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夏の訪れ

体育祭が終わり(どうやら合唱コンも終わり)、夏がやってくるそうです。一応水着回。

 体育祭が終わり、しばらくして梅雨がやってきた。

 6月にあった合唱コンはあっという間に終わり、もう7月になるところだ。八木坂中では水泳の授業が始まっている。


 紗奈はとっくに体育の着替えに慣れていたが、水泳の着替えとなれば話は変わる。とはいえ、着替えで他人の裸を覗き見るというのは性別にかかわらずマナー違反だ。紗奈はそこを暗に示すことで、着替え中の過剰な接触を避けることに成功していたのだった。

 だが、水着というのはボディラインがはっきりと見えるものである。それが互いに晒されているという状況は、やはり紗奈にとって心苦しいものがあるようだ。

 ――そんなことを考えていられるのはプールの水温を肌に感じるまでだが。

 


 当然のように一部の生徒は他の生徒の水着姿に視線を奪われているが、逆にそんなことを全く気にしない生徒もいるものだ。

 紡「紗奈ちゃん、水泳上手だよね。習ってたりした?」

 紗奈「う、うん。小学生の時に少しね。」

 距離をつめる紡に対し、紗奈は視線を逸らす。紗奈はプールの水温に慣れてくると、恥ずかしさの代わりに申し訳なさが出てきたようだ。

 自分の水着姿を見られることで元の持ち主に対して申し訳ない、というのも当然あるが、やはり他人の水着姿を見ることに対して結構な罪悪感を抱いている。もちろん罪悪感を持たれている側の紡はそんなことを微塵も感じていないし、見学で(はた)から見ている彼方は気にしすぎだと思っていた。


 なんとなく察した咲楽は、紗奈が変に意識しないよういつも通り話しかけた。

 咲楽「もしかして紗奈って個人メドレー泳げたりする?」

 紗奈「一応泳げるよ。バタフライはあんまり上手くないし、クイックターンも苦手だけど。」

 咲楽「え、クイックターンできるの?やり方教えてほしい。」

 紗奈「やり方っていっても、壁に着く直前で頭から潜って半回転して、体を左右どっちかに半回転捻ってから壁を蹴るだけだよ。」

 咲楽「うーん、つまりどういうこと?」

 今の説明では咲楽には伝わらなかったようだ。仮に紗奈がクイックターンを知る前に今の説明をされたとしても、同様の反応になっていたのは想像に難くないが。

 紡「クイックターンは見て理解する方が早いと思うよ。――咲楽ちゃんがクイックターンできるようになったら、個人メドレーの競争しない?」

 紗奈「そのうちね。」

 咲楽「あたしメドレーできるか分かんないけど。」

 紡「じゃあその練習もだね。」

 紡は自分の体力が常人離れしている自覚があまりないので、たまにこういったスパルタじみた発言をすることがある。もちろん当人達が無理だといえば強制することがないが、咲楽は平均より運動ができる方なので、時々付き合わされているようだ。

 気づけば紡と咲楽で盛り上がっており、その様子をいつもの気分で眺めていた紗奈は、すっかり罪悪感、もとい水着姿を意識していたことすら忘れていたのだった。


 その頃、風波と好葉はゴーグルの(ふち)の色でしか見分けがつかないため、ひたすらクラスメイトから呼び間違えられていたのだった。――その後の授業でも、紗奈達以外から間違われる状態が続いたのは言うまでもない。



 ――夏休みが近づくと、修学旅行の班決めの話が出るようになっていた。

 修学旅行自体は9月にあるが、夏休み前から進めておかないと授業時間が足りない。班決めや部屋決めは夏休み前に行い、他の分担などは夏休み後に決めていくようだ。


 そしてその話し合いの日が来た。体育祭の話し合いの時のように、男女で分かれて決めている。

 鈴木「先に行動班を決めたわけだけど……案外あっさり決まったね。」

 学級委員の鈴木が取り仕切っている。

 行動班は2人組が新井&太田、岸谷&森嶋、3人組は石野&田中&根津、郡山&宮内&都築、桜木風波&好葉&速水、鈴木&藤園&松林となっている。仲がいい人同士で組んだ結果、綺麗に収まったようだ。

