案内記22
「そうなの。カーシー様は、グラマラスな女性が好みなのね……」
大浦天主堂を出ながらぶつぶつと呟く旧たおやかさんを、私はハラハラしながら見つめる。
……旧たおやかさん、ローブ着てるからわからないけど……中身はいかに?
そして、大浦天主堂の前に4人が揃うと、そこかしこからカメラのシャッター音がする。
大浦天主堂の西洋っぽい雰囲気と相まって、完全に異世界っぽいよね!
わかるわー。
とか、現実逃避……。
「大丈夫よ。精霊たちが力を貸してくれるわ!」
何に??
胸に?
お尻に?
……いくら聖女とは言え、精霊たちも迷惑だろうよ!
「精霊たちがかわいそうだ」
根暗美男子、本当のことだけど、今は言うんじゃない!
「え? データス様、何か言ったかしら?」
良かった! 旧たおやかさん聞いてなかった!
「えーっと、次は路面電車に乗りましょう!」
話をそらすための私の提案に、暴走系美女が目を輝かす。
次の予定は、路面電車だったから、提案としては間違ってない! タイミングがちょっと早くなっただけ!
「行くぞ、れんげ!」
暴走系美女は私の腕を取ると、颯爽と歩き出す。
「あの人、何で一緒にいるの? あの4人と一緒じゃ浮いてるよね」
「お世話係なんじゃない? 見た目もそれっぽいし」
クスクスと、小さな、だけどとげのある声が、後ろから刺さる。
……言われなくとも、知ってますとも。
と言うか、代わりたいんだったら、代わってくれたっていいんですけどね?
「れんげは、仲間だ」
根暗美男子が後ろに向かって告げると、クスクス笑いが止まる。
いや、私、勇者一行じゃないよ?
……だけど、ちょっと嬉しいと思ってしまった。根暗美男子の癖に、たまにはいいところあるじゃん。
「データス殿、どうかしたんですか?」
どうやらあの声を拾わなかったらしい濃い顔イケメンが、不思議そうに根暗美男子に問いかける。
「いや。一緒に行動してるんだから、れんげは仲間だと思ったから……」
尻つぼみになる根暗美男子は、さっきのことを説明するつもりはないらしい。
「れんげ、ロメンデンシャはどっちだ!」
暴走系美女の声に我に返ると、私は大浦天主堂の目の前の建物の右側の道を指さす。
「とりあえず、あっちに向かいます!」
私の指さした方向に、4人がぞろぞろと向かう。
当然、観光客の視線も集まる。
……気にしちゃだめだ!
「おお、海が見えますね」
最初のカーブを曲がると、濃い顔イケメンが声を挙げた。
坂の先に、海が見える。
「本当だわ。ここは、素敵な景色が見える道ね」
「嫌いじゃない」
旧たおやかさんも、根暗美男子も、どうやらこの道は気に入っているようだ。
「れんげ、ロメンデンシャはまだか!?」
暴走系美女の目には、海が見えてない、もしくは、今は海などどうでもいいらしい。
私は自信がなくてスマホを開いて確認する。
「この坂を下りきってから、右に行けばありますから!」
一個前の駅に戻れば、始発の石橋から終点の蛍茶屋まで行けるけど……そこまでしなくてもいいよね?
流石に、これだけ歩くと、歩き疲れてきた。
ほとんど休憩らしい休憩もしてないしね。
「れんげ、足取りが重いぞ!」
「私、30日も歩き続けたことないんで! もう歩き疲れてますから!」
まだ勢いよく進む暴走系美女に、疲れてる私の足取りが追いつくはずもない。
「ルース、れんげの治癒を」
「ええ、わかりましたわ」
暴走系美女の言葉に、旧たおやかさんが微笑んでうなずいた。
次の一歩を出した瞬間。
それまで上がり切ってなかった私の足が、軽やかに動く。
驚いて、私は旧たおやかさんを見る。
「え? これ、治癒の力なんですか!?」
本当に、一瞬。
一瞬で、足の重さが変わった!
「ええ。これが治癒の力ですわ」
「……信じられない」
旧たおやかさん、特に何も言ったりしたりしてなかったけど、どうやって??
聖女、凄い!
「……これって、疲れても治癒の力使えばいいから、疲れる人いなくなるってことですか?」
私の素朴な疑問に、旧たおやかさんが苦笑する。
「そんなことをしていたら、精霊が力を貸してくれなくなるわ。私の気持ちも必要だし」
「あ。ありがとうございます」
旧たおやかさんの気持ち……。それでわざわざ私を癒してくれたのは、嬉しいかもしれない。
「いいえ。れんげ様には、案内してもらっていますもの」
「……嫌いな相手とか、癒すことはできないんですか?」
私の疑問に、旧たおやかさんは目を丸くして、ふふ、と笑う。
「私が好きか嫌いか、ではありませんわ。世界が必要としている相手かどうか、精霊が教えてくれるもの。私は、その相手を癒すだけよ」
「世界が必要としている相手?」
私の聞き返しに、旧たおやかさんがこくりと頷く。
「ええ。れんげ様も、この世界が必要としていると精霊が教えてくれましたわ」
「私を? この世界が?」
にわかに信じられなくて、声が揺れる。
「れんげ! ロメンデンシャが来たぞ! 急げ!!」
暴走系美女の声に、私はハッとする。
見れば、暴走系美女は走り出している。
なんで、あのドレスであんなスピードで走り出せるわけ!?
それに!
「それ石橋行なんで、乗らないで!」
終点まで1個しかないし、歩いていける距離なのに、それだけで130円払いたくないよ!
それに、無賃乗車されたら困る!