表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

第一話


 これは、とある異世界の物語である。


 その世界は戦隊ヒーローが現実に存在し、そして――――








「ギャーッハッハッハッハッ! 人間どもよ、恐怖せよ!」


 突如、響き渡った邪悪な声。そして空を覆う黒い霧。


 平穏な日常の中にいた町の人々は、声の主を視認すると悲鳴をあげて逃げ惑う。

 町は一転してパニックに包まれ、恐怖に染まった人々で溢れ返る。


「キャアアァァ!」 

「大変だあああ!」

「早く逃げろおお!」


「この世は我ら……悪の組織ガイチューンがいただく! まずは貴様らが最初の生け贄だァ!」


 奇怪な格好の男が、その周りに集まった戦闘員たちが、人々に凶刃を揮う。

 中心に立つ男以外は全て黒尽くめの同じ格好をしており、キーキーと猿のような奇声をあげて逃げ惑う人々に襲い掛かっていた。



「待てぃ! そこまでだっ!」



 すると突然、天を裂くような大声が町に木霊(こだま)する。

 それはガイチューンなる者たちの頭上から聞こえてきた。


「むっ⁉ 誰だっ⁉」


「貴様らガイチューンの好きにはさせんぞっ! とうっ‼」


 逆光の中に浮かび上がる()()()シルエット。

 掛け声とともにビルの上から飛び立ったそれらは、シュタッと綺麗な音とともにガイチューンたちの目の前へと着地した。


 華麗に登場してみせたのは、頭から足先まで全身を戦闘用のスーツで覆った者たちだった。



「赤き炎の戦士! レッドフレア!」

「青き水の戦士! ブルーアクア!」

「緑の風の戦士! グリーンエアー!」

「ども。黄色担当、イエローガイアです」

「く、黒き闇の戦士! ブラックコスモ!」



 キレキレの動きで決めポーズをとった五人は、声を合わせて高らかに名乗りを上げた。



「「我ら! 五人揃って五色戦隊カラーレンジャー‼」」



 それに合わせるように、彼らの背後で爆発が起きた。

 火薬の臭いと灰色の煙が広がり、同時にそれはガイチューンと彼らとの戦闘開始の合図となった。


「現れおったか、カラーレンジャー! 皆の者、かかれっ‼」

「「キー‼」」


 優に百を超えるガイチューンの戦闘員たちが、たった五人に襲い掛かる。

 だが五人は誰も恐れを抱くことなく構え、それに立ち向かう。



「くらえっ! レェェェェッド、クラァァァッシュ‼」



 赤い光を纏った剣戟がレッドの目下へと放たれた。

 戦闘員の数名が、レッドの技で吹き飛び戦闘不能となる。



「いくぞっ! ブルゥゥゥゥ、スピアァァァッ‼」



 目にも止まらぬスピードで槍を繰り出すブルー。

 彼の技も、戦闘員の何名かを吹き飛ばす。



「決めるわよっ! グリィィィィン、エナジィィィィッ‼」



 可憐な声のグリーンが放った波動が、数名の戦闘員を四方八方へと蹴散らした。

 彼女の技を受けた戦闘員たちは、何故か少し幸せそうな表情をしている。



「イエローパンチ」



 イエローのパンチの拳圧が、その場のほぼ全ての戦闘員を爆散させ、戦闘不能にした。



「こ、これで終わりだ。ブラァァァック、シュータァァァ!」



 ブラックの光線銃が周囲を薙ぎ払うが、戦闘員は既にゼロだ。



「おのれ! こうなればガイチューン幹部、このモスキート子爵が相手をしてやろう!」


「いくぞ、みんな! 油断するなよ!」


 颯爽と跳ねるレッド、ブルー、グリーン。

 スタスタと歩くイエロー。

 モスキート子爵の背後へと回り込むブラック。


 ブルーとグリーンが先行してモスキート子爵に飛び蹴りを入れ、それによって生まれた隙を突いてレッドが強烈な踵落としを加える。


「甘いわっ!」


 だが、モスキート子爵はそれら全てを跳ね退け、ブルーとグリーンに激しいカウンター攻撃を放つ。


「ぐわあぁぁっ!」

「きゃああぁぁっ!」


「ブルー! グリーン!」


「気を抜くな、レッド! 俺に合わせろぉ!」


「ブラック!」


 レッドたちに気を取られていたモスキート子爵に、背後から銃撃を加えたブラック。それに合わせるように再度一撃を入れるレッド。


 だがモスキート子爵は倒れるどころか、全身を超回転させてレッドとブラックにも反撃を加えた。


「ぐあっ!」

「うわああぁっ!」


「ギャーッハッハッ! こんなものか、お前たちの力は!」


 余裕をみせるモスキート子爵が、全身から黒い霧を発生させた。

 それは、モスキート子爵が必殺技を放つ前兆現象であった。


