人経営の駄菓子屋の表に葵が足を運んだのは、たくさんガチャポンが残っているここならば目的のモズも残っているのではないかという期待があったからなのだが、今はそれが裏目に出てしまっている気がしてならなかった。

 確かにモズはここにいるかもしれない。けれどたぶん、モズ以上に他の鳥たちが溢れかえっている気がする。


「……ソフトクリーム、食べに行くかあ……」


 結局、滴り落ちる汗にうんざりした葵は、泣く泣く手に持っていたがま口財布をパチンと閉めた。のだが。


「あ」


 ちゃりん、と音をたてて、葵の手元から百円玉が転がり落ちていった。

 夏の日差しが、坂道を転がる硬貨に光を弾かせる。


「ま、待って!」


 慌てたように、葵はコンクリートの上を走る百円玉を追いかけた。

 補装されているとはいえ、地面のコンクリートはあちこちがひび割れて、その隙間から雑草たちが逞しい根性を日の下に見せつけている。だというのに硬貨はあっちこっちでスケートボード選手のように跳ねあがっては技を決め、そのたびにきらりと太陽の光を反射させては、葵の目を眩ませながらどんどん先へと転がっていく。

 走りながら、車通りの少ない道で良かったと葵は思った。

 一円を笑う者は一円に泣くというけれど、笑っていない前提の上に百円だったらもっと泣く。がめつくて結構、見失うくらいならせめてソフトクリームかガチャポンに変身させてほしい。

 もはや執念にも似たそれで追いかけていけば、やがて百円玉は勢いを失って、ついにスピンを決めるなりその場でぱたんと倒れ込んだ。それを、まるで歌留多を取るようにぱちんと手のひらで上から抑えつけた葵は、ほっと安堵の息をつく。


「つ、捕まえた……」


 道中、側溝に落ちなくて良かった。付け加えれば、ここにくるまでに誰ともすれ違わなくて本当に良かった。翻弄されるまま散々走ってなんなら知らない道や階段などを下ったような気もするが、どうせ田舎道、どこか大きな道路を目指せば元の場所には戻れるだろうし、そもそもスマートフォンで位置情報と地図を照らし合わせれば現在地など一目瞭然だ。

 走ったせいで身体が熱い。そもそも前提として気温から暑い。入道雲は高くそびえたてど、まだまだ雨の気配も無い夏日に、いっそソフトクリームじゃなくてかき氷系の頭にキンとくるものを買ってしまおうかと葵の中でさらに迷いが生じ始めたそのとき。


 百円玉を拾い上げ、顔を上げた先に――葵は、ふと、目の前のものに意識を吸い寄せられた。


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