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案内記42

「と、とにかく! 40年もあれば、これだけ国の姿は変わるんだよ。異世界だって、変われるはず。変わらないのは、誰も何もしようとしないからだと思う」


 私の言葉に戸惑う4人の中で、一番最初に動き出したのは濃い顔イケメンだった。

 その首が横に振られた。


「れんげ殿、我が国……いや、我が世界は、何百年も変わることはなかったのです。変わることなど……あり得ない」

「無理って言ったらそれで終わりだって、自分が言ったんでしょ!」


 私はジロリと濃い顔イケメンが言った言葉をそのまま返す。

 

「ですが」

「れんげ、それは無理な話じゃ」

「そうですわ。……それが、あの世界の理」

「……変わることが……できるのか?」


 だけど、4人とも、否定の言葉しか口にしなかった。

 私は異世界に向かっていた怒りが、4人に向かう。

 どうしてわかってくれないの!


「ねえ、一番出来損ないだったんでしょ! なのに、魔王を倒したんでしょ! すぐ死ぬかもしれないって思われてたのに、生き残っただけじゃなくて、魔王を倒せたんだよ! それができたんだったら、世界だって変えられるよ!」

「それは、データス殿の魔法で」

 

 濃い顔イケメンが首を横に振る。

 私はギュッと手を握り締めた。

 

「私の力ではないのじゃ」


 暴走系美女が目を伏せる。

 私は唇をかんだ。


「……残念ながら、私にはそんな力はありませんもの」


 旧たおやかさんが困ったように笑う。

 私の掌に爪が食い込む。


「あれは……偶然だから」


 根暗イケメンが私から目をそらした。


 バンッ!

 私は拳でちゃぶ台を叩いた。


 4人が驚いている。


「でも、生き延びたのは事実でしょ! これからも、生き延びなさいよ! あの世界で生きていくって決めたんでしょ!」

「意外に怒りっぽいのじゃな」

「れんげ様、手が痛むのではなくて?」

「お二人とも、それは火に油じゃないですか?」

「……間違いないだろうな」


 何なのこの4人! 口元が緩んじゃうでしょ!

 こっちは真剣なんですけど!


「データス! 魔素を吸い尽くす道具を作ってみるって言ってたでしょ! あれは、嘘だったの!」


 八つ当たりみたいに、根暗美男子を睨む。


「嘘……ではないつもりだ。だけど……それで、あの世界が変わるとは……思えない」


 根暗美男子が首を横に振る。

 

「変えるんだよ! データスが、4人が、あの世界を変えるの! どうして、最初からあきらめるの!」

「……変わらないものは、あるのじゃ」

 

 暴走系美女が小さく息を吐く。


「イザドラさん、変わらないものなんてないよ!」

「れんげ殿。……無理なものも、世の中にはありますので」


 濃い顔イケメンが目を伏せる。


「マイルズさん、これは、無理なものだってあきらめちゃいけないものだよ!」

「れんげ様、私たちにはそんな力はありませんわ」


 旧たおやかさんが肩をすくめる。


「勇者と結婚するんでしょ! 結婚生活一日でも長く過ごしたいんだったら、生き延びるしかないでしょ!」


 私の言葉に、パッと旧たおやかさんの表情が変わる。

 目が覚めた、そんな表情だった。

 旧たおやかさんは両手を組むと、他の3人の顔を見た。


「そうだわ! 私は、カーシー様と一日も長く結婚生活を謳歌しなければならないんでしたわ! 皆さま! 世界を変えましょう!」

「「「え?」」」

 

 残りの3人がハモる。

 流石。切り札、勇者! 最初から使っとけばよかった?!


「わかりませんの?! 私とカーシー様の幸せのために、尽力していただきますわ!」

「……それ、他力本願するところ?」


 根暗美男子が唖然として旧たおやかさんを見ている。


「あら。データス様には、魔王を殲滅できる魔法がありますわ! 当然、私とカーシー様のために、力を貸していただけますわよね?」


 にっこりと笑う旧たおやかさんに根暗美男子が首を横にふりかけた。


「あら。私、精霊の力を使わないでもいいんですのよ?」


 根暗美男子が首を止めた。

 それって、怪我直さないよ、生き返らせないよ宣言だよね?

 結構、鬼畜な気がするんだけど?

 聖女って名乗っていいのかな?


「……あの、データス殿は力があるかもしれないですが、私には特には秀でた力は……」

「あら、マイルズ様。何か文句があって?」


 キラン、と効果音が着きそうな表情で、旧たおやかさんが濃い顔イケメンを見る。


「えーっと……いや、ありませんが……」


 濃い顔イケメンが口を閉じた。


「私は役に立たぬぞ」

「大丈夫ですわ! 役に立ってもらいますから!」


 旧たおやかさんが拳を握りしめる。……ど、どうやって??


「……無茶苦茶なことを言っている自覚はあるのか?」


 暴走系美女がまともに返してる!


「あら。イザドラ様には言われたくありませんわ! そもそも、100ヤグラシカを一体どうやって作ったのです? 私たちの褒美は、10ヤグラシカがせいぜいでしたわよね?」

「……まあ、色々な」


 明らかに、暴走系美女が目をそらした。


「王家の秘宝を売り払ったこと、黙っておきますわ?」

「よろしく頼む」


 暴走系美女が頷いた。

 てか、その大金、王家の秘宝を盗んで売ったの?!


「イザドラ嬢、トレーシー嬢使っただろう?」

「……さあ、知らん」


 根暗美男子の言葉に、暴走系美女が肩をすくめて目をそらす。


「トレーシー嬢の両親は、盗賊でしたね……」

 

 濃い顔イケメンのため息に、暴走系美女が肩をすくめた。

 ……侍女の背景も結構濃いな!


「じゃあ、皆さま。私とカーシー様のために、頑張りましょう!」

「ああ」


 気の抜けた返事をしたのは根暗美男子で、他の二人は渋々頷いていた。

 ……これで、異世界は何かが変わるのかな?

 変わって、欲しいな。

 この4人に、ずっとずっと長く生きていて欲しいから。


「……れんげは、もっと淡々としておると思ったのだが。案外、熱血なのじゃな」


 私だって驚いている。こんなに、誰かに怒ったことなんて、初めてだった。

 でも、このままじゃないけないんだって、どうしても言いたかった。

 4人のために。

 ううん。

 きっと、私のため、なのかもしれない。


「だって、諦めて生きるなんて、してほしくなかったから」


 根暗美男子が口を開く。


「れんげも、行くか?」

「それは、お断り! 下手したら、私の魂が戻ってこれなくなるよね?」


 確か、24時間限定なのは、そういうことだったよね?

 しかも、私が戻れる保証なんて全然ないし! そもそも異世界で生き延びれる気がしないんだけど!


「ダメですか」


 ダメでしょ!


「データス様、押しが足りていないですわ」

「データス殿、もっと気の利いた言葉を……」

「ルース、マイルズ、何を言っておるのじゃ?」


 暴走系美女に、激しく同意。

 異世界に誘うって、デートじゃないんだからね!

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