番外編②
これは、とある異世界の物語である。
その世界は戦隊ヒーローが現実に存在し、そして――――
――――それは、彼がこの世界に召喚されて間もない頃。
「鬼崎大地くん! 仲間を集めて緋色数津の力を引き出し、カラーレンジャーを結成するのだ!」
「色々博士、四人見つかりましたよ」
イレギュラーな召喚によって、この世界へとやって来た彼。
そんな彼以外のメンバーはというと、実は既にこの世界に存在していて、運命の時を今か今かと待っているらしいのだ。
「鬼崎くん。仲間を集めながら一人でガイチューンと戦うのは厳しいものがあると思う。だが、君がピンチに陥る時こそ、運命が仲間を引き寄せるチャンスでもあるのだ。まずは君に続く一人目の戦士を……今、なんて?」
「いや、既に四人見つかりました」
「……うん? でもね? 運命がアレで、ピンチにならないと緋色数津のそういう力は働かなくてだね……?」
「緋色数津じゃなくオレの技能で見つけたので。とりあえず連れて来ましょうか」
「あっ、はい」
お決まりの展開など関係無いと言わんばかりに。
鬼崎こと後のイエローは、この時から既にイエローであった。
「……というわけで、こちら、赤坂熱斗さん。青木海槍さん。緑ヶ丘加恋さん。黒澤宇宙さんです」
「……どうも。色々博士と申します」
「あっ、はい」
「あっ、はい」
「あっ、はい」
「あっ、はい」
全員がキョトン、である。
正式な結成前ゆえ、まだ誰もツッコミ役がいないのだから仕方あるまい。
「…………うむ、色々と言いたいことはあるが、まあいいだろう。無事に五人の戦士が揃ったのだから喜ぶべきだな。それでは君たちにはカラーレンジャーとして、悪の組織ガイチューンと戦ってほしい」
普通ならば誰もが呆気に取られ、即刻拒否するような怪しい話だ。
しかしながら彼ら彼女らは自らの運命を察しており、四人ともが「遂にこの時が来たか」とばかりに力強く頷いていた。
「それではレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラックとして覚醒の時だ! それぞれ自分の持つべき力は分かっているな?」
博士の言葉に、四人が再び力強く頷く。
「では……起動せよ、緋色数津! 我らに力を与えたまえ‼」
「わー、オレは何色かな? ブルー、ブラックあたりかな? あれ……でも女の子がいるけどピンクは無いんだねぇ」
「今はすっごく大事な所だから黙ろうか鬼崎くぅん⁉ 空気読んでぇ‼」
「あと、名前から察しがつくよねぇ⁉ 君は黄色のイエローで間違いないと思うよ⁉ どこにブルーとブラックの要素あるかなぁ⁉」
「つーか何で君だけ黄崎じゃなく鬼崎なの⁉ よりによって鬼って、怖いよ‼」
「あーもォ! グダグダじゃんか‼」
初の総ツッコミであった。
それでも緋色数津は有無を言わさず五人に適した装備を与え、眠っていた彼ら彼女らの力を覚醒させる。
「おお! これが……」
「俺たちの力……」
「すごい……」
「素敵……」
「あはははは! めっちゃ黄色いわァ」
「この力があれば……」
若干一名のリアクションがズレているものの、五人はカラーレンジャーとしての確かな目覚めを感じていた。
「赤坂熱斗くん」
「はい!」
「青木海槍くん」
「はい」
「緑ヶ丘加恋さん」
「はいっ!」
「黒澤宇宙くん」
「……はい」
「……そして、鬼崎大地くん」
「あっ、はーい」
「この世界の平和は、君たちにかかっている。よろしく頼んだぞ」
「「「「はいっ!」」」」
「えっと、ガイチューン? オレの技能でいつでも壊滅させられますけど? 今すぐにやっちゃってもいいですか?」
博士の願いに応え、力強い返事をするレッド、ブルー、グリーン、ブラック。
その横でとんでもないことをサラッと口走るイエロー。
こうして、正義のヒーロー「カラーレンジャー」がここに爆誕したのであった。
「それでは皆に悪の組織ガイチューンの説明をしておこう。まず、この写真の男が組織を束ねるホモサピ総帥だ。そして彼をはじめとした四天王を……うん? 鬼崎くん、今……なんて?」
「ですから、オレの技能で今すぐにでもガイチューンとやらを壊滅させられます」
「……技能って何? 必殺技じゃなくて?」
「うん。技能でも魔法でもギフトでも、どれでもいいんだけどさ」
「ま、魔法? ギフト? なにそれ?」
「技能っていうのはSPを消費して発動する能力のことだね。魔法はMPを消費して発動するんだ。ギフトはどっちも消費しない代わりに、一日に使用できる回数が決まっていて……」
「世界観を守れよおおぉぉ‼ お前だけ何か違うんだよさっきからぁぁ‼」
レッド、初めての叫びである。
この瞬間、彼の立ち位置は確定したのであった。
「あと、ガイチューンとは面と向かって戦ってあげて? 技能だか何だか知らないけど、長年かけて必死に結成したのに一瞬で壊滅させられたら、いくらなんでも可哀想すぎるからね?」
そして色々博士も、ガイチューンへの同情を禁じ得ない状況であった。
博士はもとより、カラーレンジャーの四人、そして悪の組織ガイチューンの構成員たちですら守るべき展開というものを本能的に理解しているというのに。
厄介極まりないことに、チート能力を持っているイエローだけがそれを理解する力を全く持ち合わせていなかった。
「あっ! そういえばメンバーの残り二人、シルバーとイン……」
「それ絶対に言っちゃいけないやつだからぁぁぁ! つーか今の段階では匂わせても駄目なやつだからあああぁぁぁぁ‼」
頑張れカラーレンジャー。
ツッコミ頼んだよ、レッド。
これから規格外のイエローに振り回される日々が待っているだろう。
だが諦めずにガイチューンの皆を助けてやってくれ。