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案内記27

「ドレスが……」


 予想外にメソメソ泣いている暴走系美女が、邪魔だ。その手には、破れたドレスの裾がある。さっき、足を踏み抜いたときに、破れたらしい。……ばあちゃんの裁縫道具、どの箱に入れたかな……。いやでも、手縫いするより、異世界で修理してもらった方が……。でも、王女がドレス修理したりする?


「あの、イザドラさん、邪魔なんで……手伝うんじゃなければ、テレビの部屋に行ってくれないですかね」


 と、私は何度か声をかけてるけど、暴走系美女は聞いてない。

 他の3人はすでに撤収してると言うのに。


「これは……初めて父上から賜ったものなのじゃ……」


 ぼそぼそとしゃべる暴走系美女に、私は首を傾げる。

 初めて?

 あれ?


「イザドラさん、王女、でしたよね?」


 なのに、初めて?

 ……普通は、王様からもらったりしないけど、魔王倒したから特別に、ってことなのかな?


「私は、王女と言っても庶子にすぎぬ。だから、父上と顔を合わしたのも、あの時が初めてだったのじゃ」


 え?


「でも、お父さん、なんですよね? 初めてって……」


 私の言葉に、暴走系美女が涙にぬらした目をあげた。 


「そもそも、私は幼いころに魔法の力があるとわかると、学院に押し込められたのじゃ。……最初から、捨てられておるのじゃ」


 普通に王女様してたのかと思ったけど、ちょっと違う?

 って言うか、学校に入ることが、捨てる?

 ……子供を捨てるってこと?

 私は野菜を刻む手を止めた。


「だって、勇者一行になるって……名誉なことじゃないんですか?」


 私の言葉に、暴走系美女が目を伏せる。


「勇者一行など、使い捨てだ。その時の魔王を倒せれば、生きて帰れる。そして、褒美がもらえる。それだけだ」

「え?」


 勇者一行が、使い捨て?


「いや、それっておかしいでしょ?」


 私の声が強くなる。その声に、暴走系美女が顔を上げる。

 その顔は、私が知っている暴走系美女の表情とは違った。

 どこか、途方に暮れている……迷子の子供みたいだった。


「何が、おかしいのじゃ?」

「魔王って、倒さなくてもいいものなんですか?」

「そんなことはない。魔王を倒さねば、人間は滅びてしまうからな」

「でしょ? なのに、魔王を倒す役割の人たちが使い捨てって……おかしいでしょ」

「おかしい? だが、次から次に魔王が出てくるのじゃ。次から次へ勇者を送り込まねばならぬだろう?」


 暴走系美女は、本当に不思議そうな顔で答えた。

 暴走系美女は、疑問に思ったことないのかな? ……絶対、おかしいのに。だって、国のために戦う人間を使い捨てだなんて!

 どう切り込めば、それがおかしいことなんだって、理解されるだろう?


「……勇者一行を送り込む以外、国が魔王から国民を守るためにやってることってあるんですか?」

「国の周囲に結界を張り続けている」

「結界って、魔法ってことですよね? 結界は誰が張るんですか?」

「学院で魔法の力が秀でている人間がやる仕事だ。私のように魔法の力の弱い学院生は、勇者一行になるしかないんだ。……学院では、力のない者ほど、早く魔王退治に送り出されるのだ」


 肩をすくめる暴走系美女の言葉に、怒りが湧く。


「国は魔王を倒したいんですよね? それなのに、力の弱い人間たちから、魔王退治に送り込むって、人間が沢山死ぬだけじゃないですか!? どうして、力の強い人間を選んで送り込まないんですか!?」


 暴走系美女に怒りを向けても仕方がないとわかっていても、言葉尻が強くなってしまう。


「力のある人間は、国にとって有用だからじゃ。……今回、データスの予想外の力で難を逃れたが、それがなければ、私たちは魔王城で息絶えていただろう……学院で一番力がないとみなされておったからな」


 淡々と告げる暴走系美女の目には、諦めも何もなかった。ただ、その事実をそのまま受け入れている、そういう風にしか見えなかった。


「もう、魔王退治には行かなくて済むんですか?」

「いや。またそのうち行かされるじゃろうな」

「……嫌じゃないんですか?」


 私の目には、涙がにじんできていた。声が震える。


「そのようにしか生きられぬからな。それが、定めじゃ」


 暴走系美女は、私に言い聞かせるように告げた。


「定めって……変えることは、逃げることはできないんですか?」

「親に捨てられ、学院に入った時点で、変えることなどできぬよ」

「……24時間で帰るって言ってましたけど、その時帰らなければ……」


 この4人がこの世界で生きるのも難しいかもしれない。だけど、そんな過酷な状況で生きていくのならば、と、そう思ってしまった。

 だけど、暴走系美女はゆっくりと首を横に振った。


「24時間が過ぎると、元の世界との繋がりが切れてしまう」

「繋がりが、切れる? それなら、万々歳じゃないですか!」


 光を見出したような気持ちになって、私の声が跳ねる。

 だけど、暴走系美女は目を伏せた。


「元の世界との繋がりが切れてしまうというのは、死んでしまうことだからな」

「死ぬ?」

「ああ。魂の根源は、元の世界にある。だから、繋がりが切れれば、死ぬしかないのじゃ」

「それは……嘘かもしれないじゃないですか。だって、誰にも確かめようがないから」


 暴走系美女たちの話を聞く限り、学院で学んだことをとても素直に受け入れているように思えた。だから、それがたとえ嘘でも、4人は信じ切っているんじゃないかと思った。


「……嘘? だが……それをどうやって確かめるのじゃ? 24時間過ぎたら、死ぬかもしれないのに?」


 確かに、それでは命を懸けに使うことになる。

 

「……でも、やっぱり、その世界はおかしいです! ……何か、良い方法がないか、考えましょう?」

「良い方法?」


 私の言葉に、暴走系美女が目を見開く。

 ……きっと、考えたこともないのかもしれない。その世界から、その定めから逃れることを。


「とりあえず、まずは腹ごなしです! すぐに作りますから!」


 私は、俄然張り切って野菜を刻みはじめた。


「なあ、れんげ」


 暴走系美女が鼻をすする。

 ……少しは、私の言葉が届いただろうか。


「このドレス、直らぬか?」


 ……えーっと?

 私の言葉、届いただろうか?

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