第七話
これは、とある異世界の物語である。
その世界は戦隊ヒーローが現実に存在し、そして――――
「ペッペッペッ! 朕の名はペスト侯爵、ガイチューン四天王の一人であ~る! 敬い、奉ることを許可するのよぉ」
突如現れた悪の組織ガイチューンの大幹部、ペスト侯爵。
今回は戦闘員たちを連れず、単身での登場だ。
だがペスト侯爵の姿を目にしただけで、町の人々が次々に倒れていく。
そんな彼の前に、今回もあいつらがやって来た。
「待てぃ! お前の好きにはさせんぞっ!」
「ペッペッペッ! 現れたなぁ、カラーレンジャー」
新たな難敵の出現に、気合を入れ直すカラーレンジャーたち。
「赤き炎の戦士! レッドフレア!」
「青き水の戦士! ブルーアクア!」
「緑の風の戦士! グリーンエアー!」
「金色の大地の戦士! イエローガイア!」
「黒き闇の戦士! ブラックコスモ!」
「「我ら! 五人揃って五色戦隊カラーレンジャー‼」」
背後の爆発も決まり、今回も……と思った矢先であった。
「……グッ⁉ こ、これは……⁉」
急にガクリと膝をつくレッド、ブルー、ブラック。
ひとり平然としているイエロー。
どさくさに紛れてイエローに倒れかかり、そのまま全力で抱き着くグリーン。
「あーん、体調悪いみたーい♪ イエロー、このままベッドに運……」
「回復技能」
「……はーい、元気になりましたァ」
そんな二人をスルーして、レッドたちはペスト侯爵を睨み付ける。
ニヤニヤ笑みを浮かべ、ペスト侯爵は彼らの無様な姿を心から楽しんでいた。
「ペーッペッペッペッ。朕の視線は力を奪う死の魔眼。カラーレンジャーを葬るなど容易いことよぉ」
「くぅっ! み、みんな……スーパーカラーレンジャーになるんだ……」
序盤から絶体絶命のカラーレンジャーたち。
だが、彼らに宿る新たな力が窮地を救う。
「ほう……?」
「バージョンⅡ! スーパーカラーレンジャー!」
七色の光に包まれ、五人は新スーツで立ち上がる。
どうやら新スーツには魔眼が効かないようで、レッドたちは先ほどまでが嘘のように動けていた。
「なんてやつだ。危ないところだったぜ」
「ペッペッペッ。朕の魔眼を破るとは、なかなかやりよるのぉ?」
「ねぇ? その朕って変じゃね? なんで朕、朕言ってんの?」
「そういう話してる場合じゃねぇから! イエロー黙れ! あと絶対に二回連続で言っちゃ駄目なやつだからっ‼」
「なんとな~く使ってみたくてのぉ。威厳が出るかと思ってキャラ付けしてみたんよぉ? けど、わたしも変だなぁとは思ってるんよぉ」
「答えるんかいっ! そんで普通にわたしって言っちゃってるし!」
微妙に緊張感に欠ける中、カラーレンジャーたちが先手に打って出る。
「とにかく、くらえっ! レェェェェッド、ハイパァァソォォド‼」
「いくぞっ! ブルゥゥゥゥ、ネオォォスピアァァァッ‼」
「決めるわよっ! グリィィィィン、グラァァンエナジィィィィッ‼」
「イエロォォ手加減ビィィム!」
「これで終わりだっ‼ ブラァァック、ディメンションキャノォォン‼」
五人の新必殺技がペスト侯爵に迫る。
――――だが、ここで彼らにとって予想外のことが起きた。
「なにっ⁉ 町の人がっ! みんな、技を止めろォォォ‼」
「そんなの無理だよぉぉぉ!」
「うわああぁぁぁ!」
新必殺技の射線上に突然、町の人々が入って来てしまったのだ。
このままでは自分たちの技で町の人を傷つけてしまう。
「くうぅぅ! イエロー、緊急事態だっ! 頼むっ‼」
「はいよ。バリアーっと」
新必殺技は、呆気無くイエローの遠隔操作バリアで防がれた。
現状最強の技をいとも容易く防がれ複雑な気持ちではあったが、レッドたちは町の人らが無事なことに安堵する。
「助かったぜ。しかし、あの人たちの動きは偶然じゃないようだな」
「ああ。どうやら……彼らはペスト侯爵に操られているようだ」
