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案内記35

 花火を片付け終わり、元来た道を戻っていく。

 心なしか、皆の顔は上気しているようにも見える。

 ……みんなが楽しめたんなら、いいな。


「れんげ、この世界の夜は怖くないんじゃな!」

「まあ、イザドラさんの世界に比べたら、日本とか長崎の夜は怖くないでしょうね。こうやって出歩けるので」

「十分、怖いぞ」

「データスは魔法がなければただの腑抜じゃの」

「魔法があっても考えなしの人に言われたくはないですね!」


 二人の応酬は、冷たいものじゃなくて、ちょっとしたツッコミあいだ。お互いに信頼してるから成り立っている言葉の遊びというか。その緩さに、クスリと笑いが漏れる。


「……ところで、イザドラさんって、どうしてそんな言葉遣いなの?」

 

 最初は王女として生活してたからだと思ってた言葉遣いだけど、どうやら王女としては生活してなさそうだし、なのに、どうして一人だけこんなしゃべり方するのか、今更ながら不思議に思った。


「意味はないぞ」

「だって……気になるんだけど。イザドラさん、他の3人と、しゃべり方が違うでしょ?」

「それは、方言です。イザドラ嬢の出身地は、地域の言葉のなまりが強くて、学院でずっと生活していても、その方言だけは残る人間が多い」


 私の疑問に答えたのは、濃い顔イケメンだった。


「方言?!」


 まさかの説明に、私の声が高くなる。

 方言って……えーっと、そうか、この暴走系美女のしゃべり方は、方言なのか……。関西の人が方言が抜けないのと一緒か。

 王家の人間だからじゃなかったのか!

 なるほど、確かに暴走系美女にとっては意味はないかもしれない。


「方言がわかると言うことは、この世界にも方言があるんですの?」


 旧たおやかさんが目を丸くする。

 ……そうか。私は標準語を使ってるから。


「あるよ。ここにはここの。他の地域には他の地域の方言がある」

「れんげは、ここの方言をしゃべってるのか?」


 根暗美男子の言葉に、私は首を横にふる。


「3人が標準語しゃべってるから、私も標準語になってるかな。長崎弁でしゃべりかけられたら、長崎弁が出てくると思うけど。一応、5年はここで暮らしてるからね」


 それでも、長崎弁を使いこなせている気はまだしないんだけど。ただ、地元の友達たちが話しているのは、ほとんどわかるようになった。


「ナガサキベンとやらをしゃべってみるがよい!」

「えー。いきなり言われてもね。……えーっと……イザドラさんってきれいかとにねー」

「れんげ! 褒められてないのだけはわかるぞ!」


 ……どうやら、意図は伝わったらしい。


「イザドラさんって、美人なのにねー、って褒めてますよ」


 私がしれっと告げると、根暗美男子が口を開く。


「れんげ、その言葉は間違ってる。イザドラ嬢は、残念なだけだ」


 え。それにはちょっと異論があるよ?


「えー? 美人でしょ! どう見たって美人だって! だから、より残念さが増すんでしょ!」

「れんげ、やっぱりけなしておるだろう!」

「れんげ様、異世界には、もっと美人な方がおられるわ? イザドラ様程度の人なら、いくらでも……」


 なぜか、旧たおやかさんが参戦してきた。……え? この暴走系美女のレベルが並なの? ……確かに、4人とも、顔は間違いなくいいけど……。異世界の顔面偏差値高すぎやしない?!


「ルース! わかってはいるが、けなす手伝いなどするでない!」

「え? そこはいいの?! 残念なのがダメなの?!」


 美人認定はされなくていいんだ!?


「だかられんげ!」

「残念なのは間違いない」

「そうね、残念なのは間違いないわ!」

「お静かに。今は夜です。この騒ぎに乗じて魔物が出てきたらどうするのです」


 濃い顔イケメンの忠告に、3人が口をつぐむ。

 ……いや、魔物は出ないけどね。出たら困る。


「え?」


 旧たおやかさんが目を見開く。

 旧たおやかさんの反応に、とたんに他の3人が真剣な目になり、身構える。その目は、まるで今から戦いだしそうな、そんな緊張感がある。


「ルース殿?」


 濃い顔イケメンがひそひそと尋ねると、旧たおやかさんが、ハッとした顔になる。


「いえ、今……精霊が……」

「精霊がどうしたのじゃ?!」


 暴走系美女の言葉に、旧たおやかさんが目を揺らす。


「ここは、魔物がいない平和な国だって」

「ええ、その通りですよ」


 私は大きく頷いた。だって、精霊の言っていることは間違ってないから。


「でも」


 旧たおやかさんが不安そうな視線を私に向ける。そうか。旧たおやかさんは夜の間は精霊の言葉を聞かないようにしてたから、戸惑ってるんだ。


「でも、今の今まで、私たちは魔物に襲われてもいないし、花火を楽しめる余裕もあった。それが事実です。精霊さんが言っているのは、間違ってません」


 私は旧たおやかさんに言い含めるように、ゆっくりと告げた。


「だけど……」

「ルースさん。魔物は出てこないですよ。私も保証します。それじゃ、足りないですか?」


 私の言葉に、旧たおやかさんが目を伏せた。


「……カーシー様がおられないから、不安なのです」


 ドキンとする。何この乙女……いじらしい。


「いや、カーシーがいても、ルース嬢、精霊の言葉は夜は聞かないって言ってましたよね」


 ちょい。根暗美男子、余計な口をはさむんじゃない!


「ああ、そうでしたわ! カーシー様が、精霊の言葉を夜信じないんでいいんじゃないの、っておっしゃったんですの!」


 勇者ー!

 余計なこと言うんじゃない!


「私、やっぱり信じませんわ!」


 ……いや、平和だから。魔物出てこないから!

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