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案内記31

「夜なのに……魔物が出てこないなんて……」


 階段を下りながら、旧たおやかさんが、ため息のようにつぶやく。


「懐かしいな。旅の途中に魔物に会わずに過ごせたのは、データスが魔王城を爆発させたぶりじゃな」


 懐かしそうに告げる暴走系美女よ。それはきっと、数年前とかの話じゃなくて、結構最近の話じゃないだろうか?

 と言うか、魔物に会わずに済んだって……どれだけの範囲を根暗美男子はめちゃめちゃにしたんだろう?


「そんなに、広範囲に及ぶ魔法だったの?」


 私の隣を不安そうに歩く根暗美男子に、私は問いかける。不安そうな瞳を挙げた根暗美男子は、首を横に振った。


「壊したのは、魔王城だけだ。その周りの数十メートルの範囲には影響があったかもしれないが、何キロにも渡って破壊などしていない」

「魔王城、だけ? えーっと、魔王城の周辺では魔物に会わなかった、ってこと?」


 ……ピンポイントって、ある意味すごいな。でも、普通は、被害があったところだけだと思うんだけど。だって、城を壊すような魔法じゃ、魔物……ひいては生き物は生きていられないだろうから。

 ちょっと考え込んでいた濃い顔イケメンが、ぱっと顔を上げると口を開いた。


「いや、魔王城から離れても、数日、いや1週間ほどは魔物には会わなかったですね」


 1週間?


「えーっと、どうして?」


 意味が分からないんだけど?


「どうしてでしょうね? 考えてもみなかったですわ」


 ……考えたこともなかったのか。でも、それは旧たおやかさんだけじゃないみたいだ。だって、他の3人もうなずいているから。


「魔王が死んだら、魔物も死んじゃうの?」


 私の質問に、4人とも首を横に振った。


「魔王を倒したとしても、魔物がいなくなることなど、今まではなかったぞ」


 暴走系美女が首を横に振る。


「なら、魔物は……魔王城が壊されたのに驚いて、しばらく出てこなくなった、とか?」

「魔物がそんなこと考えるでしょうか?」


 濃い顔イケメンが首を傾げる。


「魔物が考えられるくらいであれば、すでに王都は魔王や魔物の手に落ちているんじゃないのか? 魔王や魔物に知性などない」


 根暗美男子が呆れた声を出す。いや、そちらの常識は私の常識ではないので!


「……そうなの? いや、でも……普通なら魔王を倒してもいなくならない魔物が、データスが魔法を使った後から現れなくなったんでしょ? 何か、理由があるんじゃないのかな?」

「さあ? あ、でも、魔素がなくて魔法も使えない状況だったから、魔物が出てこなくて助かったのは間違いないですけど」

「そう言えば、そうでしたね。結界が張れないと、夜の野宿は魔物から身が守れませんから、あの時は、偶然とは言え助かりましたね」


 根暗美男子の言葉に、うんうんと濃い顔イケメンが頷く。


 ……えーっと?

 

「それって、偶然、なの?」


 私の問いかけに、暴走系美女は首をかしげているし、旧たおやかさんは、私のこと不思議そうにみているし、濃い顔イケメンはキョトンとしている。

 ただ、根暗美男子だけは、眉を寄せた。


「偶然じゃない?」

「だって、データスが魔法を使ったら、魔物がいなくなって、マソってやつもなくなったんでしょう? これって何か因果関係が……。あれ。データスが魔法を使ったら、マソってやつを使い果たしたってこと?」


 私の疑問にキョトンとしていた濃い顔イケメンが首をかしげた。


「そう、なるんでしょうか」

「そう……なのか?」


 眉を寄せている根暗美男子は、ますます眉を寄せて腕を組んだ。


「れんげが何を言っているかわからんぞ!」

「そうですわね」


 ……これは、異世界の常識じゃないってことなのかな?


「データスの魔法のせいで、魔物が出なくなったんじゃないのかなって。つまりさ、魔法でマソってやつを使い果たしたら、魔物が出てこなくなる、ひいては、魔王も出てこなくなるってことじゃない?」


 私のたどり着いた答えに、4人が目を見開く。


「「「「まさか」」」」


 ……いや、今の話を聞いた限りは、でもそれ以外で魔物が出なくなった理由が説明できそうな気がしないんだけど。


「そう言えば……丁度魔王城を吹き飛ばした辺りで、結界が張れなくなった時があって、王都が大わらわだった、という話を聞いた」


 ぼそり、と根暗美男子が呟く。


「そう言えば、確かに大変だったと聞いたような気がしますわ。もしかすると、最強の魔王が生まれたんじゃないかって……あら?」


 旧たおやかさんの視線が、根暗美男子に向く。


「恐ろしい魔法を使う人間を一人知っていますが……」


 濃い顔イケメンも、根暗美男子を見る。


「……データス。いつの間に魔王になったんじゃ!?」


 目を見開く暴走系美女よ。

 いや、3人よ。

 どうしてそっちの方向に行く?!

 呆れた気分で根暗美男子を見れば、なぜか根暗美男子はわなわなと震えながら、自分の両手を見つめている。

 ……なぜ?


「私は……私は……魔王になってしまったのか!?」

「違うと思うよ」

「データス! 覚悟せい! 今度こそ、私の力をみせてやる!」

「いや、イザドラさん、剣持ってないでしょ?」

「データス殿! 仲間だと思っていましたが、魔王となれば、見逃すわけにはいきません!」

「いや、マイルズさん、もっと仲間を信じようよ!」

「データス様……ごめんなさい。今度こそ、魔王はカーシー様の手で沈むのですわ!」

「あ、やっぱり勇者が倒すんだ」


 じゃなかった!

 聞いてー!

 

「わ、私は……まだ、人間の心を持っているはずなのに?!」

「いや、データス人間でしょ」

「あ、この世界では魔素がないからの」

「あー。魔王も魔素がなければ、ただの人ってことなんですか」

「ああ! 今ならば、カーシー様もとっても簡単に魔王を倒すことができますのに! どうして来てくださらなかったのかしら!」

「いや、3人とも、何か間違ってるから! データスは魔王じゃないって!」


 ようやく私の言葉が届いたのか、4人の視線が私に向いた。


「「「「証拠は?」」」」


 いや、3人が言うのはわかるよ。

 根暗美男子自ら言うとかやめてよ……。

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