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案内記29

「……もしかしたら、次の魔王戦の時には死ぬかもしれないのに、4人はどうして、そんなに明るくいられるんですか?」


 平和な国に生きる私と、とても過酷な状況に置かれた4人の感覚の差は、埋まるのが難しい気がした。

 だって……私は4人みたいに、生きるか死ぬか、の世界には生きていないから。

 だけど、そんな過酷だと思える状況に生きてるのに、この4人には、悲壮感を感じなかった。

 それは、その状況が当たり前だって思っていることもあるのかもしれない。だけど、それだけだとも思えなかった。

 私の疑問に、4人はぽかんと口を開けた。予想外の質問だったのかもしれない。


「どうして? と言われてもな」


 暴走系美女が肩をすくめる。


「私は、いつもこんな感じですの」


 旧たおやかさんが首を傾げた。……ちょっと異論はあるけれど。


「私は……私のやるべきことを淡々とやるだけですからね」


 濃い顔イケメンが苦笑する。


「……私が明るい?」

「ごめん、3人は、の間違いだった」


 眉を寄せる根暗美男子に、私はあっさり訂正した。根暗美男子は自分で疑問を呈してたのに、ムッとした表情になる。

 自覚してるくせに、怒るとかねー。

 あ、そう言うことじゃない。


「何か、心の支えになってるものとか……何か目標にしていることとか……あるんですか?」

 

 私は、切り口を変えてみることにしたんだった。


「心の支え、か?」


 暴走系美女が困ったように眉を寄せた。


「当然、心の支えはカーシー様! そして目標は、カーシー様との結婚ですわ!」

 

 ……それを聞きたかったんじゃないんだけどなー。


「心の支え? 目標……ですか。れんげ殿は、不思議なことに興味を持ちますね」


 濃い顔イケメンは、やっぱり苦笑している。


「れんげだからな」

「うるさいな! データスは、何かないの?」

「……何も」


 根暗美男子は、私から目をそらした。

 ……これも、ダメか。


「じゃあ、どうして皆は、異世界旅行をしようと思ったの?」


 私が4人の顔を見回すと、なぜか皆目を伏せた。

 ……やっぱり、理由があるんだよね?


「元の世界から、逃げたかった?」


 私の言葉に、ふ、と暴走系美女が声を漏らした。自嘲するような表情だった。


「国のために、終わらせようと思ったんじゃ」

「え?」


 それこそ、予想外の答えに、私は口を開いたまま瞬きをする。


「今回はたまたま、データス殿のおかげで魔王を倒せましたが、次が同じようにできるとは限りません。データス殿の魔法も不安定ですしね。我々は、学院でも一番出来損ないで、お荷物でしかありませんから。異世界に行って、そのまま戻らずにいなくなる方が、国のためかもしれないって」


 濃い顔イケメンが遠くを見つめる。


「私は、カーシー様と一緒であれば、どんな終わり方でも構いませんの」


 旧たおやかさんが、ニコリ、と笑う。


「……そんなの……国のためなんかじゃないよ!」


 あまりに哀しい理由に、私の目から涙がこぼれる。


「なんでれんげが泣くんだよ」


 根暗美男子が慌てている。


「だって、あんまりだもの! 魔王を倒して、本当なら感謝されるべきなのに、自分の存在意義がないって、自分から命を捨てに異世界に来たってことでしょ? そんなの……哀しすぎるよ!」

「魔王を倒せたって言っても、あれはきっと偶然の産物だから」

「でも、倒したのは事実じゃない!」

「私は、帰るつもりでこっちに来たから。ただ、皆が行くって言うから……」


 もじょもじょと言い訳をする根暗美男子を見ると、バツが悪そうに私を見ていた。

 ……そう言えば、最初から異世界に来るの乗り気じゃなかったみたいだったよね。


「私はカーシー様と共にあると決めておりますの。カーシー様がいない異世界に留まるわけにはいきませんわ!」


 つまり? 旧たおやかさんも、戻るつもり、ってことね?


「最後の晩餐のつもりで食べた料理が、本当においしくてな。もちろん、あれを再び食べるために、私も帰るぞ」


 暴走系美女……理由が……。


「私も、戻るつもりでいますよ。実際に異世界に来てみたら、生きて帰りたいと願う自分がいましたから」


 最後の濃い顔イケメンの言葉に、ホッとする。


「何じゃ、れんげは、我々がまだ命を終わらせたいと思っておると思っておったのか? そんなことを思っておるのなら、日の入りまでに慌てて帰ってこぬわ」


 そうだった! この人たち、暗くなると困るって、必死で帰ってきてたんだった!


「だって、イザドラさんとマイルズさんがあんなこと言い出すから!」

「……聞かれたから答えたまでじゃ。私たちを心配する人間は初めてで、どう答えたらいいのかわからぬ」


 暴走系美女の言葉に、私は脱力する。


「……帰るつもりなら帰るつもりって、最初から言ってくれれば……」

「泣かずにすみましたかしら?」


 心配そうな旧たおやかさんに、ちょっと恥ずかしくなって目を伏せる。


「そうですけど……」

「私も、言うつもりはなかったのです。でも、れんげ殿が一生懸命に私たちのことを考えてくれようとしているのがわかったので、正直な気持ちを言わなければ、と思って」

「……だって、そんな状況、どうにかできるのなら、どうにかしたいって思うよ」


 濃い顔イケメンの言葉に、自分が信頼された気がして、気恥ずかしくて唇をかむ。


「れんげは、どうしてそんなに私たちのことを一生懸命考えようとしてくれるんですか?」


 根暗美男子の言葉に、私は一瞬だけ考えて、口を開いた。


「私も、親に捨てられたから。でも、捨てられたから自分に価値がないって、思いたくないから。だから、皆にも、そんなこと思ってほしくなくて」


 声が、震えた。


「れんげも、なのか」


 根暗美男子の声がハッとする。

 私は慌てて笑顔を作る。


「ただ、私には祖父母がいたから」


 私が親に捨てられたのは、中学3年の時だった。

 離婚が決まったお父さんとお母さんが、私を押し付け合っていたのを見かねて、手を差し伸べてくれたのは、母方の祖父母であるじいちゃんとばあちゃんだった。

 「あんたたちには、れんげをまかせられんけん!」って、啖呵を切ったばあちゃんは、かっこよかった。ずっと、ぶっきらぼうで苦手だと思ってたけど、一瞬で信頼できる相手になった。


「なるほどな。共通点は、親に捨てられた、というところか!」


 何かを発見したように目を輝かせる暴走系美女に、しんみりした空気を蹴散らされた。

 ……いや、内容はちょっとシビアな内容のはずなのに、この軽さ、何だろう?


「れんげ様とは、境遇が似ているから、話が合うのかもしれませんわ……でも、カーシー様は渡しませんわ!」

 

 ……旧たおやかさんと話が合った覚えもなければ、勇者にも興味がないんだが?

 

「あの、食事に戻りませんか? せっかくの料理が冷めてしまいます」


 ……濃い顔イケメン? 今大事なの、そこ?


「……おかわり」


 根暗美男子。さっき、食べたくなさそうだったけど、いつの間にかマグカップの中空っぽなのね?

 

 あのシリアスな空気、どこに消えちゃったんだろうなぁ。

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