第六話
これは、とある異世界の物語である。
その世界は戦隊ヒーローが現実に存在し、そして――――
「コロコロコロ! 我はコロナ伯爵! 三度人間どもに恐怖を‼」
「「キー!」」
人々が泣き叫び、逃げ惑う中で。
悪の組織ガイチューンの大幹部が数多のガイジャーと町を闊歩する。
だが、そんな彼らの前に立ちはだかる者たちが。
「待てぃ! そうはさせんぞっ!」
「むむっ⁉ 貴様らは!」
「伯爵に返り咲き、おめでとう! コロナ伯爵っ!」
「本当にありがとう! カラーレンジャー!」
ちょっとだけ友情が芽生えた様子の両者。
だが悲しいかな、彼らはヒーローと悪の組織なのだ。
「赤き炎の戦士! レッドフレア!」
「青き水の戦士! ブルーアクア!」
「緑の風の戦士! グリーンエアー!」
「金色の大地の戦士! イエローガイア!」
「黒き闇の戦士! ブラックコスモ!」
「「我ら! 五人揃って五色戦隊カラーレンジャー‼」」
背後の爆発も決まり、今回も順調である。
「コロコロコロ! 前回のようにはいかんぞ、カラーレンジャー! 四天王であるコロナ伯爵の真の力、思い知らせてくれよう!」
前回の頑張りが認められたのか、コロナ男爵は伯爵に戻してもらえたようで。
部下とのわだかまりも解けたのか、ガイジャーたちも溌溂としている。
「ゆけっ! 我が精鋭戦闘員たちよっ!」
「「キー‼」」
襲い来るガイジャーたちに、例のごとくカラーレンジャーの技が放たれる。
「くらえっ! レェェェェッド、クラァァァッシュ‼」
赤い光を纏った剣戟が放たれ、三名のガイジャーが戦闘不能となる。
「いくぞっ! ブルゥゥゥゥ、スピアァァァッ‼」
目にも止まらぬスピードの槍技が、ガイジャーの四名を吹き飛ばす。
「決めるわよっ! グリィィィィン、エナジィィィィッ‼」
グリーンが放った愛の波動が、十数名のガイジャーを蹴散らした。
ハッチャーにより列整理されたファンジャーたちが、次は自分たちの番だと意気揚々に飛び出して行く。
連続して放たれたグリーンの技が次の十数名を蹴散らすと、また次の十数名が。また次が。また次が。また次が……。
そうして全てのファンジャーたちが蹴散らされる頃、ハッチャーたちはここぞとばかりに最後尾に参列してグリーンの技を食らうのであった。
列整理から集団の誘導、そして自らの立ち振る舞いまで完璧である。
「うおぉぉぉ! イエロー手加減ビーム!」
イエローのビームによって、十名のガイジャーが戦闘不能になる。
「これで! 終わりだぁっ‼ ブラァァック、シュータァァァ‼」
ブラックが放った光線銃が、ガイジャー三名を吹き飛ばして戦闘不能にする。
そうして倒されたガイジャーたち。
残るガイジャーはいなかったので、あとはコロナ伯爵だけである。
「コロコロコロ! そうでなくてはな、カラーレンジャーよ! では……ここからは、我が相手だ!」
「ストッ! ストォォップ! ストォォォォォップ‼」
だが、突然レッドからの待ったがかかり、全員がピタリと動きを止める。
「えっ⁉ こ、今回は本当にオレ、何もしてないよ⁉」
「何もしてないよ……じゃねぇわ‼ おかしいところあっただろ‼」
「そ、そんな! 冤罪だ!」
「今回はお前じゃねぇわ! つーか全員気付けや‼」
そう言われて、イエローはポカンとする。
何故なら、今までレッドがストップをかけた場合、十中八九……もとい十中十が自分だったのだから。
「前々からおかしいと思ってたけどな! イエローがアレだから今までスルーしてたけど、流石に駄目だろコレ! なあ、コロナ伯爵さんよォ‼」
「えっ?」
「えっ……じゃねぇわ! お前んトコの戦闘員どもだよっ!」
レッドからそう言われてよくよく見てみれば、ガイジャーたちは随分と偏った数で倒れているではないか。
その数はレッドの近くが三人、ブルーが四人、グリーンが八十人、イエローが十人、ブラックが三人となっている。
「おかしいよな⁉ 俺とブルーとブラックで十人、イエローが十人だぞ⁉ 残り全部がグリーンに行くってどうなってんのじゃ⁉」
「ああ! それは我が組織のハッチャーとファンジャーたちが……」
「ハッチャーとかファンジャーって何だよおォォォ! 普通に使ってるけど、そんな専門用語なんて知らねえんだよおォォォォ‼」
そこまで言われて、全員がハッと気付く。
あまりに自然な流れで列を作っていたが、よく考えればグリーンの前に列を作る時点でおかしいのであった。
「……どうりで、あたしだけ時間かかると思ったわ」
「お前も大概だなっ⁉ イエローに次いでアホなのか⁉」
「「キー! キー!」」
「たぶんグリーンを擁護してるんだろうけど、何言ってるか分かんねーよ!」
息を切らせて必死にツッコミを入れるレッド。
ブルーとブラックは完全に蚊帳の外だ。
「なんだファンジャーって! グリーンのファンクラブ作ってんじゃねーよ!」
「……あたしが魅力的なのが悪いんだよね? でもごめんね、ファンジャーのみんな。あたしは正義のヒーローだからファンジャーのみんなとは付き合えないの」
「お前もその気になってんじゃねぇよ! 自然にファンジャー言うな! あと、付き合ってとは誰も言ってねぇから‼」
「それに、あたしにはイエローという心に決めた人が……」
「いつ惚れたァァァ⁉ 前に助けてもらった時か⁉ つーか趣味悪いなお前っ‼」
頬を赤らめてイエローにチラッ、チラッと視線を向けるグリーン。
そして、当のイエローはというと……?
「あ、ごめん。全然聞いてなかった。何の話?」
「レェェェェッド、ハイパァァソォォド‼」
一瞬で新たな力を纏ったスーパーカラーレンジャーになり、全力でイエローに向けてフルスイングのツッコミを入れるレッド。だがイエローは全くの無傷だ。
カオスと化したその場に、レッドの怒号だけが響き続ける。
「ゼェ、ゼェ……とりあえず、ファンクラブは解散してくれ、コロナ伯爵……」
「わ、分かった。なんかすまんな、レッドよ」
「グ、グリーンも、次からまた列ができてたら、気付け……頼むから……」
「う、うん。分かったわ」
「あとイエローは反省文な」
「なんでだよっ⁉ 今回はオレ関係無いよねェ⁉」
こうしてコロナ伯爵と戦わずして終了となり、今回も平和は守られた。
頑張れレッド! 可愛いよグリーン!
今の時代、ヒーロー兼アイドルという手もアリだぞ!
だけどイエローに一途なのも、それはそれで好感度高いぞ!
明日も投稿します。