案内記41
「100年、いえ70年の間に、この国は……世界は、すっかりその姿が変わりました」
私は検索ワードに『原爆 長崎』という語を入力する。
そして、現れた白黒の写真をクリックする。
元にあったはずの建物が消えた、がれきだけの写真。
その写真を見た濃い顔イケメンが、眉を寄せる。
「れんげ殿、さきほど、100年ほど前には汽車が走るようになったと言っていましたが?」
「ええ。その技術はもうあったんです。ですが……戦争によって、この町は焼け野原になってしまったんです」
旧たおやかさんが首をかしげる。
「戦争? この世界にも、魔物がいたのですか?」
「いいえ。ヒトとヒトが争っていただけ。そして、データスが使ったみたいな魔法のような攻撃を受けて、結果的にこの町はこんな風になった」
「ヒトとヒトが……争うのか?」
暴走系美女が目を見開く。
「異世界では、ないんですか?」
根暗美男子が首を横に振る。
「ヒトとヒトが争うなど……そんなことをしている時間はないですからね」
根暗美男子の言葉に、濃い顔イケメンがうんうんと頷く。
「そもそも、我々の国は、王によって安寧が約束されていますから。ヒトとヒトが争うなど……あり得ないでしょうね」
「安寧? でも、魔王と戦わなきゃいけないんでしょう?」
違和感しかなくて、私は眉を寄せた。
「それは、それじゃ。誰かがやらなきゃいけないことじゃ。だからこそ、安寧は約束されているんじゃからの」
暴走系美女も、旧たおやかさんもうなずいている。
……それって、おかしくない?
「だから、それが変なんだって!」
「変?」
濃い顔イケメンが不思議そうに首を傾げた。暴走系美女も、旧たおやかさんも。
根暗美男子も困ったように首を横に振った。
「どうして、他の人たちの安寧のために、イザドラさんたちが犠牲にならなきゃいけないの?」
「……それが、あの世界の理だからですわ」
旧たおやかさんが、肩をすくめて小さくため息をつく。
ため息をつきたいのは、こっちなんだけど……。
私は何かいい言葉がないか、目の前のパソコンに視線を向ける。
長崎の原爆に関する内容が並んでるだけで……すぐにいい言葉が思いつきそうにもなかった。
「それで、れんげ、話は終わったのか?」
暴走系美女の声にハッとして、私は『新宿 ビル』と入力した。そして、画像のタブをクリックする。
出てきた画像を不思議そうに見つめていた4人に、私は一つの画像をクリックして大きくして見せる。
「それで、70年……ううん、40年くらい経つ頃には、こんな風に沢山の建物が並ぶようになったんです。50階建ての建物とか、昔にはなかった技術ですから」
私の説明に、4人が目を見開く。
「40年で? 50階ですか? この建物が崩れることは?」
濃い顔イケメンの疑問に、私は苦笑する。
「すぐに崩れないように設計されてますし、すぐには崩れない材料を使ってます。この国は、地震が多い国だから、ちょっと揺れただけで崩れてしまったら、どの建物も使い物にならないから」
「すごいな」
根暗美男子が、ほぉ、と息を吐く。
長崎で地震ってほとんどない気がするけど、東京にいた時には、よく地震で揺れてたから、すぐに崩れるビルとか本当に使い物にならないと思う。
「あのがれきの山から……こんな建物が並ぶようになるんですのね」
旧たおやかさんが頬に手を当てて、小さく首を横に振る。
信じられない、ってことだろうな。
……まあ、超高層ビルとか、長崎では見ない景色なんだけどね。
対比を今の長崎の町にしなかったのは、わざとだ。その差を大きくしたかったから。
4人の印象に残りやすいように。
「データス、おぬしならいけるじゃろう?」
なぜか、暴走系美女が根暗美男子にパスを渡した。
……何を?
「イザドラ嬢、まさか、この建物を作れ、とか言いませんよね?」
根暗美男子がひくり、と口元を引きつらせる。
「そのまさかじゃ! データスの魔法があれば、すぐじゃぞ!」
「……あの、材料とかいるんで、簡単じゃないと思うんですけど」
鉄筋コンクリートって、異世界にもあるもの?
「何を言うか。材料などなくとも、データスはやり遂げるぞ!」
「無理」
根暗美男子が肩をすくめる。
「データス殿、無理と言ったら、それで終わりです!」
えーっとね、濃い顔イケメン。それは、使い方間違ってる気がするよ?
「そもそも、イザドラさんは、ビル作って何したいの?」
私の素朴な疑問に、暴走系美女が目をぱちくりと瞬かせる。
……もしや、何も考えてない、とかある?
「当然、魔王を威嚇するのじゃ!」
予想外!