「ペッペッペッ! わた……朕が戦闘員を連れていない理由が分かったかのぉ? 朕の魔眼があれば、町の人間どもが即興の戦闘員になるのさぁ。むしろ組織の戦闘員は邪魔なのよぉ」
「なんて卑劣な……!」
だが、その効果は絶大である。
ただの戦闘員ならまだしも、カラーレンジャーが町の人々を傷つけるわけにはいかない。
彼らにとって、これまでで最大のピンチであった。
「オレ、なんとかできるけど? どうする?」
「きゃあ♪ 流石イエロー、素敵ぃ♪」
「…………うん………………いや待て。最後の、最後の手段として頼らせてもらうけど、もうちょっと頑張ってみるわ」
余裕のイエロー、恋愛脳のグリーン。
長い葛藤の末、それでもイエローには頼るまいと諦めず思考するレッド。
ブルーとブラックも何か方法はないかと頭を悩ませていた。
だが残酷にも、ペスト侯爵は操った人々をカラーレンジャーへと差し向ける。
「そうして悩んでいる間に、人間どもが押し寄せるのであるぅ! ペッペッペッ、さあどうするぅ⁉」
「くうっ⁉ なにか、なにか手はないのか……!」
そんなレッドの視界に、イエローへと黄色い声をあげるグリーンの姿が映った。
こんな時でもこの女は、とレッドが一瞬イラついた……その時だった。
「…………そうだっ! グリーン、お前の出番だっ!」
レッドが急にグリーンの名前を呼ぶ。
唐突な指名に、彼女は驚いてレッドの方へ振り返った。
「えっ? あたし⁉」
「お前の必殺技だよ! 悪の組織の戦闘員すら虜にするアレなら、きっと町の人たちだって救えるはずだ! 食らわせてやれ、お前の愛の波動を!」
そう言ってサムズアップしたレッドに、彼女は戸惑いの表情を見せながらも、深く頷いてみせる。
「わかったわ、やってみる! いくわよ、町のみんなっ! グリィィィィン、グラァァンエナジィィィィッ‼」
若草色と翠色の色彩のエネルギー波が渦を巻き、その螺旋が町の人々を目掛けて飛んで行く。
そしてグリーンの愛の力が込められた技は、操られた人々を優しく包み込もうと広範囲へ拡散した。
「いっけえええぇぇぇ‼」
「な、なんだとおぉぉぉぉ⁉」
そして、町の人々は――――
――――屍の山と化した。
「「…………えっ?」」
「「…………えっ?」」
「…………えっ?」
何が起きたか理解できず、レッドとグリーンは唖然としていた。
そしてブルーとブラックも、さらにはペスト侯爵までもが口をあんぐりと開け、ポカンとする。
そんな中で、ただ一人冷静なイエローが珍しくツッコミを入れた。
「いやいや。悪の幹部をも倒すような必殺技なんだから、強化スーツのガイチューン戦闘員ならまだしも、普通の人間が食らえば当然こうなるでしょ……」
全くもって、その通りである。
すると間もなく、レッドがゆっくりとイエローの方に目線を動かした。
「…………申しわけないのですが、イエローさん? これ、どうにかなりますでしょうか?」
「あっ、はい。回復技能で回復しておくね。えっと……記憶も改竄した方がいいかな?」
「…………よろしくお願いします」
放心していたグリーンも、イエローの話を聞いて漸く我に返る。
流石に恋愛脳も今は鳴りを潜め、彼女はとても静かであった。なにせ一歩間違えれば悪の組織より非道な行いになるところだ。
そして、ドン引きのペスト侯爵は「カラーレンジャー、怖っ!」と言い残し、逃げるように去って行ったそうな。
ヒーローとして、人として、とっても倫理に反する行いではあったが。
人々は何が起きたのかを確りと忘れ、カラーレンジャーたちは今回もなんとか平和を守ることができたのであった。
頑張れ町の人たち。負けるな町の人たち。
イエローがサービスで健康な体に治してくれたようだぞ。
不健康だった人にとってはむしろ幸運だったはずだ。
……でも怖い思いさせてゴメンね。忘れてるだろうけど。
苦情があれば、全てカラーレンジャー本部までお願いします。
次話は明後日に投稿します。