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八木坂中修学旅行 中編

修学旅行初日の夜、本音トークはまだまだ続きます。

 修学旅行で奈良を観光した紗奈達は、その夜、京都の宿で本音トークを始めた。

 最初の話題は紗奈と彼方。『佐村夏希』と『黒幕』の話をすることで改めて受け入れてもらえたことを感じた紗奈。

 次の話題は――?


 咲楽「あたしになんか聞きたいことある?」

 彼方「咲楽の人間関係のこと聞きたい。昔はそんなぶっきらぼうじゃなかったよね?」

 紡「バスケ部周りでいろいろあったらしいって聞いたけど。」

 紗奈はバスケ部周りの話は、何か噂があるというところまでしか知らなかったので、気になるところではあった。

 

 咲楽「分かった。まずはバスケ部の誤解から話した方がいいかな。」

 好葉「誤解って……伏見くんのこと?」

 咲楽「そう。紗奈は知らないかな、2年の時にバスケ部で一悶着あって伏見京雅がバスケ部を辞めたこと。」

 紗奈「噂くらいは聞いたことあるよ。」

 伏見が元バスケ部であることは、クラスメイトとの会話の中で紗奈も聞いていた。

 咲楽「そうなんだ。……伏見はあの時、3年の――1個上の先輩と部の方針を巡って揉めてたんだよね。伏見の言い分は理にかなってたけど、先輩達は部の方針を変えなかった。……結果的に伏見は部内で居場所をなくして退部した。当時の2年――うちらは伏見が悪くないことは知ってるけど、下手に対立したら結構まずいことになりそうだったから、伏見の退部を聞いて何もなかったことにした。」

 風波「そんなことがあったんだ……。」

 咲楽「そう、だからあたし達は伏見に負い目を感じてるところがあるんだよね。伏見は坂出と今でも話してるみたいだし、伏見本人はあたし達に『気にする必要ない』って思ってるらしいけど。あたしはその先輩のこと1年の頃から嫌いだったし、文句を言って伏見の味方になってあげるべきだった。……でも、男バスの話を女バスにまで持ち込むなって別の先輩に止められてさ。――その頃からかな、あたしがいろいろテキトーになったのは。『真面目にやってる人が割りを食うのは、中学じゃよくあることだし』って自分に言い訳して逃げただけなんだけどさ。」

 咲楽がやや曇った表情をしている。


 みんなすっかり深刻なムードになってしまっているが、紡がちょっと抜けた発言をした。

 紡「いろいろあったんだねえ。陸上部はそういうのないから気軽で楽しかったな。」

 彼方「……その言い方だと、バスケ部は面倒くさくてかわいそうだねって言ってるようなものじゃない?」

 紡「彼方、そんなこと考えてたんだ〜。サイテー。」

 彼方「え、私が悪い流れになるの?」

 ツッコミを入れたら思わぬカウンターが返ってきて、彼方が困惑する。

 咲楽「今さらどう思われようと気にならないけどね。あたし達も引退して、もう完全に終わった話だし。」

 そう言いながら、内心『そのうち伏見にちゃんと謝らなきゃ』と思い直す咲楽であった。


 

 咲楽「次は誰いく?」

 好葉「じゃあ好葉が。――実は、体育祭の練習期間に告白されたことがあったんだけど……。」

 咲楽「え、なにそれ初耳なんだけど。」

 紗奈「恋バナにとっておかなくて大丈夫?」

 好葉は気合を入れて話し始めたが、導入の部分で出鼻をくじかれてしまった。

 

 好葉「恋バナとはちょっと違うから。で、その告白なんだけど、最初から断るつもりだったのね?それで――風波に頼んで、好葉になりすまして断ってもらったの。」

 『夏祭りの時、2人の入れ替わりにほとんど違和感がなかったのは、他でやったことがあったからか』と紗奈の中で合点がいった。

 彼方「……それ、めっちゃ相手の心を折りにいってない?」

 好葉「やっぱそうだよね。――ずるいやり方だって分かってたし、風波にも悪いなって思ってる。でも好葉、どうしても、風波と好葉の見分けがつかない人とは付き合えなくて……。」

 好葉は先ほどの咲楽のように、申し訳なさそうな顔をしている。本来わいわい話すであろう本音トークは、だんだんと懺悔会になりつつあった。

 

 紡「そういう意味で言うと――紗奈ちゃんは好葉ちゃんと付き合えそうだね。」

 紗奈「え、私?」

 さっき自分が元男であると説明したばかりなので、この発言がそれを意識したものなのかどうかが分からず、紗奈は動揺した声で返事した。

 好葉「好葉は紗奈のこと、友達としか思えないけど……。でも、紗奈ちゃんに気づいてもらえてよかったのかも。あの日思ったんだ――双子の見分けがつかないこと、そんなに大事なことじゃないのかもって。入れ替わりに気づいた紗奈ちゃんも、気づかなかった紡ちゃん達も、好葉にとって大事な友達なのは変わらないじゃんって、分かったから。――まあ、普段から見分けがつかないなら論外だけどね。」

 風波「好葉……。」

 風波は好葉の発言に何か思うことがあるような顔をしている。その表情を見て、『好葉に成り代わって断るという行為を、実は何回もやっているんじゃ……?』と思う彼方。対して咲楽には、風波が()()()()()()()()()()()のように見えていた。


 

