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師匠、前世の続きと参りましょう

異世界(現代)転生をした二人の話。 @短編104


5/9 タイトル、内容をちょいと変更しました。

パタン、と音を立てて本を閉じた少年の顔は・・・青ざめていた。


(何これ、これって・・前世の俺の国の話じゃん?)


そう、彼には前世の記憶があった。

前世では『ハルバード公国の嫡男、ハル公子』と呼ばれていた。


この本の内容だが・・・

ハルバード公国で実際に起こった話が、まあ小説だからちょいちょい誇大表現があったり、ちょっぴりエッチな表現で気を引いたりとかもあるのだが・・・そうなのだ。

その時の歴史的内容が綴られていたのだ。


公国の君主で彼の父であったヒドラが、何者かに暗殺されたところから始まる。

領民を纏め、国を収めようと奮闘する若き領主『ハル』・・・彼の事だ。

だが若く経験も浅く、まだ知識も少ない彼では上手く行く訳も無い。

しかも暗殺をしたのは父の右腕と言われていた男で、次第にハルは追い詰められていく。

そしてとうとう領民を味方につけた暗殺者に、ハルは国を追い出されてしまうのだ。


まあこの話の内容は端折るが、前世公子ハルが歩んだ人生そのまんまが書かれてあったのだ。

これは見聞きしたもので無いと書けない。

想像でここまで・・・国名や人物名もほとんど同じだ!


ここは大きな書店だ。入り口に貼ってあるポスターが目に入る・・

逆転倒(さかて とう)先生サイン会』。

例の小説の執筆者だ。なんというタイミング!


そんなわけで、彼はその作者とコンタクトしたくて、サイン会へとやって来たのだった。


ずっと検証していた。

前世の彼を知る誰かが、この世界へ転移?転生?して来たのだと。

でも誰だろう?

若くして大人の中で揉まれて来たので、同じ年頃の親友というものはいなかった。

役人や重鎮も若くても30代・・友人のような気心の知れた者などいなかった。

婚約者も決まる前に国を追われた。

その後は、乞食のような生活をして逃げまどいながら過ごしていた。

あ。

途中・・小さな子供を助けて・・その子と旅をした。

子供の名前・・たしか、アップ、だった。

剣を教え、魔法を伝授して、この子が独り立ち出来るようにした。


そして数年共に旅をしてきたが・・

俺は追手に見つかってしまったんだ。あの父を殺した暗殺者に雇われた盗賊達に。

巻き添えにしないためにアップを川に突き落とし、俺は盗賊をアップから引き離して・・死んだ。


アップなのか?この作家は。

あの小さかった・・弟子で弟分。

もしも転移なら、あの前世の姿とあまり変わらない・・いや、歳はくってるかもしれないが。

転生ならそこそこ生き永らえているはず・・

あ。もしかしたら川に落とした時、溺れて死んでの転生?それとも盗賊達に結局殺されての転生?


彼はその事だけが気がかりだった。結局盗賊にやられたのか、彼が川に突き落としたせいで溺れ死んだのか・・


もしも溺れ死んだのなら、本当すまなかった。

あの時逃す手段はあれしかなかった。一緒にいたら、結局死んでいただろうから。



さすが人気作家、大勢の行列。その列に並び、サインしてもらう本を抱え・・お礼に手紙・・ではなくカードにした。

アップならわかるであろう単語が書いてある。


並ぶ事30分。そろそろサインする作家の姿が見える位置に辿り着いた。

作家の姿は、20代前半くらいの日本人的な黒髪の男性だった。

アップは赤茶色の髪で、濃いグレーの瞳の少年だった。同じ姿形なら転移であろうが、やはり転生したようだ。


彼の順番になり、サインしてもらう本と共に小さな紙袋のプレゼント・・市販のクッキーが入っているそれと一緒に、カードをさりげなく渡した。これならいきなり捨てられることはないだろう。お菓子がメインではない、カードがメインなのだから。

