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案内記34

「あー。面白かったな!」


 花火のほとんどをやりつくした暴走系美女が、笑顔を見せる。

 ……暴走系美女、残念さんだけど美女なんだな、って改めて思う。


「れんげ様、後はゴミでしょうか?」


 花火が入ってた袋を、濃い顔イケメンが持ち上げる。


「それ、それも花火だから!」


 カラフルなこよりのようなものの束を指さすと、濃い顔イケメンが目を見開く。


「これは、ゴミではないのですか?!」

「これも、花火なの。線香花火って名前の、花火なんです」

「……本当なんですの?」


 旧たおやかさんも、訝し気な表情だ。

 ……こよりにしか見えないから、だろうなぁ。


「こうやってやります」

 

 私は束から一本抜き出すと、火をつけた。

 静まり返ったその場に、パチパチと小さな爆ぜる音と、小さな火花が浮かび上がる。


「……本当じゃ。だが、地味だな」


 暴走系美女の言葉に苦笑する。

 

「いいんです。これが風情があるんですよ」

「あ。火花の形が変わりましたわ」


 旧たおやかさんの顔が、明るく照らされる。


「……私は、結構好きかもしれない」

「あ、火花が小さいから、怖くないんでしょ?」


 私がからかいついでに根暗美男子を見上げると、根暗美男子はムッとした表情で、線香花火に火をつけた。


「ずるいぞ、データス! 私もやるぞ!」


 暴走系美女は、5本つかむと、そのまま火をつける。


「絶対、沢山あった方がきれいじゃ!」


 暴走系美女が力説する。

 あー。いるよね。こんな人。

 火花が、私のものよりも派手になる。


「ほら、どうじゃ!」


 暴走系美女がそう言った瞬間、暴走系美女の手にある花火の先が、ボトッと落ちる。


「なんじゃ! これは一体どういうことじゃ!」

「この花火、静かにやらないと、花火の先が早く落ちちゃって終わるんです」


 愕然とした表情の暴走系美女に、私は苦笑しながら口を開いた。

 私の花火は、最後の火花を散らして、ポトリ、と小さくなった火球が落ちた。


「あ、落ちた」


 悔しそうな根暗美男子が、また新しい1本を抜き出す。


「何!? 私ももう一度やるぞ!」


 暴走系美女が、今度は1本だけ取り出す。


「あ、残り一本だけど、どっちがやる?」


 私が苦笑しながら濃い顔イケメンと旧たおやかさんを見ると、二人とも首を横に振った。


「れんげ殿のように上手にできる気がしません。れんげ殿が、最後にやるのがいいかと」

「そうね。それがいいわ。ほら、二人とももう、落ちちゃったもの」


 クスリ、と旧たおやかさんが、悔しそうな声を出す暴走系美女と根暗美男子の二人を見て笑う。

 2人は早々に火球が落ちてしまったらしい。

 根暗美男子が、恨めしそうに私を見ている。


「えーっと、データス、やる?」

「……いや、れんげがやればいい」


 そんな顔してないけどね?


「私が! 私がもう一度やるのじゃ!」

「イザドラ様、大人しく見ておきましょう? これが、最後の花火ですわ」

「……うむ」


 予想外に旧たおやかさんの説得に簡単に応じた暴走系美女が、ずい、と私に体を近づけてくる。


「あの、イザドラさん。見るのなら、私の横の方が助かります。ドレスが気になります」

「そうか」


 案外素直に、暴走系美女は私の隣に陣取った。


「れんげ、やるのじゃ!」


 何だろうなー。線香花火って、こんな緊張感ある感じでやるものじゃなかったと思うんだけどな。

 火球を最後の最後まで落とさずに、って思うと、緊張しちゃうよね。

 そろそろと蝋燭に線香花火を近づける。

 パチパチとはぜ始めた花火を、じっと見つめる。


「どこにコツがあるのか、見極めてやるのじゃ!」

「……次にやる機会はないと思うんだけどね」


 私のツッコミに、暴走系美女がムッとする。それでも、その視線は線香花火に注がれたままだ。


「そんなこと、わからぬではないか!」

「だって、大賢者ってすごい人にしか、異世界に飛ばす魔法は使えないんじゃないの?」


 誰にでも使える魔法じゃ無さそうなんだけど。


「可能性はゼロではないかもしれませんわ」


 旧たおやかさんの視線が、ちらりと根暗美男子に向く。


「確かに、データス殿ほどの魔法が使えるなら、もしかすると……ただ」

「ただ?」

「それが発動するかしないか、どんな魔法が発動するかがわからないのが、データス殿の弱点というか」

「そうじゃな。下手したら復活を遂げた魔王城に戻るやもしれん」

「そうですわ。間違って、王都を壊されたら困りますもの」

「それは……迷惑だね」


 私たちの視線は線香花火に向けられたままだけど、きっと皆苦笑してるだろう。そこまでコントロールが下手だと……魔王が倒せて、王都に転移して戻れたのは奇跡的だったんだな。ある意味、持ってるけど。


「……いや、やってみないとわからないでしょう」

「被害が出てからでは遅いのじゃ」

「イザドラ嬢に言われたくはない!」


 暴走系美女と根暗美男子のツッコミにクスリと笑うと、まだ大きかった火球がポトリと落ちた。


「「「「あー!」」」」


 いや、責められてもね。

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