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第八話

今回は少し長めです。


 これは、とある異世界の物語である。


 その世界は戦隊ヒーローが現実に存在し、そして――――








「ヴァヴァヴァヴァヴァ! 我輩はリッサ公爵、四天王最強の大幹部であるぞ!」



 人々が泣き叫び、逃げ惑う中で。

 悪の組織ガイチューンのリッサ公爵が高笑いをあげる。


 だが、その前に立ちはだかる者たちが。


「待てぃ! お前の好きにはさせんぞっ!」


「むっ⁉ 貴様らは⁉」


 例のごとく名乗りを始める五人。

 前回のことは既に脳内から消去したようだ。



「赤き炎の戦士! レッドフレア!」

「青き水の戦士! ブルーアクア!」

「緑の風の戦士! グリーンエアー!」

「金色の大地の戦士! イエローガイア!」

「黒き闇の戦士! ブラックコスモ!」


「「我ら! 五人揃って五色戦隊カラーレンジャー‼」」



 背後の爆発が決まると、早速リッサ公爵が口を開く。


「ほほぅ? 貴様らが噂に聞くカラーレンジャーか。我輩たちガイチューンの野望の前に立ち塞がる厄介者どもと聞いておるぞ」


「……うん? あれ?」


 唐突に、レッドが首を傾げる。

 何故かというと、これまでのガイチューン幹部たちは当たり前のように「現れたな、カラーレンジャー」と言っていたからだ。


 だが今回のリッサ公爵は、いつもとは違った。


「ヴァヴァヴァ! だがしかし、このリッサ公爵が来たからには貴様らの命運もここまでぞ! 食らえ、四天王最強ヴァイラスエナジー‼」


 違和感を覚えたレッドだったが、相手(リッサ)は考える暇など与えてくれない。

 リッサ公爵から放たれた禍々しい色のエネルギー弾は、カラーレンジャーたちへ無慈悲に降り注ぐ。


「うわああぁぁぁ!」

「くっ! みんな、バージョンⅡだ!」


 エネルギー弾が着弾し、爆炎と煙に包まれる中で。

 七色の光が溢れ、カラーレンジャーは新たな力を纏う。


「「バージョンⅡ! スーパーカラーレンジャー‼」」


「なにっ⁉」


 新スーツへと変身した彼らに、リッサ公爵が再びエネルギー弾を放つ。

 だが今度はダメージを与えられず、彼らは爆炎の中を平然と歩き始めた。


「……ヴァ、ヴァヴァ。面白いぞ。ならば我輩も少し本気を見せてやろうぞ」


「なん……だと……?」


 そう言い放ったリッサ公爵が全身に禍々しいオーラを纏い、姿を変える。

 すると先ほどまでとは比較にならない威圧感(プレッシャー)がカラーレンジャーを襲った。


「ヴァヴァヴァ! 第二形態……貴様らに倣うなら、スーパーリッサ公爵とでも名乗ればいいかぞ?」


「いや、ダサいからそれは要らな……」

「イエロー黙れ! ハウスッ‼」


 相変わらず緊張感に欠けるイエローはともかく、残りの四人は変身したリッサ公爵に圧倒されていた。

 そんな彼らにリッサ公爵は絶望的な真実を伝える。


「ヴァヴァヴァ……良いことを教えてやろうぞ。我輩が四天王最強たる所以(ゆえん)、それはこの変身能力ぞ」


「くっ! どれだけパワーアップしようと、俺たちは負けな……」


「ちなみに、我輩はまだ()()もの変身を残しているのだぞ。これがどういう意味か分かるぞ?」


 どこぞの凶悪宇宙人の兄のようなセリフを言い放つリッサ公爵。

 多ければいいというものでもないが……ともあれ、それは変身ごとにパワーアップするという意味なのだから脅威である。


 イエロー以外の四人はその意味をハッキリと理解し、絶望し、沈黙した。


「ヴァーッヴァッヴァッヴァッ‼ そうだろうそうだろう、あまりの恐怖に足が竦むのであろうぞ? では、その絶望をさらに加速させてやろう」


 そう言って、リッサ公爵はさらなる変身を遂げる。


「ヴァヴァヴァ……第三形態ぞ」


 禍々しいオーラを纏い、リッサ公爵が新たな形態に変化してしまう。


 より一層増した威圧感(プレッシャー)に、グリーンが、ブルーが、そしてブラックが、ガクリと膝をついてしまった。

 だがそんな中でも、レッドだけは勇気を振り絞って声をあげる。