 好葉「好葉は風波と対照的な明るい子ってイメージがあるけど、そうじゃない面もあるんだよって話でした。じゃあ次は風波、話してよ。」

 好葉の指名により、次は風波の番となった。

 風波「風波は……好葉のことを羨ましいと思ってる、かも。」

 紗奈「羨ましい?」

 風波「うん。いつも元気で明るくて、みんなに好かれる人気者。一応妹なのに姉みたいで、ずっと頼りっぱなしだった。そんな好葉が――風波の憧れ。」

 好葉が意外そうな顔をしている。さっきの話からするに好葉は風波に負い目を感じているようだが、風波も好葉に似たような感情を抱いているようだ。咲楽はさっきの風波の表情に納得した。

 

 風波「昔ね、夏祭りがあったの。小さい頃だったから周りのことなんか考えずに、特別な日だからいつもと違うことをしたいって考えて、好葉と髪飾りを交換したの。あの日は本当に楽しくて、いつもより元気で、周りから見たらそれこそ好葉みたいだったんだって。……それで、親戚のおばさんが風波のことを『好葉ちゃん』って呼んだの。『浴衣の色はいつもと違うけど、髪飾りがピンクだから好葉ちゃんでしょ?』って。その時気づいちゃったんだ。みんな風波達の見分けなんかつかなくて、明るい方を好葉、静かな方を風波だと思うんだって。そしたらもう、その時みたいに明るくできなくなっちゃって。――その頃から好葉のことが羨ましくて、入れ替わって騙すようなことをしても何も言えなかった。」

 好葉「風波、そんなこと思ってたんだ――ごめん。本当に好葉、ずるいね……。」

 風波「ううん、風波が勝手に僻んでただけだから。――でも好葉が入れ替わっても気づける人がいいって言ってたの、夏祭りの紗奈のおかげで理解できた。あと……好葉と別人を演じなくても、風波だって気づけてもらえるって知れてよかったよ。」

 

 彼方「うん、いい話だねえ。じゃあ次、紡いこうか。」

 桜木姉妹の話でしんみりしていたのに、唐突に彼方が茶化し気味に巻き始めた。「せっかくいい雰囲気だったのに」と怒った咲楽がかみつく。

 咲楽「なんで彼方は急かすわけ?今いいとこじゃん。」

 彼方「だってそろそろ終わらせないと、先生きちゃ……」

 彼方がそう言いかけた時、部屋の引き戸をノックする音が聞こえた。


 

 少し間を置いて開かれた引き戸の前には、担任の道村先生が立っていた。

 道村先生「はい、先生きたのでもう恋バナは終わりにして消灯してね〜?明日は京都巡りで早いし、続きは明日の夜のお楽しみです。――それじゃ、みなさんおやすみなさい。」

 今まで部屋の電気をつけて布団にも入らず座って会話をしていたので、形だけでも消灯して寝ることになってしまった。飲み物を片付けて歯を磨き、各々布団に入った上で、小声で話し始める。

 咲楽「フラグ立てるから……。」

 彼方「関係ないでしょ、あの時点でもう先生来てたじゃん。見回りの時間が近いから急かしただけで、まだ来ないと思ってたし。」

 紗奈「まあ落ち着いて。うるさくすると、また先生来るよ?。――それで、紡の本音トークはどうする?」

 紡「わたしのはすぐ終わるからこのまま話しちゃうよ。」

 紗奈「うん、分かった。」

 

 咲楽が電気を消すと、月明かりが僅かに差し込む中で、静寂が部屋に満ちていく。

 紡「わたしね――中学卒業後もみんなと一緒にいたい。」

 咲楽「――高校に進学しても会えるけど、そういうことじゃなくて?」

 紡「……みんなで、同じ高校に行きたい。」

 彼方「じゃあ私たちと一緒に、多摩北高校に進学する?」

 紡「ううん。わたし、北丘内高校のスポーツ推薦受けないかって言われれるの。それに、咲楽はたぶん多摩北高校受けても受からないし。だからこれはただのわたしの理想、実現することのない、ね。」

 咲楽「……なんで今の流れでディスられたの?」

 紡「あ、ごめん。とにかく、同じ高校でわいわいしたいけど、それはできない。悲しくて……信じたくない。それがわたしの本音。――でも誰にも話さないでよ?本音トークは口外厳禁、今夜だけの秘密なんだから。」

 紗奈「うん、誰にも言わないよ。……卒業まで、もっと仲良くしようね。おやすみ。」

 紗奈は隣にいる紡の頭を撫でてそう言うと、らしくないことをしてしまったと自省し、そっと腕をしまって目を閉じた。

 咲楽達「おやすみ。」

 口々におやすみと言うと、それぞれ今話して聞いたことをゆっくりと消化しながら、静かに眠りにつくのだった。

長かった修学旅行初日の夜が終わりました。2日目、3日目は何か起きるのでしょうか。


人物紹介【クラスメイト】ーバスケ部

男子は坂出龍星さかいでりゅうせい、女子は郡山咲楽こおりやまさくらが引退まで在籍しており、男子の伏見京雅ふしみきょうがは1年前に退部している。

坂出は痩せ型細目のイケメンであり、運動神経もいい。レギュラーとして活躍していた。

伏見は体格が良く、運動神経もいい方だが、部内の対立により退部することとなる。

咲楽はぶっきらぼうな性格であり、背が高く、目つきや口の悪さから多くの人に避けられている。元は真面目な性格であり、友人の異変に気づく繊細さがある。

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