案内記4
「あの……とりあえず、ご飯食べませんか?」
すぐすぐ外に出ない方法、かつ時間を稼げる方法は、これしかないよね?
今もう14時過ぎてるけど……観光先で食べようと思ってるかもだしね。でも、それは難しいし!
で、用意している間に、何か次の手を……。
「あいにく、壮行式でたらふく食べてきたぞ」
暴走系美女が、偉そうにおなかを突き出してみせる。ん? なぜに、たらふく?
「あの……たった1日しか異世界観光できないなら、現地の食べ物を食べるために、おなかすかせてきたりとかしません?」
「食べ物が口にあわないと、困りますもの。大賢者様が行った異世界では、土料理しかなかったらしいですわ。私も、魔王討伐の旅で色々と口にしましたけど……土は食べたくありませんし」
旧たおやかさんが首を振る。
土?! うん。大賢者様の行った異世界、結構ヘビー!
「それに、食べ物が口にあわないと、イザドラ殿が暴れるんです」
眉を寄せる濃い顔イケメンは、きっとそれでさんざん困ったんだろうとわかる。
……暴走系美女、魔法も剣もなくても、暴れたら迷惑!
……すぐに4人分用意できるものなんて、コメくらいしかなかったんだけど……。暴走系美女暴れたら困るな。
えーっと……ほかに……。
「あ、我が家で異世界の生活を体験してみませんか?」
……うちにも色々と問題はあるけど……それはそれで、異世界体験として……。
「どうせここが拠点じゃし、れんげがおるだろう? なぜ、わざわざこの家を探索せねばならぬ?」
ん? 暴走系美女?
「そういえば、お金が使えないのであれば、野営をするか、ここに泊めてもらうしかありませんね」
ん? うんうん、って頷いてるけどさ、濃い顔イケメン?
「魔素がないと結界が張れないから、野営は無理」
「結界が張れないのであれば、物騒だもの。カーシー様の妻となる私の身に何かがあったら困るわ。やっぱり、今日の夜はこちらにお世話になるしかないわね」
そこの二人ー!? 安定な態度で話完結させちゃダメ!
「えーっと、この世界には敵とかいないんで、大丈夫ですよ!」
えーっと、すぐ裏が山だから、イノシシが出てこないとは限らないけど、それは神のみぞ知るってやつで、この派手な格好した人たちに絡むヤンキーがいないとは言えないけど、そこはスルーで!
「れんげ、目が泳いでおる。嘘はいかんぞ」
ああ! 態度でモロバレ!
「そんなことはないです! 本当に、勇者様ご一行がいた世界にいるような魔物とか魔王とか、絶対存在しないんで、結界なんてなくても大丈夫です!」
もう4月だから、凍死の心配もないし! 北海道とかじゃなくて良かったよね!
「異世界は人が怖いと、大賢者様が言っておりました。大賢者様も危うく身ぐるみはがされそうになったと」
濃い顔イケメン余計! 大賢者の行った異世界旅行、散々だな!
「えーっと、この世界の人は、皆親切で優しいですよ?」
一応、形ばかりニコリと笑ってみせる。
すると、旧たおやかさんが大きく頷いた。
「そうなのですね。れんげ様は親切で優しいから、案内もしてくれる上に、家にも泊めてくださるんですね」
墓穴掘った!
「えーっと、いや、あの……」
あ。最初から、この4人を家から追い出してしまえば良かったんじゃないかな。
そうだ。
今からでも遅くない! 4人を追い出してしまおう!
恰好がどうとか、お金を持ってないとか……うん、私が心配することじゃない!
「あの! 私は用事があって、案内はできないので、4人で観光してきたらどうでしょう?」
あー。最初っから、こう言っとけばよかった!
「よし、その用事はなんじゃ?! 聖女の名において済ませてやろう!」
あの、堂々と言いのけてますけど、暴走系美女は魔法剣士でしたよね?
ってことは、旧たおやかさんが聖女……。いいのか異世界!
あ、でも、マソってやつがないから魔法が使えないくらいだから、聖女の力も使えないと思うんだよね!
異世界だからさ!
「いや、それはできないんじゃないですか?」
だからね、出てってくれないかな!
「あら。聖女の力を見くびってもらっては困るわ」
あれ? 旧たおやかさん? どうしてその返事?
「えーっと、でも、聖女の力って、この世界じゃ使えないんじゃ……」
「あら。使えてよ? だって、私に力を与えてくれる精霊は、この世界にもたくさんいるもの」
まさかの!
「カーシー様への愛が疑われては困るわ。その障害になるものは排除するに限るわ。精霊たちも喜んで手伝ってくれるって言っているし」
恐るべし勇者第一主義。
「えーっと、精霊にはできそうにない用事かな、と」
……来週締め切りの大学のレポートがあるから、それを用事にしよう!
さすがに精霊さんには無理でしょ!
だけど、旧たおやかさんの目が、キラリと光る。
「あら、精霊の力、ひいては、勇者様の力をも否定する気ですの?」
ど、どうしてそこに飛ぶ?!
「そうか、それはルースの一大事だな。聖女の力、とくと見せてやるがよい!」
暴走系美女ヤメテ!
「いえ、あの……あ、明日でも大丈夫な用事な気がしてきたので、い、行きましょう!」
ちょっと魔王の気分がわかった。
勇者さえいなければ!
これから出てくる長崎の景色は、昔行っていた既に存在しない親戚の家からの景色の記憶とG〇〇gleマップ頼りに書いているものなので、今はこんな景色じゃないよ! と言うところをご存じでしたら、教えてください。ちょっと確認のしようがないので、教えてもらえるとありがたいです。