案内記6
まだ家から出て10分くらいしか経ってないはずなのに、疲れた。
「あれが馬車……なるほど、車輪があれば進むからな。魔法で動かせば、我が国でも似たようなものが作れるかもしれん」
歩きながら暴走系美女が、ぶつぶつ呟いている。
……まだ、暴走系美女が何かやらかそうとしたわけじゃないから、マシだったのかな。
とりあえず、旧たおやかさんは、勇者と旧たおやかさんの害にならなければOKらしい。だから、説得は早かったんだけどさ……。
……これ、これから先も繰り返すのかな?
軽自動車のおじさん、通り過ぎるとき目を丸くしてたな……知り合いじゃなかっただけ、良しとするか……。
……このままこの4人放置して行きたい……。でも、暴走系美女がうちが拠点とか言ってたしなあ。放置しても、精霊の力使って絶対戻ってくるよね……。
あ、そういえば。
「マイルズさん、どうしてイザドラさんは、私の家が拠点だと言ってたんですか?」
思い出して気になったけど、暴走系美女、話聞いてくれそうな気がしないから、その横に並ぶ濃い顔イケメンに聞いてみた。
なんてったって、この4人の中で、一番会話が成立しそうだから!
「ああ。我々のもとの世界と繋がったのがれんげ殿の家ですので、元の世界に戻るときにも、れんげ殿の家からではないと、元の世界に戻れないのです」
「……なんで、うちだったんですかね?」
「大賢者様の話では、私たちと共通点のある場所につながる、とのことでしたが」
……共通点。あの”ヤグラシカ”とか”バリ”とかいうお金の単位のせいかな?
でも、長崎だったら、うちじゃなくても良さそうなものだけど。
共通点?
……この4人と共通点がありそうな気がしないけどなー。
「ところで、れんげ殿。こちらの沢山の石碑は……何でしょうか? ……金色の文字と言うことは……祝い事でしょうか? 何かを讃える石碑が並んでいるのですか?」
うん。濃い顔イケメン、不正解。
「ここは墓地ですよ」
私たちが歩いているのは、墓地の脇の道だった。この道が一番近道なもので。長崎の墓地は、お寺ごとではなくて、地区ごとにあるみたいで、ここも、この近辺の地区の人たちの墓が集まった場所だ。
普通、墓石に彫ってある名前は黒の気がするんだけど、長崎では、金色で彫ってあるものが普通だ。
なぜかは、私も知らない。だけど、中国の影響なのかな、とか思ったりしている。
「アンデットは出ないのか?!」
根暗美男子、案外気が小さい?
「大丈夫です。この世界、魔物は出ないですから」
「確かに、瘴気は感じませんね」
旧たおやかさん、瘴気とか感じれるんだー。そんなの感じるとか言われたら困るけど。
「あ、ここの階段下りて行ったら、大きな道になるので、さっきみたいな車が沢山いますから気を付けてくださいね。赤は止まれ、ってことだけ覚えてください。後でまた説明しますけど」
ここまでは信号一切なかったけど、下りたら日見バイパスだから、通行量が増えるから。信号は守ってもらわないと!
「赤は止まれ。あい、わかった」
大丈夫かな。暴走系美女が、一番怖いんだよね……。
「これは、何事ですか!」
濃い顔イケメンが、大通りへの階段へ足をかけたところで、大通りの車の多さに圧倒されたみたいだった。
それは、暴走系美女も、旧たおやかさんも、あまり表情の変わらない根暗美男子も同じみたいで、そろいもそろって口がぽかんと開いていた。
「一応、このあたりが街道って感じだと思います」
「こんなに、あの乗り物が沢山行きかっているのか?」
暴走系美女、なぜ興奮しだした?
「ええ。でも、これはまだ少ないほうだと思います」
渋滞してるわけでもないし、車の流れがあるから。朝とか夕方とか、本当に混んでるから。
「壮観じゃの」
暴走系美女がにやりと笑う。
「こんなに興奮するのは、魔王討伐の前ぶりじゃの」
魔王討伐って、興奮するところ?!
「あ、あの、間違っても、あの車の前に飛び出さないでくださいね! ほぼ確実に怪我、もしくは死にますから!」
「れんげ、大丈夫じゃ。我々にはルースがおる。聖女の力を見くびるでない!」
え。生き返らせること出来ちゃうの? ……いや、大丈夫じゃないから!
「イザドラさんは大丈夫かもしれないですけど、車に乗ってる人がかわいそうですから!」
巻き込まれて事故になるとか、本当にかわいそう過ぎる……。
階段を下りてると、下の道を歩いていた人が顔を上げて、一瞬ぎょっとした顔をして目をそらしてそそくさと歩いて行った。
……そうだよね。そんな反応になるよね。
これがまだ東京とかだったらね……もっと寛容なんだろうけど……。長崎だしね……。
……気にしないように頑張るしかない……。
夜だったらなぁ……。今の時期、日の入り7時くらいだから、あと5時間くらいあるな……。無理か。
早く行って、早く帰ろう!
私はスマホでさっき開いておいた地図アプリを取り出す。
次の信号で、向かい側に渡って、道沿いに行けばいいよね。
「れんげさん、方向音痴なの?」
根暗美男子よ。他に言いたいことはないかね?
「街をぶらつくだけでいいのなら、適当に歩きますけど? 観光地に案内するつもりで歩くので、無駄に歩きたくはないので」
ガルルルル、と思う気持ちを飲み込んで、冷ややかに笑ってみせる。
根暗美男子が目をそらして、小さく首を振ったので、私は頷く。
……根暗美男子とは、全く気が合いそうな気がしない。
……暴走系美女とも、旧たおやかさんとも気が合いそうな気はしないけど。
濃い顔イケメンは……まだ会話が通じるってだけだからな。
「勇者様のために、素晴らしい場所へ案内してくださいね?」
ふふふ、と笑う旧たおやかさんよ。ハードル上げてくれるな……。
……果たして、この勇者一行(勇者抜き)が望む観光かはわからないけど、先立つものがないからね!
「じゃあ、行きましょう」
そう声を出した瞬間、目の前に信号待ちで止まっていた車の助手席の人と目が合った。いや、運転席の人も見てる……。
そして、後ろの車からクラクションを鳴らされている……。
目の前の車は、慌てたように走り出した。
……見世物じゃありませーん!