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 空が端から赤い色を帯び、やがて紺色の空は淡い青へと変わっていく。

 影にしかみえなかったものが、木や岩の姿を現していく。

 紫の霧は朝日の中消えていった。


「シェイン~。霧見えなくなったけど、まだ居た方がいいの?」

「いや、もう帰ろう」

「よかった!体がちがち。シェインは辛くない?」

「平気だ」

 エディアルドはシェインが見上げる程大きくなったくせに、綺麗で無邪気な笑顔は子供の頃そのままだった。


 山小屋へ戻り朝食を食べたところでエディアルドが言った。

「はー、やっと落ち着いた。これで言える。昨日ここへ来たのはね、報告があったからなんだ」

「報告?」

「うん!僕、臣籍降嫁が決まりました!」

「……意味分からん」

 王族が王族以外と結婚し臣籍に降りるにしても、エディアルドは嫁にはなれないだろう。物理的に。

「あれ?婿?何て言うの?」

「私が知るか」


「結婚するにしても、シェインは魔術師としての仕事で一杯一杯だし、ぜひそれを生かしてほしいじゃない。

僕が王弟のままだとシェインを王弟の妻云々とか煩わせちゃうから、国一番の魔術師がその功績を認められて王族を婿に貰う形がいいだろうってことになって、やっと準備が整ったんだ」

「はぁ?!」


 知らないうちに途轍もなく話が進んでいる。どうしてそうなった。

「婚約は形だけだろう」

「僕はそのつもりなかったよ。もう健康だから縁云々も関係ないし」

「身分が違いすぎるだろう」

「いや、功績ある武人や宰相が王女様賜るとか、多くはないけどあるよ?」

「私はそんなつもりで魔術を極めた訳じゃない」

「知ってる」


 エディアルドはシェインの前に跪いて言った。

「好きです。やっと準備ができたので、結婚してもらえませんか」


 シェインの頭の中は真っ白だ。

 国一番の魔術師は、前代未聞に追い詰められた。

「周囲が、そう、周囲がだまっていないだろう」

「いや?だって準備したの姉さんだし」

 国王陛下ーー!

「貴族には、優れた魔術師が他国に行かないように王子でも与えて縛り付けとけって声もあるし」

 阿呆か。

「姉さんも僕もそんなつもりはないよ。良い人材は自ら居たくなるような良い待遇で招くものだ。結婚や忠義や抑圧の鎖で縛るものじゃない。

て言うか嫌な待遇なら一緒に他の国へ逃げちゃおう?姉さんもそれ見越しているから、虎視眈々と良い待遇用意してるよ?」

 今度会ったらブラコン陛下と呼んでやろうと思っていたが、賢君だった。ちっ。


「魔術師もトップになると権力や社交が関わってくるから、僕が盾になってあげられるよ。シェインはざっくり言って専門馬鹿だから、そういうの疎ましいでしょ」

 シェインは、ぐっ、と詰まる。

 エディや誰かを救うのは純粋に魔術の力量だから磨きがいがあるが、それ以外は正直どうでもいい。

 専門馬鹿の自覚はあるが人に言われたくない。


「ねぇ、そろそろ返事くれないと結構この姿勢辛いんだけど」

 エディアルドは跪いた足をぷるぷる震わせ、眉尻を下げて言う。

 あぁ、もう。

 魔術師はため息を一つ吐いて観念した。

「……はい」

「やった!」

 シェインは抱きついてくる大きな背中の後ろで、尻尾がブンブン振られているような幻視を見た。


 国一番と畏れられる最強魔術師に、溢れる愛情と輝く笑顔を注ぎ続けるこの王子は、シェインにとってもまた温泉だ。

 泉のようにこんこんと湧き出す力を、惜しみ無くシェインに与えてくれる。

 少々ネジが抜けていても、この湯治は代えがたいほど効くのだから、手放せそうにない。

 湖の氷が膨張と収縮によりひびが入る自然現象は「御神渡り(おみわたり)」を参考にしています。

 題はふんわりイメージです。優しい光で照らす月と冷たいけど柔らかい雪をちょっとキャラに重ねています。


 読んでくださりありがとうございます。ブックマークや★、いいね、お気に入り登録など、応援していただけると大変励みになります。


 エディアルドの姉が主人公のスピンオフ「女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る」もよろしくお願いします。

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