カードは目立つように紙袋表面にペタリとくっつけてある。


「先生、これからも頑張ってください」


カードが見えるように紙袋を手渡す。カードには赤茶で『アップ』、前世の文字で書いておいた。

それを見たであろう作家は、はっとした様子で彼の顔を見上げた。






「わああああん、ハル様、ひどいですよぅ〜〜俺を置いて死んじゃうなんてぇ〜〜」

「すまなかった、アップ・・!」


数日後、前世での師弟は邂逅したのであった。

やはり作家先生は前世の弟子アップだった。

弟子アップと出会ったのが、ハル18歳・アップ10歳。そしてハル享年25歳。

ハル亡き後、アップは復讐を誓い、暗殺者である公国の領主と刺し違えたのが28歳。

今現在はハル・・宮田(きょう)は17歳、アップ・・逆転倒は23歳だ。

アップは気が付けばこの世界に転生、前世の記憶覚醒は10歳頃だったそうだ。


「今3巻まで書き上げたんです。ここまではハル様中心の話でしたが、いよいよ俺、アップとの出会い編です!」

「わあ、すごいなぁ。ではその先は・・・お前の武勇伝になるんだな?あの悪党をやっつけるところ、わたしは存命していなかったからな。是非知りたいな。お前の活躍を」

「ハル様・・・ぐすっ」


23歳の男が突然ポロポロと大粒の涙を零し、17歳の少年にしがみ付いた。


「うわ、どうした?アップ?」

「俺は、俺は・・!俺はまだハル様と一緒に・・ハル様と一緒に旅を続けたかった!!俺を拾ってくれて、剣を、魔法を教えてくれた・・乞食の子供にハル様は、わたしの、じ、自慢の弟子だって言ってくれた・・何も恩返し出来ないうちに、ハル様は・・俺を庇って・・・ハル様だけなら余裕で逃げられたのに・・・」

「そんな事はない。十五人の敵に敵う訳なかろう?まあ、本当にすまなかった。お前を置いていくのは心残りだったよ。溺れて死んでなくて良かった、ははは」


17歳の少年の笑顔は、どこか懐かしい師匠の面影があって、大の大人はまた大泣きした。


「俺、決めてたんです。俺は途中で一人で旅をすることになったけど、おはなしでは『やりたかった事をする』って」

「やりたかった事かい?」

「はい!師匠と旅を続ける事です!あの悪党を、二人で倒すんです!!そして、ハル様の国を取り戻し、復興させるんです!!」

「はは・・これは・・・壮大だね、アップ」


身長も10センチほど高い元弟子の頭を、元師匠が優しく撫でる。


「是非参加させてもらおうかな。一緒にまた旅をしようか、アップ」

「はいっ!!師匠!!うわあ、うわあぁ・・うれしいよおぉ・・・ハル様ぁ・・・」


青年作家の泣き顔が何だか幼くて、元弟子のベソを掻いたときにも似ている気がして、元師匠は少し目が潤んできた。




こうして半年後、新刊が発売された。副題は『弟子拾いました』。

主人公ハルは道端で蹲っていた子供を拾う。子供の名はアップ。

いつか一人で生きていけるように・・ハルはアップに剣や魔法を教えながらの二人旅が始まったのである。

最初の村に盗賊団が・・・この話も実話だ。

話を書く前に、ハルと思い出しながらアップは小説を執筆したおかげか、今までよりもさらにリアルな内容で、高評価、重版に次ぐ重版となった。


「俺、一度行ってみたかったんですよ、エトゥールリア。ホワイトドラゴンブレスを食べたくて!」


ホワイトドラゴンブレスとは、エトゥールリアの有名な菓子の名前だ。大変高価、アイスクリームと綿菓子の中間のような不思議な食感だそうで、二人は食べた事も見た事もない、まさに夢のお菓子だった。二人で『心残りは何か』を話したところ、この銘菓を食べそびれた事・・同じだったので、二人は顔を見合わせて笑った。


「わたしも行ってみたかったなぁ。じゃあ、行った事にして、話を書いてみたらどうだい?」

「うわあ!楽しそう!!で、ハル様はそこで前回の盗賊団の元アジトで財宝を手に入れるんですよ」

「おお!それからどうするんだい?」

「それはですねー・・・エトゥールリアの首都であるトゥールルにある高級菓子屋に向かう途中でー」

「そうそう、トゥールルには大きな歌劇団があるんだよ。それも話に入れるのはどうだい?」

「わ!なんか楽しそう!」


テーブルに広げた大きな紙に、アップは前世の記憶を思い出しながら地図に地名、名産品、その時の著名人の名前などを書き出して。そこにハルが思い出したように書き込みを入れていく。




「ねえ、ハル様」

「なんだい?アップ」

「今度はどこに行くんです?」

「そうだね・・気ままな旅も良かろう?」

「はいっ!どこまでもお供します、ハル様!」


格好は17歳の高校生と、23歳の青年が楽しげに話している。


ふたりだけに見えるのはあの前世・・

背の高い師匠にくっついて行く、赤茶の髪の弟子との二人旅。



こうして・・・

ずっと願い続けた元弟子の夢・・元師匠との『二人旅』を、この世界で実現、再開したのだった。



ここに投稿して1年。評価の高い話だけを読んでも2時間くらいかかるかも(笑)。

お暇なら是非。

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