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案内記44

「戻ったら、忙しくなるのかの……」


 困ったような暴走系美女の言葉に、3人がそれぞれに頷く。

 旧たおやかさんがこぶしを握り締める。


「まずは、カーシー様に異世界の土産話をしなければなりませんね!」


 ちーがーうー!


「……それは、おいおいでいいんじゃないでしょうか。とりあえずは、魔素を使い果たすと魔物が出なくなるのか、確認してみましょうか」


 濃い顔イケメンの言葉に、根暗美男子が頷く。昨日、私が言った言葉がきちんと濃い顔イケメンにも残っていたんだってわかって、ちょっと嬉しくなる。


「そうですね。……都合よく、強い魔法が使えればいいんですが……」

「それは、愛でどうにかするんですわ!」


 ……旧たおやかさんの言ってることが分かったことってあったっけ?

 私の疑問をよそに、なぜか根暗美男子が赤くなった。

 ……なぜに?


「いや、関係ないでしょ」


 私のツッコミに、根暗美男子がジロリと私を睨む。

 ……いや、睨まれてもね。


「魔王を蹴散らした魔法を、5回ほど使えばいいのじゃ」

「……いや、使うところ間違うと、王都も殲滅ですから」


 暴走系美女の言葉に、濃い顔イケメンが苦笑する。


「……でも、魔法のかかる場所はピンポイントなんでしょう? 脅しには、かなり効果がありそうだよね」


 私が頷くと、根暗美男子が首を傾げる。


「脅し?」


 きっと、考えたこともないんだろうな。ずっと、虐げられる側だったんだろうし。それが、当たり前だって思ってたんだろうから。


「そう。脅し。データスたちが、世界を変えようって動き出したら、それに反対する人間がきっと沢山出てくると思う。その煩い外野を黙らせるには、データスの魔法は脅しとして効果的だよ」

「……なぜじゃ? 世界をいいように変えるために働くのだぞ? なぜ、反対などするのじゃ」


 暴走系美女が眉を寄せる。


「知らないことって、怖いと思わない?」


 私の言葉に、根暗美男子以外の3人はそろって首を傾げた。根暗美男子……怖がりだもんなぁ。頷かないのは、意地かもね。

 ……そもそも、この人たち、無茶ぶりの魔王退治に行ってるわ、理由はあったとはいえ、異世界に行くこと選ぶような人たちだもんなぁ。

 実は、変化とか知らないこととか、怖いと思わないのかも?


「新しいこととか変化を嫌う人たちって、たくさんいると思う。そもそも何百年も変わらずにいた世界なら当然、変化なんて見たこともないだろうしね」


 私の説明に、根暗美男子が素直に頷く。濃い顔イケメンはぎこちなく頷いた。暴走系美女は不思議そうな表情のまま首をかしげたままだ。旧たおやかさんは頬に手を当てて、それからゆっくり頷いた。


「何となく言いたいことはわかったような気がするわ」


 暴走系美女だけは、伝わらないかもなぁ……。


「あと、王都でのうのうと安全に暮らしてた人たちは、魔王がいなくなることは嬉しくても、今まで下に見ていた4人が変えようとすることに抵抗するだろうと思う。今まで自分たちが上だったのに、下にいた人間が世界を変えてしまうなんて、天変地異みたいなものだからね。もし世界を変えてしまったとしても、4人を虐げようとすると思う」

「4人ではなくて、5人ですわ」


 旧たおやかさんの即座のツッコミに、私は苦笑する。果たして勇者はこの企みに協力してくれるだろうか? そもそも、異世界旅行も「一抜けた」する人だしねぇ。……まあ、それは4人がどうにかする話だから、いっか。


「で、5人が世界を変えたとしても、きっと世間の目は冷たいし、下手したらまたもとに戻そうとする人たちも出てくると思う」

「なぜじゃ!? なぜ、元に戻そうとするのじゃ?!」


 暴走系美女は、理解できなくても疑問には思うんだな。


「だから、人間は変化を嫌うから。それに、4人……5人が自分たちよりも下だったから……」

「……たった、それだけのことじゃぞ! 新しい世界の方が、何倍も今よりも暮らしやすくても、か?」

「そう。たったそれだけの事。新しい世界が、魔王に怯えなくてよくなっても、自分の名誉や立場を保つことだけにこだわる人間って、いくらでもいるんだよ」

「そんなこと、許されるのか?」


 首を振る暴走系美女に、私は首を横に振る。


「許されてほしくないけど、あるんだよ」


 この国のことを考えたって、そんなことはいくらでもある。とても哀しいことだけど。

 私は暴走系美女をじっと見る。


「だって、王様は困ると思わない? これまでは、魔王を倒せ! って言っておけば、皆の気持ちは一つになった。だって、魔王を倒して平和な世界を望むことが、皆の総意だったから。だけど、平和になりました。敵がいなくなりました。……王様は、どうやって皆の気持ちを一つにまとめる?」

「……王が、どうやって……? この平和を守っていこう……と言えばいいじゃろう?」


 暴走系美女の言葉に、私は首を横に振る。


「今まで下だと思っていた人間が変えた世界を、わが手に戻そう、って言った方が、国民は一つにまとまらない?」

「「「「え?!」」」」


 私の言葉に、4人がぎょっとしている。


「4……5人を敵に認定したら、また国が一つにまとまる。……ううん。王の威厳が保てる。だからきっと、変化を望まない一番の人は、王様だよ。王様を脅すためにも、データスの魔法は有効だと思うよ」

「……父、上が……」


 暴走系美女が目を伏せる。

 ……流石に、ショックだったか。でも……そうなると思うんだよね。

 今まで4人に聞いてきた異世界の話は、本当に理不尽だった。特に4人……ううん勇者一行、いや勇者として求められる人間全員にとって。でも、それを良しとしてきた王様なら……私がその王様だったら、そうする。

 王様にドレスを貰ったことを喜んでいた暴走系美女には、酷な話になっちゃったけど。

 他の3人もそう思ったのか、目を伏せた暴走系美女を心配そうに見つめている。


 ガバッ、と勢いよく暴走系美女が顔をあげた。


「敵と認定までされれば、もはや親子の縁などないも同然! もう父上に遠慮などいらぬのだな!」


 ……そう言えば暴走系美女、秘宝をお金に換えてたね。それでも遠慮ってあったのかな?


「世界を変えるぞ!」


 暴走系美女が力強く告げる。


「当然ですわ!」

 

 旧たおやかさんが、大きく頷く。


「それには反対はありませんが」


 濃い顔イケメンが苦笑する。


「魔法……タイミングよく使えるといいんですけど……」


 なぜか、根暗美男子が私をじっと見る。


「何? タイミングよく使うアイデアなんてないよ?」

「いえ。れんげが参謀として異世界に」

「行かないから!」


 根暗美男子の言葉に私は即答した。

 当然!

 なのに、何で旧たおやかさんと濃い顔イケメン苦笑してるわけ?

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