表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/47

案内記25

「ついた!」


 根暗美男子の手を振り切って階段の最後の段を登りきると、私は急いで家の鍵を開ける。

 振り返ると、まだオレンジ色の空は残っていて、日の入りがまだであることを教えてくれた。


「どうぞ!」


 私がガラスの引き戸を開けると、4人が段ボールの積まれた玄関になだれ込む。古い家だから、玄関のたたきは広くて、段差のある上がり框に、4人の体が倒れ込むスペースは十分にあった。


「無事に、日の入りまでに着きましたわ」


 旧たおやかさんが、ホッと息をつく。

 ホッとしているのは、他の3人も同様だ。

 私だってホッとした。

 ……あれ、日の入りまでに戻らなきゃいけなかったのって、何でなんだっけ?  えーっと、聞いた? いや、聞いた記憶はないような?


「ところで……日の入りまでに帰って来ないといけない理由って、何でしたっけ?」


 私の疑問に、旧たおやかさんが目を見開く。

 あれ? 私まずいこと聞いちゃった?

 身構える私に、根暗美男子が肩をすくめた。


「精霊の力が悪しき力に影響されるからでしょう?」


 えーっとね。当然のように言われましても、そんな常識は持ち合わせておりませんので!


「どうして、精霊が悪しき力に影響されるの?」


 私の素朴な疑問に、4人とも、パチパチと瞬きを繰り返す。

 そんなに変な質問だった?

 いや、だって、知らないし。


「太陽の力を借りれないと、精霊は悪しき力に影響されて、癒しには使えないのじゃ」

「それって……夜になると、癒しの力は使えないってこと?」


 首を傾げると、旧たおやかさんが大きく頷いた。


「ええ」

「それって……夜に怪我したり、死にそうになった時って、どうしようもないってこと?」

「そうです、れんげ殿。だから夜は、野宿する場合には、データス殿の魔法による守りが必要になるのです」


 ……え?

 聖女最強ではないんだ。

 夜使えないって……不便。だって、人って結構夜に急変したりするよね?


「でも、精霊って、そんなに悪い精霊になるの? 夜だって……月明りとかあるよね?」

「そう教えられましたもの」


 旧たおやかさんが首を大きく振る。


「え? じゃあ、実際には試したことはないの?」


 私の言葉に、4人が困惑した表情になる。


「……れんげ、何を言っているのじゃ?」


 私、そんな変な話した? 試したことないんだ? って聞いただけだよね?


「え? だって……本当に使えないのか、確認したりしません?」

「それが私たちの世界の常識だもの」


 旧たおやかさんが首を横にふる。


「でも、1回くらいは……」

「それで、悪しき力に影響されてしまっては困るもの。教会では、そういい聞かせられていたわ」


 ……そうなの……?

 一人くらい試してみて本当にそうだった、って言うなら、納得いくけどな。

 医療の世界なんて、10年たったら完全に一昔。昔の常識が非常識なんてこと、ざらにあるって言われるし。だから、根拠を考えようって、言われるんだけどな。


 でも、夜に癒しの力が使えないだけだったら、急いで帰ってこなくても良くない?


「そもそもなんですけど、この世界には魔王も魔物もいないので、襲われることはないですから、夜に外歩いてたって、魔法なくても安全ですよ」


 人間に襲われる可能性はゼロじゃないし、事故に巻き込まれる可能性もあるけど。


 私の言葉に、4人が唖然とした表情になる。


「なぜそれを先に言わぬのじゃ!」


 ……いや、何でダメなのか聞く余地、どっかにあったっけ?

 まず、疲れて帰ってきたところに、突然勇者一行(勇者抜き)が現れて、困惑してる間に、日が出ている間に、私が観光案内するよう押しきられたでしょう?

 それで、帰りもまさかの脱線事故で時間がないって焦ってたから、何で日の入りまでに帰らなきゃいけないの? って素朴な疑問を挟む余地はなかった気がする。

 そもそも、他に一杯突っ込みどころがありすぎて、思い至らなかったし!

 それに……。


「えーっと、魔物がいないって、最初の方で言いましたよね?」


 それは言った気がするよ。


「確かに……言われた気がしますね」


 濃い顔イケメン、記憶力いいな!

 他の3人、聞いてないよって顔するんじゃない!


「本当に、安全なのか?」


 暴走系美女が疑わしそうに首をかしげる。


「そちらの世界よりは、安全だと思いますけど。そもそも、いつもなら私が帰ってくるの、もっと遅いですから」


 学校のあとバイトがあるから、帰ってくるのはいつも夜遅い。終バスよりは早いけど。

 今日と明日と明後日は、バイト休みにしてるから、こんな時間に家にいるけど。


「夜に外が安全な世界があるのですか?」


 根暗美男子の視線が揺れる。

 ……異世界、よほど危険らしい。


「なんなら、後で外に出ます?」


 私の提案に、4人は困惑した顔をした。

 ……夜大丈夫だってわかってたら、夜景でも見せたのにな。

 一応、長崎の夜景って、世界三大夜景って言われてるんだけど。

 でも、もう歩いてグラバー園の辺りまで戻りたくないしね。


「とりあえず、皿うどんつくって、腹ごなししてからにしましょう。しばらく歩きたくないですし」


 あんなに猛スピードで歩くとか、私の人生ではあり得ないから。

 勇者一行には当たり前でもね!


「れんげが作るのか?」


 暴走系美女、不思議そうな顔してるけど、他に作る人いないよね?


「そうですけど?」

「作れるのか?」


 根暗美男子、他に言うことはないかな?


「データス殿、旅の途中、我々は色んなものを口にしてきたではありませんか」


 濃い顔イケメン! さらに失礼だぞ!


「れんげ様、私今は癒しの力は使えませんので」


 旧たおやかさん!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