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案内記47

 辺りには火薬の匂いが漂っている。

 夕闇の中、所々にある木枠に吊るされた提灯の列と、お墓の横に並ぶ提灯が、ぼうっと墓地を照らし出す。

 そして、薄暗い中にいろんな色の火花を散らす打ち上げ花火、音を響かせるロケット花火、そして、子供たちが落下傘を追いかける声が木霊する。


 いつ見ても、不思議な光景だと思う。

 最初は、この光景に驚きしかなかった。

 だけど、6年目にもなれば、この景色がないと、お盆のような気がしなくなった。


 長崎に染まってきているのかもしれないと思う。

 それでも、まだちょっとしか長崎弁に染まっていない私は、長崎人にはなり切れない。

 将来も、長崎で働き続けるのか、それとも他の場所に行くのかは、まだ決まってない。

 もう親戚もいない長崎に居続ける理由なんて、ない。

 だけど、この墓を守りたいと言う気持ちはある。

 だけど、どこに行ったとしても、この墓を守ることはできるのもわかっている。

 だから、迷っているってことは、ちょっとだけ長崎に愛着が出てきたのかもしれない、と思う。


 でも、やっぱり1人で花火は辞めとけばよかったかも、と思う。

 つかんだ棒の先から弾ける色とりどりの火花を見ながら、1人でやる花火が、思った以上につまらないことを初めて知った。


 ばあちゃんが私用にって買ってくる花火を、ばあちゃんの隣で1人でやってるときにも、ここまでつまらないと思ったことはなかったのに。

 4月に5人でやった時には、自分がやらなくても楽しかったのに。

 ……いや。あの時が楽しすぎたのかもしれない。

 だから、1人で花火をしてるのがつまらなく感じるようになったのかもしれない。

 ……いいや。残った花火は、友達としよう。


 私は大きく息をつくと、花火が終わるのを見つめる。

 大波止に出発するにはちょっと早いかもしれないけど、歩いていくなら寄り道もできるし。

 それに、流石に爆竹を鳴らす勇気はないから、他の家の精霊流しを見物しながら、ぶらぶら大波止まで行けばいいし。

 うん、そうしよう。

 

 まだ火花は散っていたけど、私は花火をバケツの水にジュウっとつけた。

 とたんに、火薬の燃え終わったニオイが、私の鼻をつく。


「何じゃ、もう終わりか」


 聞き覚えのある声に、私は目を見開く。


「あら、花火、もうこれだけしかなくてよ。れんげ様、もっと用意してくださらないと」


 責める声に、まさか、と思う。


「それはいささか無理と言うものではないでしょうか」


 苦笑するその声は、私の知っている声のような気がするけど?


「れんげ、行き来できるようになったら、結婚してくれるんでしたよね?」


 いやいやいやいや、まさか!?

 だって、そんなことあり得るわけないでしょ!


「魔王、そんな約束したのか?」


 え? この声って、誰? って、魔王って?!


 振り向いた私の視界に、5人の影が映る。


 ヒューーーーー。

 パン。

 

 どこかで上がった花火の赤に、その影が染まる。

 

 私の知る4人と、私の知らない1人が、私を見つめていた。


「嘘……でしょ」

「嘘ではないぞ」


 前の時とは違う軽装のワンピース姿のイザドラさんが、ニコリと笑う。


「嘘なわけありませんわ?」


 相変わらずのローブ姿のルースさんが、肩をすくめる。


「嘘みたいですが、本当です」


 これまた、この前と違う軽装のマイルズさんが大きく頷く。


「やってやりましたよ。お待たせ、れんげ」


 ローブを着てないデータスがニヤリと笑う。え? いや、待っては……ないはずだけど?


「なるほど、これがれんげ、か。魔王の想い人ね」


 そして、軽装の見たことのないツンツン頭のあなたは、誰ですか?


