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案内記26

「1時間もあればできますから……座っておいてください」


 そう言って、いつものように居間のテレビをつけると、4人が目を見開く。


「何じゃ、これは?!」


 そうだよね。知らないよね。


「テレビです。この世界の……いろんなものを見るための道具です」


 最近、静かすぎるのに耐えられなくて、見なくてもつけちゃうのが癖になってる。だから、私にとっては、映像を見るための道具と言うよりは、音を流す道具になっているけど。


「一体、どんな仕組みなのですか?」


 濃い顔イケメンが立ち上がって、液晶テレビを上から覗き込む。


「この中に……人が入っている?」

「わけではありません」


 濃い顔イケメンの疑問に、笑ってしまう。

 小さいころ、自分がテレビの仕組みを考えてた時に思ったことと全く同じだったから。

 やっぱり、不思議だよね。


「この世界のことが、ちょっとわかるかもしれないので、見ておいてください」


 流れている番組が、アジアのドキュメンタリーだったから、丁度いいかと思ってそのままにしておく。

 私が台所に向かおうとすると、暴走系美女が私の後ろからついてくる。

 ゲームのパーティーみたいだ。ジョブが魔法剣士だから、間違ってはないのか。


「えーっと、イザドラさん。どうかしました?」

「この世界の料理とやらを見てみたい」

「……イザドラさん、料理したことあるんですか?」


 素朴な疑問だ。そもそも、国の王女って立場の人が、料理することってあるんだろうか?


「当然だ」

「……食べられるもの、作れるんですか?」


 何と言うか……今日一日の行動を見てて、大丈夫かなー、って。

 暴走系美女が肩をすくめる。


「旅の途中は、食べるところがなければ、自分たちで作るしかなかったからな」


 なるほど!

 旅って、いい経験になるんだね!

 ……その過酷な旅には行きたくないけど。


「どんなもの作って食べたんです?」

「大きな獲物は、データスが魔法で捕まえていたからな」

「へー。じゃあ、大きな獲物は、データスさんが魔法で調理とかしてたんですか?」

「いや」

「あ、魔法じゃ無理なんだ」

「違う。データスの魔法は、効果が大きすぎるか、効果が小さすぎるかで極端すぎる。だから、肉を焼こうとしても、生焼けになるからな」

「……それでよく、魔王倒しましたね?」


 私が苦笑すると、暴走系美女が頷いた。


「そもそも落ちこぼれの集まりだからな。誰も、私たちが魔王を倒すことなど、期待してはいなかっただろうな」


 え?

 私が首を傾げると、私を追い越して暴走系美女が台所に入っていく。

 あ、勝手に入られるとまずい!


「ちょっと待ってください!」


 ”バリバリ”

 木が割れる音がする。

 暴走系美女の足が、否が応でも止まった。


 ……どうやら、私の忠告は遅かったみたいだ。

 暴走系美女の足が、床に突き刺さっている。


「ここ……床が腐ってるので、通れるところが限られてるんです」


 今更だけどね?


「れんげ、それは先に言うがよい」

「だって、言う前に入っちゃうから!」

「れんげ、どうかしたのか!?」


 走ってやってきたのは、根暗美男子だった。そのあとから、濃い顔イケメンと旧たおやかさんもやってくる。


「いや、私じゃなくて、イザドラさんが」


 私が動くと、根暗美男子たちは、床にハマった暴走系美女を見て、ゆっくり頷いた。


「いつもの、ですね」

「でも、ここはダンジョンではないはずですわ」

「イザドラ様が、異世界にもダンジョンを引き寄せたのですか?」


 暴走系美女、どうやらダンジョンで度々トラップにかかっていたと見える。


「ダンジョンではないです。ここの床腐ってるので、歩く場所選ばないと、抜けるんです」

「腐ってるって……直せばいいんじゃないですか?」


 眉を寄せる根暗美男子に、私は苦笑して首を横に振る。


「明後日には、もう引っ越すから」

「引っ越すのですか?」

「そうなんです。だから、もしイザドラさんたちがこの家にやってきたのが2日後だったら、誰もこの家にいなかったと思います」

「この家が壊れてるからですか?」


 濃い顔イケメンが、部屋をぐるりと見回す。台所の天井には、雨漏りのシミが広がっている。

 私は肩をすくめた。


「それは間違いないんですけどね。どちらかと言えば、この家を借りていたのが私の祖母だったから、出ていかなきゃいけなくなっただけです」

 

 いい機会だから取り壊そうと思って、って大家さんに言われて、出ていかざるを得なくなった。

 まあ、ボロボロすぎて困ってたのは、間違いないんだけど。

 引っ越し先を探している時のやり取りを思い出して、苦いものがこみあげてくる。


「おばあ様は、いつ亡くなったんですの?」

「ちょうど、49日前に」


 迷いようもなく答えはすぐ出る。


「そうなのか……」


 何だかしんみりした空気に、私は笑ってみせる。


「あの、料理作らないと、いつまでたっても、食べられないんですけど?」

「その前に、私をどうにかしてくれぬか」


 暴走系美女は、床に刺さったままだった。

 濃い顔イケメンが、暴走系美女の足を床から引き抜いた。一応、かすり傷で済んでそうだな。


「ルース……」


 涙目の暴走系美女に、旧たおやかさんが静かに首を横に振る。

 ……癒しの力は使わないのね?

 あー。救急箱はどこに入れたかな?

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