「今度はこちらから行くぞ! 必殺、ダークモスキート・デ……」


「イエローチョップ」


「ぎゃふん」


 モスキート子爵の前まで()()()辿り着いたイエローは、チョップを放ってモスキート子爵を倒した。

 その光景に、その場の全員が沈黙した。



「……おま」


「うん?」


「お前、いい加減にしろぉぉぉぉ‼」



 レッドの叫びが町に木霊(こだま)する。

 ここまで黙認していた彼も、流石に我慢の限界だったようだ。


「お前さぁ⁉ 毎回言ってるよねぇ⁉ 戦闘の段取りってものがあるだろうが‼」


「いやぁ、でも悪の組織でしょ? 倒せたんだし、いいじゃない」


「いいわけあるかっ‼ 考えてもみろよ⁉ この人ら、必死に資金集めて、団員集めて、計画練って、いざ実行だあって来てんだぞ⁉ それをパンチとチョップであっさり台無しにされたらどう思うよ⁉ なぁ‼」


「でも悪の組織……」


「せめて形式美(テンプレート)があるだろって言ってんの! 相手に華を持たせて、ある程度やりあってから倒すべきだと思わないか⁉ いくら悪の組織だとしても‼」


 それは、正義のヒーローとして言ってはいけない類いの台詞である。


 だがレッドの後ろではブルー、グリーン、そしてブラックもうんうんと強く頷いていた。


「レッド……」

「「キー……」」


 さらには、倒されたはずのガイチューンの面々までもがレッドの台詞に感銘を受け、キラキラと綺麗な瞳で彼を見つめていた。


「つーか、お前は強すぎるんだって! 俺らが必死に技とか武器とか駆使して闘ってるのに、パンチとチョップだけで俺らの何倍も倒すとか‼」


「あれ? またオレ何かやっちゃいました?」


「やっちゃいましたよっ‼ つーか、みんなで名乗り上げてる時も、なんでお前だけ普通の自己紹介みたいにしてんの⁉ あとこの際だから言っちゃうけど、町の人たちが慌てて逃げてんの、ガイチューンじゃなくお前が原因だからな⁉」


「え? そうなの?」


「そうだよっ! お前の加減知らずな攻撃の巻き添え食らいたくなくて、悲鳴あげて逃げてんだよっ‼」


 そうして早口に説教をすると、レッドはゼェゼェと息を切らせて膝をつく。

 そんな彼らの周囲はというと、イエローのパンチの余波とチョップの振動で、さっきまで平和だった町が滅茶苦茶に破壊されていた。


「なんか凄く壊しちゃってごめんなさい。すぐに()()ね」


 空気を読まず、あっけらかんと言い放つイエロー。

 するとその手から、神々しい光が全方位に溢れ出す。



「技能、万物回復(オールヒール)



 すると、光に包まれた周囲の建造物や道路、看板などが元通りに直っていく。

 はたまた周囲で倒れていたガイチューンの戦闘員たちまでもが、回復してスクッと立ち上がっているではないか。


「まぁたお前はぁぁぁぁっ‼ これだから嫌なんだよぉぉぉぉっ‼」


「えっ? 元通りだからいいんじゃ……」


 全てを台無しにするイエローの行動に、レッドは顔を真っ赤にして怒鳴る。

 滅茶苦茶に破壊しておいて、何事もなかったかのように元通りにしてしまうのだから最高に質が悪い。これでは碌に苦情も入れられないのだ。


 そしてボロボロにされたガイチューンの戦闘員たちも、その元凶たる人物によって万全の状態に戻されては、複雑な気持ちにならざるを得ない。


「……クスン。とりあえず今回は帰りますね。また気力が戻ったら、世界征服を頑張れる元気が出たら現れますので。皆の者、帰ろっか」

「「……キー」」


「ほらあぁぁぁぁぁ! 悪の組織の皆さんも心が折れかけてんじゃん! どうしてくれんだよおぉぉぉぉぉ⁉ 謝れよおぉぉぉ‼」


「でも、悪の組織……」


「黙れええぇぇぇぇっ!」


 町に、レッドの怒号が響く。


 ガイチューンたちが去ったその町は、結果だけ見れば無事である。

 ……悪の組織のモチベーション低下と、レッドの血圧上昇以外は。








 ――――こうして今日も世界の平和は守られた。



 頑張れレッド、奮い立てガイチューン!

 君たちがいないと、この世界はつまらないゾ!



本日より全10話+番外編でお送りする予定です。


短期集中投稿ですので、夏の暇な時間を潰す際にご利用ください。


※モスキート=蚊

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イエローが強い世界Σ( ̄□ ̄)! 斬新なのです~( ´艸`) 守れレッドの血圧°・(ノД`)・°・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