「みんな、屈するな! 俺たちの新たな力を信じるんだ! 行くぞっ‼」


 レッドの鼓舞により、辛うじて立ち上がる戦士たち。

 そして新必殺技が放たれた。


「くらえっ! レェェェェッド、ハイパァァソォォド‼」

「ブルゥゥゥゥ、ネオォォスピアァァァッ‼」

「グリィィィィン、グラァァンエナジィィィィッ‼」

「イエロォォ手加減ビィィム!」

「ブラァァック、ディメンションキャノォォン‼」


 五人の現状最強の技が、渦を巻いてリッサ公爵目がけて飛んで行く。


 だが残酷にも、それはリッサ公爵へと着弾する前に弾かれてしまった。


「ふんっ‼」


「そ、そんな馬鹿な……!」


「ヴァヴァヴァヴァヴァ! 我輩の敵ではなかったようだな。それではカラーレンジャーよ、死ぬがいいぞ」


 禍々しいエネルギー弾が放たれ、その直撃を受けたカラーレンジャーは非情にもスーツを砕かれ、生身で地に伏す。四人の悲鳴が木霊し、町は焦土と化した。


「ヴァヴァヴァ。これで邪魔者はいなくなったぞ。我輩たちの世界征服の野望も、これで滞りなく……むっ?」


 だが、リッサ公爵にとって予想外のことが起きる。

 何故か一人だけ、黄色い戦闘スーツの男だけが平然と立っていたのだ。


「くっ! リッサ公爵、なんて強さだ! 俺たちでは勝てな……」


「な、なんだとっ⁉ 貴様、何故無事なのぞ⁉」


「……うん?」


 敗北感と悔しさに悶えていたレッドだったが、驚愕するリッサ公爵に違和感を覚えて顔をあげた。

 すると、そこには仁王立ちのイエローの姿が。


「……イエロー」


「あっ、はい。う、うわああぁぁぁ、やられたああぁぁ!」


 遅れてイエローも空気を読み、変身を解除して倒れ込む。

 その光景にポカンとするリッサ公爵だったが、急にワナワナと震え出すと全身から再び禍々しいオーラを放った。


「ふ、ふざけるなああぁぁぁぁ‼ なんだその芝居掛かった態度は‼」


「えっ?」


 驚いたのは、レッドである。

 これまでの幹部たちなら「あっ、はい。気を取り直して……」とか言ってイエローの存在を無視し、次の展開へと進めてくれていた。


 だというのにリッサ公爵は()()()にイエローの存在を受け止めているように思えるではないか。

 先刻から感じていた違和感が膨れ上がり、レッドは大いに混乱する。


「いや、あの……」


「おい! そこの黄色かったやつ! 演技してないで立て! もう一回戦闘スーツになれ‼ 無事なんだろ⁉」


「え? オレ? てゆーかアンタ、語尾の「ぞ」を忘れてるけど……」


「そんなキャラ付け今はどーでもいいんじゃ! 早くしろ! 我輩舐めてんのか⁉」


 凄まじい剣幕のリッサ公爵に、イエローは渋々立ち上がって変身する。

 何が起きているのか分からないレッドたちは地に伏したまま、事の成り行きを見守るしかなかった。


「食らえ、四天王最強ヴァイラスエナジー‼」


 凄まじいエネルギー弾がイエローに降り注ぐが、彼は当然無事である。


「な、なんだとっ⁉ ならば……第四形態! そして、今度こそ死ね! 四天王最強ヴァイラスエナジー‼」


 さらに凄まじいエネルギー弾が降り注ぐが、彼はやっぱり無事である。


「そ、そんな馬鹿な⁉ あり得ない! ならば一気に二段階アップ! 第六形態! 四天王最強ヴァイラスエナジー」


「さっきから自分で四天王最強って技名叫んでるけど、それ必要?」


「黙れ! そして食らえ‼」


 より凄まじいエネルギー弾が降り注ぐが、言わずもがな彼は無事である。


「いやおかしいだろ! こうなれば本気じゃ! 最終第八形態!」


 雑に変身能力を浪費し、遂に最終形態となったリッサ公爵。

 本来なら「どうなる? 次回……」と引きに引きを重ねて至るはずの形態だが、イエローにかかれば一瞬であった。


「四天王最強最終破壊滅亡ギガンティックヴァイラスエナジィィィ‼」


「それって今考えてな……」


 イエローの野暮なツッコミを掻き消し、町を丸ごと消し去る規模のエネルギー弾がイエローに降り注いだ。


 そうして全てが消え去った跡地にて……それでも問題無く、イエローは全くの無事であった。


