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案内記33

 ボウ、と暗闇にろうろくの明かりが揺れる。


「何をするのじゃ?」


 暴走系美女の言葉に、私は花火を一本手に取る。


「これには、火をつけていい方と、つけてはいけない方があります。それで……」


 私が花火を蝋燭の火に近づけると、こよりがジリジリと燃え始め、勢いよくオレンジ色の火花が吹き出した。昼間に嗅いだ線香の匂いとは全然違う火薬の臭いが広がり、細い煙が、あっという間に空間に広がる。


「「「「おお」」」」


 4人が同時にどよめく。


「水じゃ!」

「れんげ殿! そっちは火をつけてはならない方ではありませんか?!」

「え、あ、れんげ、大丈夫か?!」

「れんげ様! 早く手を離してくださいませ!」


 4人の慌てっぷりに、笑ってしまう。

 もっとすごい魔法を見てるだろうに。


「これが、花火です」


 花火の色が、オレンジ色から緑に変わる。

 花火に照らされる4人の顔が、目を丸くする。


「これが、ハナビ?」


 しゅうぅと、火が小さくなる。


「消えてしまうぞ!」

「他にもいっぱいありますので、どうぞ」


 私の言葉に、迷わず花火を取ったのは、暴走系美女だ。そのあとに、濃い顔イケメン、旧たおやかさんと続く。

 そして、あっという間に、周りは煙がもうもうと立ち上がり、色とりどりの火花が散っている。

 どうやら3人は楽しめているみたいだ。


「データスは怖いの?」


 根暗美男子をからかうと、ムッとした表情になって、花火をつかんだ。


「怖くなどないです!」

「……本当に、よくあんな魔法使えたね」


 どう考えても、怖がって使えそうな気がしないのに。


「あれは……偶然の産物だから」

「……それまでに使ったことはなかったの?」


 肩をすくめた根暗美男子は、恐る恐る蝋燭の火に花火を近づけた。


「ない。魔法が使えても、威力の弱い魔法しか使えなかった。そもそも、一番の落ちこぼれだったと説明しただろう?」


 そうだった、と思いながら、いつまで経ってもつかない花火をじっと見る。


「……それ、湿気てるかも。これと替えて」


 去年の花火してると、時々あるよね。


 私が差し出した花火を、根暗美男子のものと交換する。

 手が触れると、根暗美男子はポトッと、花火を落とした


「なんで落としたの?」

「い、いや……何でもない!」


 ぷい、と根暗美男子が顔をそむける。

 何だかよくわからないけど、どうやら機嫌を損ねたらしい。

 ま、いいけど。


「ほら」


 私が再度差し出した花火を、根暗美男子が勢いよくつかみ取る。


「なんで怒ってるかわかんないけど、花火したくないんだったら、無理にしなくてもいいんだよ?」

「する!」


 根暗美男子が花火に火をつけると、勢いよく火花が噴き出る。

 おののいて体を後ろにそらしていた根暗美男子は、ちょっとずつ前かがみになる。

 その目は、花火に釘付けだ。


「綺麗でしょ?」


 隣に立つ私の言葉にちらりと私をみた根暗美男子は、小さく頷く。


「ちょっとは」


 素直じゃない根暗美男子の言葉に、私は笑いが漏れる。


「れんげ、何で笑うんですか」

「いや、別にー。花火、綺麗だよね」

「……本当に、墓地でこんな風に花火をするんですか? 今、花火をしてるのは、私たちだけですが」


 根暗美男子が、きょろきょろと周りを見回す。当然、周りに人気があるはずもなく、暗闇が広がるだけだ。


「本当だって。……まあ、花火をするのは、いつもお盆の時だけなんだけどね」

「お盆?」

「死者の霊を悼む日、って言えばいいのかな? この国の風習で……大体の地域が、8月の中旬になると、こうやってお墓にやってきて……」

「ハナビをするのか?」

「長崎、ではね。15日の夕方に墓参りに来ると、花火をするんだよね。他の場所ではしないと思うよ。聞いたことないし」


 長崎のお盆の墓参りは、違う土地の人が見たら、驚きの光景のオンパレードじゃないかと思う。

 私だって、高校生になってから初めて参加したお盆に、目を白黒させた記憶がある。それまで、長崎にお盆に来たことはなかったから知らなかったんだけど。


「なぜ、墓の前で花火をするんです?」

「なんでだろう? 長崎の人は、当たり前みたいにやってるから、どうしてやるのか知ってる人いないんだよね。他の国の影響かもね」


 果たして、中国の人が墓の前で花火をするのかは疑問だけど、お盆の精霊流しは、完璧に中国の影響受けてると思う。だって、爆竹が大量に消費されるから。


「いろんなところに提灯がつるされて、ぼんやりと明るい中で花火をする雰囲気は、幻想的で好きなんだよね」


 最初、夕方に墓参りにいくってじいちゃんとばあちゃんに、驚いた。しかも、花火持っていってって、信じられないって言ったよね。

 「何ば言いよっとね。夕方に行って子供は花火するとが普通やろ」って呆れた顔のばあちゃんに、普通じゃないって抗議したっけ。

 

「……見てみたいな」


 ぼそりと呟く根暗美男子に、私はクスリと笑う。


「見せてあげたい気はするけど、8月15日にならないとだし……これ、魔王退治した褒美なんでしょ? 無理じゃないかな」

「……そうか。異世界転移の魔法を……」


 ブツブツと根暗美男子は何やら言ってるけど、無理だと思うんだけどな。

 そもそも、魔王倒したのだって偶然の産物って言ってるのに、異世界に行く魔法も、偶然の産物でしょ?


「れんげ! 見ろ! 綺麗だろう!」


 暴走系美女の言葉に、顔を挙げれば、暴走系美女が花火で丸を描いていた。

 えーっと、綺麗だよ。綺麗だと思うけどね?


「イザドラさん! ドレス! ドレス!」


 火花がドレスに散ってる気がするけど、大丈夫?


「大丈夫じゃ! トレーシーに修繕を頼む!」


 絶対侍女さん困るだけじゃないかな。

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