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案内記37

「れんげ様は、何を怖がっていらっしゃるのかしら?」

「いや、別に怖がってる訳じゃないけど」

「愛に飲み込まれるのがこわいのかしら? 私を見てご覧なさいな。不安がることは何もないわ!」


 いや、旧たおやかさんがモデルだと、不安しかないんだけど!


「いや、怖い訳じゃないんだけど」

「じゃあ、どうしてかしら?」


 別に黙っておくことじゃないからいいか。


「私の両親は、恋愛結婚だったわけ。大恋愛だった、とかまだ仲良かった時には言ってた気がする。だけど、結局、お互いに浮気しまくりの罵り合い。最後には、子供要らないって押し付けあって。これじゃ、恋愛に興味なんて持てなくなるよね」


 15歳の時に繰り広げられたそれは、今でもトラウマみたいな感じだ。


「……ウワキ?」


 首を傾げる旧たおやかさんに、異世界ではないんだろうか、と思う。


「結婚した相手以外と、子供ができるようなことをすること、かな」


 私の説明に、旧たおやかさんが目を見開いた。

 あ、異世界ではなかったんだ?


「何ですって! カーシー様がそんなことをしたら! 私、私、耐えられませんわ!」


 あ、そっち。


「異世界では、浮気って概念がないのかと思った」

「ウワキとやらの言葉はないがな。別に結婚している相手以外と子供ができることはいくらでもある。私がそうじゃ」

「あ、そうか……」


 私が気まずそうな表情をしたことに、暴走系美女が苦笑する。


「気にすることではない。あの世界ではよくある話じゃ」

「……子供を捨てることも?」


 私の質問に、暴走系美女が小さく頷く。

 

「ああ。必要ないと思えば、簡単に子どもは捨てられる」

「そんな当たり前の話なんて、面白くもなんともないですわ! 今は、れんげ様の恋心を育てるにはどうしたらいいかってことを考えましょう?」


 暴走系美女の言葉を引き取った旧たおやかさんによって、どうやら話題は元に戻ったらしい。


「……考える必要、なくない?」

「いいえ! ありますわ!」

「どうでもいいのじゃ」


 冷めてる2人対熱い1人。

 どう考えても、分はこっちにあるよね?


「それより、異世界の常識をどうにかしたほうがいいと思うんだけど?」

「何がですの?」

「魔王を倒すために、力が弱い勇者一行からチャレンジさせる、とか。明らかに、おかしいから」


 私の言葉に、やっぱり暴走系美女も旧たおやかさんもピンとこない表情だった。


「仕方がないことですわ」

「じゃあ、データスの魔法でマソってやつがなくなったの、再現してみたら? マソってやつがなくなれば、魔王も二度と出てこなくなるかもしれないんだし」

「……そんなこと、にわかに信じられぬのじゃ」


 暴走系美女が首を横に振る。……そんなの当然だ。


「……もちろん、私だって、異世界にいるわけじゃないし、異世界の仕組みがわかるわけじゃない。だけど、しばらく魔物だって出てこなかったんでしょ? 可能性として、やってみる価値はあるんじゃないかって思う」


 私は、二人の顔をじっと見る。

 可能性があるなら試して欲しい。その気持ちは、本気だった。

 ……そんな気持ちになっているのは、きっと、私と同じで親に捨てられてしまって過酷な運命を背負っているこの4人に感情移入しているからだろう。

 だけど、暴走系美女は目を伏せてまた首を横に振った。


「もう、何百年も、そんな生活が続いておるのだ。そんな可能性があれば、誰かが……きっと試して居るじゃろう? それに……我が国には、魔法の力が秀でておる賢者様もおるのじゃ。賢者様の魔法を使ったとしても……魔物が出てこなくなるようなことは、あり得ない。データスが使える魔法を、賢者様が使えないとは思えないからの。だから、データスが魔法を使った後に魔物が出なくなったのは、何か偶然が重なったのかもしれんのじゃ」


 私は必死な気分で首を横に振る。


「……そうかも、しれないけど。だけど、もしかしたら、誰も試してないかもしれない。最初から無理だって思って、ずっとずっと次々に出てくる魔王を倒し続けるって、対処療法しかしてこなかったのかもしれない。だから、試せるなら試して欲しい。……死ぬの前提で、魔王討伐に行ってほしくなんてないよ」


 この出会いが偶然の産物だっとしても、関わった人が簡単に死地に向かうようなこと、肯定したくはなかった。


「……じゃが……」


 暴走系美女が口を開いたと思ったら、旧たおやかさんが視線を向けさせるために手を挙げた。


「……私は、れんげ様がおっしゃりたいことは、何となくわかりましたわ。でも……データス様のあの魔法をどうやって再現させればいいのか、きっとデータス様自身もわかっていないんじゃないかと思いますの」


 そう言えば、魔法のコントロールができないって、そう言ってたよね。


「だとしても……一度使えた魔法なんでしょ? また使える可能性はあるよね?」

「まあ、あるのはあるじゃろうが……」


 暴走系美女は戸惑った表情のまま、曖昧に頷いた。

 旧たおやかさんが大きく頷く。


「ですから、れんげ様。恋のレクチャーをいたしますわ!」


 にっこり笑う旧たおやかさんに、私は何度も瞬いた。

 ……今の会話、成立してた?

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