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案内記24

「よく聞いてくださいね。次の次の電停で下りて、歩くことになります」


 私は3人に言い聞かせる。

 暴走系美女は一人前に行って前の景色を眺めているからだ。


「れんげ殿、それはどうなるということですか?」


 濃い顔イケメンの声に、私はスマホの画面を見せる。


「たぶん、下りる電停に着くのは、遅くとも6時5分くらいになると思います。そこから、歩いてうちに帰ります」

「歩いて……日の入りまでに間に合いますの?!」


 不安そうな旧たおやかさんに、私は頷く。


「計算上は。一応アプリでは歩いて35分で着くとなってます。多めに見て45分。だから、6時50分には着くはずです」


 中島川沿いをずっと上がっていって日見バイパスに出るのが示されたルートだった。そして、通ってきた道を逆にたどってうちに戻る予定だ。


「急いで歩かないと余裕がないですね。……魔法さえあれば」


 根暗美男子の眉が寄る。


「……大丈夫。間に合いますって」


 暗い表情の3人に、私は笑ってみせる。励ましになっているだろうか。


「それにこれ、歩いての時間なんで。間に合わないって思ったら、走ればいいんです。走れば!」


 とか言ってみたけど、最後の坂道を走る気力はないと思うんだよね。……癒してもらいながら走ったりするのかな? 何とも不思議な苦行だけど。


「4人とも、真剣な顔をしてどうしたのじゃ?」


 首を傾げながら戻ってきた暴走系美女ののんびりした声に、私は苦笑する。


「路面電車、途中で降りないといけなくなったんです」


 暴走系美女が目を見開く。


「何でじゃ?!」

「さっきから放送してるの、聞いてないんですか?」


 根暗美男子がため息をつく。

 あのアナウンスは、すでに3回は繰り返されている。そして、電車は眼鏡橋の手前で動かないまま止まっている。

 また繰り返された放送に、暴走系美女が耳を傾ける。


「折り返し?」

「途中でこっち側に戻ってくるってことです。だから、この路面電車、蛍茶屋まで行かないんです」

「れんげ、どこで降りるつもりなのじゃ?」

「次の次が折り返し地点なので、そこで降りようと思ってますけど」


 私の言葉に、暴走系美女が首を横に振る。


「電車の折り返しを待ってる電車がこの電車の前にもあるのじゃ。次で降りた方が早い」


 なるほど。待ち時間が増えるのは困る。無駄だと思ってた暴走系美女の行動も、案外役にたつんだな。

 日の入り前に帰り着きたいから、時間に余裕がある方がいいし。


「わかりました。めがね橋で降りて、歩きましょう」


 私の言葉に、4人が頷く。

 ……早く、電車動かないかな……。

 こんな時間に追われるようなことって、ないから、心臓がバクバクしてるんだけど。

 日の入りに間に合うかな?

 いや、間に合わなきゃいけないから、間に合わすんだ!



 ◇



「ちょ、ちょっと待って!」


 本気を出した4人の足取りは、恐ろしく速かった。

 そして一人、ゼーハーと息を切らしている私。

 毎日階段を上り下りしてるから、運動してないわけでもないんだけどなー。

 4人が速すぎるんだって!

 

 結局めがね橋で下ろされた時には、時間はすでに6時5分になっていて、時間に余裕がないのは確かだった。

 真剣な顔の4人は、無言のまま中島川沿いを黙々と歩いている。

 太陽が傾いてきて、空は青からオレンジ色に、そして東の空から濃い闇が迫ってきている。

 だけど、ようやく日見バイパスの通りが見えたから、一旦止まってもらおうと声をかけた。


「れんげ様、急いでくださいませ。少し癒しますわ」


 だけど、4人の足取りは止まる気配はない。

 ……そして、私の足は旧たおやかさんの言葉通り、少し軽くなった。

 歩いて歩いて歩くしかないんだろうな。


 道を渡って、坂を上がり、行きも通った墓地の横を通る。薄闇がよぎり始めた墓地は、いつもならちょっと怖いと思って遠回りするのに、今日はそれどころじゃない。


「れんげ、アンデッドは本当に出ないんですよね?」


 根暗美男子がそう言って、私の手をつかんで引っ張るように歩き出す。


「え?! あ……うん。そもそも、土葬されてないから、アンデッドにはならないんじゃないかな。あって、スケルトンじゃない?」


 根暗美男子の行動にテンパって、私はどうでもいいことを口走った。


「スケルトン? そんな生き物がおるのか?」


 どうやら、異世界にはスケルトンはいないらしい。


「あー……ここにはいないので大丈夫です。完全に想像上の生き物ですから」

「スケルトンでもアンデッドでも、今はどうでもいいですわ! 早く、れんげ様の家へ!」


 焦る旧たおやかさんに、私だってテンパって言っちゃったんだよ、と前を歩く根暗美男子の背中を見ながら、心の中でつぶやく。

 

 墓地を抜けて、まっすぐのもと来た道をたどっていく。

 ……4人、私の前に歩いてるけど、どこで登るとかわかってるんだろうか?


「あの、先歩いてますけど、道わかります?」

「ダンジョンに入るときにも、道を覚えておかないと命にかかわりますので、来た道も覚えています。大丈夫です」

 

 濃い顔イケメンのはっきりとした声に、凄いな、と思う。

 だけど、確かにダンジョンで道に迷ったら、きっと命は危険にさらされるんだろうなぁ。

 ……って言うか、足は軽くなったから、引っ張ってくれなくてもいいんですけどー!

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