「あり得ん! あり得んあり得んあり得んあり得んあり得ェルあり得ん‼」


「今、噛んだよね? 一回だけ某洗剤の商品名が……」


「き、貴様っ! どうやってそれだけの力を手に入れたっ⁉ 我輩の最終形態は、ホモサピ総帥にも匹敵する組織内最強形態なのだぞっ⁉ むきいぃぃ!」


 涙目で叫ぶリッサ公爵だったが、当のイエローはキョトンとしている。


 その様子をイエローの背後で見ていたレッドは、ようやく何かを察してリッサ公爵に声をかけた。

 ちなみに町は消滅しているが、イエローの背後だけは無事である。


「……あの、つかぬことを伺いますが」


「ヴァ⁉ なんじゃっ⁉ ハァ、ハァ……」


「リッサ公爵さん、もしや今まで組織から離れていたか何かしてました?」


「……あぁん⁉ 確かにバカンスで外国行ってて、さっき戻って来たばかりだが! それで手土産に、噂に聞いてた強敵カラーレンジャーの首を持って行こうと……それが、どうしたっ?」


「……じゃあ、俺たちの情報とかって」


「帰国前にホモサピ総帥から「カラーレンジャーって厄介なのが現れた。()()()はヤベェ。休暇中にあんまり仕事の話するのもなんだから、帰って来てから詳しく話す」ってメール貰った以外、まだ聞いてなかったけどっ? ゼェ、ゼェ……」


「あーーーー……なるほど……」






 ここに来て、レッドはようやく全てを理解した。


 ――――だから、である。






 リッサ公爵。

 イエローという爆弾を、暗黙の了解でスルーすべき相手の存在を、何一つ教えられることなく単独で乗り込んで来てしまった憐れな男。


 彼はホモサピ総帥からの「()()()ヤベェ」を、カラーレンジャー全体のことと勘違いしてしまっていたのだ。

 そしてサプライズのつもりか、組織の誰にも相談することなくカラーレンジャーと対峙するという暴挙に出てしまっていたのだ。


 せめて誰か一人に、下っ端戦闘員でもいいから相談しておけばよかったのに。四天王最大……いや組織内最大の愚行である。


「……えっと、イエロー(そいつ)は倒せないと思うんで。とりあえず今回は帰った方がいいと思いますよ? それで組織の方で話を聞いてから……」


「…………ヴァ、ヴァ、ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァ‼ ここまで虚仮(コケ)にされたのは生まれて初めてだよっ‼ こうなれば自棄(ヤケ)だっ‼ ホモサピ総帥にも秘密にしていた最終形態を超える究極形態を見せてやるっ‼」


「いや、待っ……」


「ヴァアアアアァァァ! この姿になった我輩の力はホモサピ総帥をも上回る! 世界征服後にホモサピ総帥を倒して組織を乗っ取るための奥の手だったが、貴様を消すためなら構わんっ‼ 四天王最強宇宙究極ピリオデス滅亡ラステストヴァイラス超エナジィィィィィィィィ‼」



 そうして究極形態のリッサ公爵が放った最強最悪のエネルギー弾は、イエローの細胞の一つも残すことなく――――








「流石にこれはヤバいよね。レッドたち死んじゃうし、弾くね」








 ――――とはならず、彼にペシッと弾かれて空の彼方へと消えたのだった。



「……」


「……あれ? またオレ何かやっ……」


「もうヤダアアアァァァ! なにコイツあり得ない! 嫌い! 我輩、もーおうち帰りゅうううぅぅ! びえええぇん! ホモサピ総帥ぃぃ!」


「……イエロー、とりあえず町を元通りにして? 俺たちも帰ろう……」


「あっ、はい」



 こうして、多大な被害を出しながらも。

 ……というか、四天王最強の男の心に消えない傷を残しながらも、今回も平和は守られたのであった。








 頑張らなくていいから、暫くゆっくり休め、リッサ公爵。

 バカンス帰りで有給休暇はもう残っていないかもしれないけど。


 あと奥の手もホモサピ総帥にバレたっぽいが、めげずに世界征服頑張れ。



明日も投稿します。


※リッサ=狂犬病のリッサウイルス属から

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