 とはいえ、行動班は男女なのでそこで揉める可能性は残っているが。


 鈴木「じゃあ次に部屋分けだけど、どうする?」

 咲楽「あたしの班と紡達の班が一緒()いいよ。」

 譲歩するような言い方なのは、同じ大きさの部屋で6人、5人、5人という部屋割りになっており、6人だと相対的に部屋が狭くなってしまうからである。

 鈴木「みんなもそれでいい?――じゃあ、1部屋目はそれで決まりね。とすると、残りは2人組と3人組のペアが2つってことになるけど……。」

 誰もどっちがいいともどっちが嫌だとも言い出せずに微妙な空気が流れる。しばらくして、根津が口を開いた。

 根津「じゃあわたし達、三菜達とで。いいかな?」

 岸谷「うん、そうしようか。反対の人いる?」

 特にいないようだった。そもそもここで反対するくらいならさっきの時点で意見を言うべきなので、今さら言い出すのはお門違い、と気が引けている人はいるのかもしれないが。


 その後は男子達と行動班を合わせることになった。班分けは以下の通り。

 1班 大倉、黒瀬、七嶋、岸谷、森嶋。

 2班 小林、霜村、相田、新井、太田。

 3班 内海、水川、石野、田中、根津。

 4班 牧、柳井、郡山、宮内、都築。

 5班 熱海、津田、桜木風波、好葉、速水。

 6班 坂出、伏見、鈴木、藤園。松林。

 紗奈はこの表を見て、『そういえばこのクラスには3文字の名字の人がいないんだな』という場違いな感想を持った。

 他の大多数は『坂出と伏見が同じ班で大丈夫なのか』という感想を抱いているようだが、その辺の事情を全く知らない紗奈には知る由のない話であった。

 


 ――7月も終わりにさしかかり、夏休みが始まった。多くの3年生は部活を引退する時期になっており、咲楽や紡たちも例に漏れず引退試合を終えて部活のない夏休みを過ごしている。


 紡は運動をするのが日課になっていたため、部活がなくなっても自主練を続けていた。夏は早朝に丘内湖まで走りに行くと、堤防の上から朝日を浴びる街を一望できるため、一石二鳥と考えている。


 咲楽は自堕落な夏休みを送っていた。時折運動し、時折勉強を諦める日々である。お盆の時期には祖父母の家に帰省し、従兄弟達と過ごしていたりもしたようだ。


 彼方は夏休みの宿題を数日で片付けると、絵を上達させるために美術館に行ったり、絵画教室の夏期講習に通ったりと様々なことをしていた。


 風波と好葉は、塾の夏期講習に通っていた。2人の学力は同じくらいだったが、お互いに同じ高校へ進学すべきか別の高校に進学すべきかで悩んでいた。



 そして紗奈は、勉強も程々に情報収集をしていた。

 黒幕が言っていた多摩北高校は以前の学力であれば問題なく入れたため、宿題や授業をしっかりとこなせば受かるだろうという予測の上での行動である。一度合格はしているが、4年以上前の問題と解答など正確に覚えているわけもないので、勉強を完全に切り捨てることができないのは惜しいところだった。


 情報収集の結果、多少何が起こっているか分かってきた。

 まず、天体の僅かな変化。天文学的には誤差の範囲のようだが、明確に以前と時系列が異なっているニュースを見つけたのだ。

 4年の時間遡行がどういう影響をもたらしているかは分からないが、黒幕の行動の副作用として現れている可能性がある。


 次に、神楽池の伝承。天災や飢饉の際に巫女姫が現れて土地や人々を元に戻した、というのは紗奈も聞いたことがあったが、実際に『疫病がある日を境にぱったりと消えた』という文献が残っていた。

 オカルトじみた話だが、火のないところに煙は立たないということわざもある。全てが真実でなくとも、神楽池にはそういった力があるのかもしれない。

 紗奈は非科学的な話をあまり信じない方だし、『もしかしたら今の生活は仮想現実の類なのではないか』という疑いも残している。ただ、実際に超常現象に遭ってしまった以上、自分の知識で補えないものに対してはある程度割り切る必要があると感じていた。


 ――それから、黒いワンピースの少女。紗奈は、今の身体になったあの日、神楽池から出る前に幽霊のような黒いワンピースの少女を一瞬見かけた気がしたのだ。

 その時は気にも留めなかったが、情報収集をしに図書館へ行ったその帰り、ふと寄った神楽池で同じ黒いワンピースの少女を見つけたのだ。その少女は紗奈が声をかけようと近寄る前に林を出てしまったのですぐ見失ったのだが、偶然にしては出来すぎているように感じていた。

 もちろんただの近所の少女がたまたま同じ格好でよく行く場所に行っていただけ、という可能性があることは紗奈も理解していた。だがこれらの情報は、紗奈が黒幕に興味を持ち、多摩北高校へ進学しようか考え始めるきっかけになるには十分だった。

高校進学に向けて、物語は加速していきます。


人物紹介【クラスメイト】ーバド部

男子は小林博宗こばやしひろむね七嶋怜ななしまれい、女子は田中智美たなかともみで、3人とも背が低い。小林は眼鏡をかけていて、やや老け顔の知識人。七嶋はやや髪が長く、かわいい系。田中はボブカットでバランス感覚がいい。

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