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案内記21

「えーっと、教祖様って、何ですか?」

「教会の一番偉い方のことよ」


 ……世界が違えば、言葉も違うんだなー。

 教祖、って聞くだけでかなり怪しい宗教のように思えちゃうけど。


「……その人の下で、ルースさんは働いてるってことですか?」

「そうなりますわね」

「……どうして、そんなデブで臭くてごうつくばりの人のところで働こうと?」


 私の質問に、旧たおやかさんがパチパチと瞬きを繰り返す。

 ……私、変なこと聞いた?


「れんげ様、おかしなことをおっしゃるのね? ……聖女なのだから、教会に仕えるのは当然なのです」


 ……当然。


「自分で選べないんですか?」

「選ぶ? ……選ぶ余地などありませんわ」


 旧たおやかさんが目を伏せる。その口調と態度が初めてで、ドキリとする。


「だけど、私はカーシー様と出会えたから、聖女として生まれたことに後悔はないわ!」


 旧たおやかさんが勢いよく顔をあげた。

 センシティブな話になるのかと思って身構えたの、馬鹿だった!


「ソウデスカ。ヨカッタデスネ」


 棒読みになるのも、仕方ないよね!


「人が沢山いるようだが。今日は宗教儀式でもあるのか?」


 暴走系美女が、前方の人のざわめきに気づいて首を傾げている。

 今日は、平日で、ミサがあるわけでもない。


「いえ。今日はないと思います。だけど、観光地としても有名な場所なので、人が多いんです」

「……観光地。なぜですか? 宗教施設なだけ、ですよね?」


 首を傾げる濃い顔イケメンに、そういえば説明はしてなかったな、と思う。


「昔、この国はこの建物の宗教自体を拒絶して、信者を迫害していたんです。当然、こういう建物は作られることがなかったんです。でも、時代が変わって、この宗教を信じてもよくなって、その時に建てられたのがこの教会で、この国で一番古い教会なんです」

「……迫害」


 ぼそり、と根暗美男子が目を伏せて呟く。他の3人も、眉を寄せている。


「今は違いますけどね。こういう風に人が集まるような場所になってるし、ここで、この宗教を信仰してない人が結婚式を挙げることだってあるんですよ?」

「結婚式ですって?!」


 私の言葉に反応したのは、旧たおやかさんだった。

 しまった。変なワード入れるんじゃなかった!


「えーっと、そうですね」

「私も挙げられるかしら?」

「……どうでしょうね。でも、ルースさん、元の世界に戻っちゃいますよね?」


 あえて言わない。相手がいないよね、とか。


「カーシー殿がいても、結婚式は挙げられぬでしょう?」


 濃い顔イケメン! 言っていいことと悪いことがあるぞ!

 ほら、旧たおやかさんが目を見開いてるでしょ!


「私とカーシー様に不可能があるとおっしゃるの?!」


 ほらほらほらほら!


「無いです!」

「あら。れんげ様は、よくわかっているのね?」


 わかってる!

 ここで怒らせたら一番面倒なのが、旧たおやかさんだって、わかってるから!

 ただでさえ目立ってるのに。

 それに、あとの3人が旧たおやかさんをなだめるつもりがないのも、よくわかってるから!


「教会の中は、美しいステンドグラスがあるので、カーシーさんにもいい土産話になると思うので、見に行きましょう!」


 そして、話を変えるに限る!


「あら、そうなの? 行きましょう?」


 微笑む旧たおやかさんにホッとする。

 そして、人の多いところに出てくると、当然、この4人に視線が向く。

 当然のように、4人は全く気にしていない。……流石だ。


「れんげ、どこじゃ?」

「えーっと、皆が行く方向に行けば見れると思いますよ」


 私は人の流れに乗る。

 私だって、大浦天主堂に来たのは初めてだ。

 ……そもそも住んでると、すぐ近くにある観光地って改めて行くことないよね。


 教会の中は、静かな空気に満たされていた。いくつもあるステンドグラスが、静かな空気に光を反射させている。


「……きれい」

「そうですね」


 私の漏らした言葉に、隣の根暗美男子が頷いている。

 何だか初めて意見が合ったような気がして、不思議な気持ちになる。

 後ろを見ると、3人もステンドグラスに見惚れている。


「美しいな。我が国に持って帰ることはできぬか?」

「静かにお願いします。そして、持って帰ることはできません!」


 静かに暴走系美女に釘をさす。

 ここ、世界遺産になってるから、無くなるとか、大ニュースになっちゃうから!


「カーシー様にも見せたいわ?」

 

 旧たおやかさんの言葉に、私は首をぶんぶん振る。


「あ、あとで、この教会のステンドグラスの写真、印刷しますから!」

 

 それで許して!

 今、ここで一番何かが起こせそうなの、間違いなく、旧たおやかさんだから!


「カーシー殿は、芸術はわからないと言ってましたね」


 濃い顔イケメン。その勇者情報もいらない! 

 

「ボンキュッボンの女性の方が見ときたいって言ってましたね」


 根暗美男子よ、それ、必要な情報か?!

 でも、幸い旧たおやかさんは、ステンドグラスに夢中で、話を聞いてはいなさそうだ。

 良かった。

 私は小さく息をつく。

 そして、もう一度一番大きなステンドグラスに視線を向ける。

 キリスト教を信仰してるわけじゃないけど、見てるだけで、心が洗われ……。


「ところで、データス様、後からお話を伺うわ?」


 ……いや、ぬか喜びだった。旧たおやかさん、怒ってるよね!

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