第三十四手
昼過ぎ。今日は水那が台所で漬物を作っていた。
すると水那が、居間で飼い猫のさくらと寛いでいた月影に声をかける。
「お兄、漬物に重石置きたいから、庭からいい感じの石持ってきてくれる?」
「ん? ああ」
庭に出る月影。
「なんかいいのあったかな」
ふと離れた所に石が置いてあるのが見えた。
「あ、コレでいいや」
*
「よくあったね、こんなにいい感じの石」
「前にビアンカから貰った石だよ」
「『ビアンカ』って前に依頼に来てた人?」
「ああ。あの時は『いらねぇ』って思ったけど、まさか役に立つ日が来るとはな」
「ありがとね。今はこんな物しかないけど、はい、コレあげる」
月影は水那から「ポケットティッシュ」を貰った。
「フッ、まぁ貰っとくよ」
水那が月影の耳の中を覗き込む。
「なに?」
「お兄、また耳掃除サボってるでしょ!」
「忘れてたんだ。あとでやるよ」
「ちょっとこっちに来て!」
水那が月影の手を引っ張る。
*
居間のソファ。
「ここに頭乗っけて」
ソファに座った水那が膝に頭を乗せるよう促す。
「もう耳掃除ぐらい自分で出来るっての」
「いいから座って」
手を引っ張り、半ば強引に右耳を上にして月影の頭を自分の膝に乗せる。
「それじゃ、耳かきするからあまり動かないでよ。痛かったら言ってね」
「ああ」
「梵天」の付いた竹製の耳かきを取り出す水那。
因みに「梵天」とは、匙の反対側に付いたタンポポの綿毛の様な部分のこと。
水那が耳かきを始める。
すると、月影は耳かきを始めてものの数分で眠りにつく。
「グー、グー」
(もう寝ちゃった。午前中は仕事に行ってたし、よっぽど疲れてたんだ)
それから一通り終え梵天で耳の中を掃除しようとする。が――
「あ」
梵天がしなしなになっていた。
「あー、どうしよう。気付かなかったなぁ……。耳かき今コレしかないのに……」
「私に任せて!」
「え?」
水那が困っているとどこからか声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、白い羽が生え、フワフワの梵天帽子を被り、耳かきを持った小さな妖精の様な何かが目の前を飛んでいた。
「不法侵入だよ」
「ズコーッ!」
水那の唐突なツッコミにその場でズッコケる。
「細かいことは気にすんなよー!」
「いや、だって、え? 誰!?」
「私の名前は『梵天使』! これでもれっきとしたモンスターなの!」
「へぇー、そうなんだ」
「私の能力は『耳かきをしているお宅を見つけること』! そしてもう一つは……」
そう言うと、水那の持っている耳かきに向かって、梵天使が息を吹く。
すると、なんということでしょう。しなしな梵天耳かきがあっという間に新品同様に早変わり!
「コレが私の能力です!」
「すごい!」
「まぁあまりこの能力を使い過ぎると、今度は耳かきが売れなくなるのでほどほどにしていますが……」
「その辺りは気を遣ってるのね……」
「今回は特別ですよ! 次からは一万円取りますからね!」
「高っ!!」
「さぁ早く彼氏さんにそれを使ってあげるのです!」
「う、うん。『彼氏』じゃなくて私の『お兄ちゃん』なんだけどね……」
月影の耳の中を梵天でごしょごしょする。そして、仕上げに耳に「ふー」と息を吹く。
「はい、おしまい。反対側がまだ残ってるけど、あとでいっか。梵天使ちゃんもありがとね!」
「いえいえー! お役に立てて良かったです!」
「お兄もいつもありがとう」
月影が水那の膝の上で気持ちよさそうに眠っていた。