「えーっと、魔王って?」


 それもね。


「れんげ、聞くがよい! データスは魔王として降臨したのじゃ!」

「はい?」


 イザドラさんの言葉に、私は首を傾げる。

 ……あれ? 私、データスに魔王になれ! とか言ったっけ?

 いや、言ってないよ?


「イザドラ殿! それは語弊があります!」


 マイルズさんが慌てて否定する。

 だろうね。


「ですが、巷では魔王と恐れられておりますもの。カーシー様のおっしゃることは間違っていませんわ」


 なるほどね!

 ツンツン頭は、かの有名な勇者!

 ……それよりも!


「データス、一体何したの?」

「いや、王城を破壊した」


 データスが頭をかく。


「……それは……魔王って名前付くかもね」

 

 果たして、その中にいた人たちがどうなったのか。私の困惑した視線に気づいたのか、データスが慌てる。


「人間は殺してないからな! 殺さないようにして破壊したから!」

「え? 人は生き残ったの?」

「……データス様は、それはそれは、魔法の訓練を頑張っておられたのですよ? それもこれも、愛のため!」

「そうですよ、れんげ殿! 見せてあげたかった! この4か月のデータス殿の成長ぶりを!」

「……俺ら、何もやってないけどな」

「カーシー、五月蠅いぞ!」


「えーっと、それで何でここにピンポイントに来れたの?」


 私の素朴な疑問だ。


「それは、愛ですわ!」

「ルースさん、それはきっと違うと思うんだ。愛だけじゃ、来れないから!」


 私の返事に、データスがムスッとなる。


「あながち嘘じゃない」

「え、いや……って言うか、どうやって自由自在に異世界行き来できるの?」


 データスがニヤリと笑うと、胸元のペンダントを取り出した。


「これは、魔石。しかも、異世界の魔素を吸い付くしたもの。だから、異世界に来ても魔法が使えるんです」

「……できたんだ?」


 データスとした話を思い出す。


「ええ。だから、24時間の間でも、何度も行き来できる。だから、結婚しよう?」

「えーっと、それはちょっと。私、こっちでやりたいことがあるから」


 4人に会って、そして私は、自分も何か人の役に立ちたいって思えたから。

 看護師って仕事に、ようやくやりがいを見出したところだから。


「即答! 魔王が拒否されてるし! 恐ろしい! れんげが最強か?!」


 勇者よ、声が笑ってるし。


「でも、私のことを嫌いだとは言わないから、チャンスはあるでしょう?」


 データスはクスリと笑う。

 その余裕が、何だか癪に障る! 別にデータスのことが嫌いなわけじゃない。だけど、今はまだ恋愛感情は……ないはずだ。

 私はムッとして口を開く。


「屁理屈じゃない?」

「私は別に、こちらの世界を拠点にしてもいいんです。帰ってきてれんげがいてくれればいいので」

「とりあえず、花火をするのじゃ!」


 私たちの間に、イザドラさんが割り込んできた。


「イザドラ様! 今、とてもいいシーンでしたのよ!」

「何じゃ、ルース。ほれ、この花火をするのじゃ!」


 イザドラさんが、線香花火を差し出した。


「イザドラ殿、今は、データス殿の見せ場で……」

「マイルズ、いいか、この花火はいかに長く火花を散らせるかが大事な花火じゃ!」

「それは……知ってます」


 マイルズさんの声が困っている。


「何ソレ? 俺、一番になっちゃおうかな」


 勇者がいそいそと花火を取り出した。


「あ、それ持ち手が逆」


 勇者は火薬に包まれている方を握っていたから、つい指摘してしまった。


「れんげ! 私の話は途中です」

「データス、とりあえず花火しよ。話は、それから」


 データスの望む答えは、まだ出せそうにはないけど。

 5人、いや6人でやる花火は、きっと楽しいに違いない。


最後までお付き合いありがとうございました。

今まで書いた長崎の描写&方言で、おかしいところがあればご指摘いただければと思います。


楽しんでいただければ幸いです。

そして、少しでも気晴らしになることを願っています。


次の14時の更新作品の予定は今のところありません。

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