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案内記20

 固い表情の根暗美男子を後ろから押しながら、エレベーターを出る。


「おお、いい景色じゃな!」


 先に降り立った暴走系美女の声に、3人の顔が暴走系美女の視線の先に向く。

 私もちょっと表情が緩んだ根暗美男子を横目に、その景色を見る。

 長崎の町並みを見下ろしていくと、町に囲まれるように海がある。

 うん。これぞ、長崎って景色だよね。


「れんげ様、ここで、写真を一枚お願いしますわ!」


 どうやら、旧たおやかさんのお眼鏡にもかなったらしい。

 私は頷くとスマホを取り出して、4人をカメラに収める。根暗美男子、嫌そうな顔をするんじゃない!

 ……私の後ろや横で写真を撮ってる人たちは、景色を撮ってるだけ……なわけないよね。

 まあ、本人たちはこの世界からいなくなるから、いっか。

 に、しても……この4人、ジロジロ見られても、全然気にしてないそのメンタル、どこからくるわけ!?

 ……それに感化されたのか、気にならなくなってきた自分がコワイ。


「ここが目的地ですか?」


 首を傾げる濃い顔イケメンに、あ、と思う。

 そうそう、あんまりゆっくりしてられないんだった。

 

「行きますよ」


 私には、まだ4人を連れて行かないといけない場所がある!


 意気揚々と歩き出した私を、看板が足止めた。


「……入場料……」


 グラバー園、そういえば、入場料いるんだった!

 ……大人、620円。

 大人……620円!


「れんげ、どうしたのじゃ?!」

「えーっと……戻ります!」


 3000円なんて支払う余裕はない! 貧乏学生を舐めるなよ!


「……なんで、あっちに行かないのじゃ?」

「行くところ勘違いしてたんで……」


 行く予定だった、とか言ってごねられても困る!


「また、エレベーターに乗ります!」

「いやだ!」

「却下!」


 私は根暗美男子の腕をつかむと、エレベーターに向かって歩く。

 その後ろに苦笑した3人がついてくる。

 ……不思議なのはさ。

 私、根暗美男子、暴走系美女、旧たおやかさん、そして濃い顔イケメンの順で歩く後ろに、数人のカメラを持った観光客らしき人たちがついてきている気がするってこと。

 ……気のせい、かな?


 そして、エレベーターに乗り込んだ我々の後ろから乗り込んできた数人の観光客は、間近にいる4人の姿を、遠慮がちに、だけど確実に見ている!

 ……これ、何か言うべき?

 でも、見ないでください! って私が言うと、かなり変な感じだよね……。だって、私だけ自意識過剰みたいじゃない?

 ……4人が何も言わないなら、そっとしておくしかないんだろうな。


 チン、とエレベーターが開いて、私は左に向かった。

 この先はお金はかからないはず。


 歩き出してすぐに、グラバー園の中ではないのに、洋館があった。

 ……扉が開いている。だけど、看板はない! どうやら無料の場所らしいと理解して、足を踏み入れてみる。


 見事にこの景色にマッチする4人組。

 ここは、どうやら南山手レストハウスと言うらしい。

 そして、南山手レストハウスが、ちょっとしたコスプレ撮影会と化している。……無許可の。

 

 4人、よく写真撮られても平気だな。全然気にしてないんだけど!


「れんげ、つまらぬぞ」

「了解しました!」


 暴走系美女に言われなくても、行こうかなー、と思ってましたとも!

 えーっと、カメコさんたち、撮り足りないって睨まないでくれるかな!?


「あの……マイルズさん、ジロジロ見られても気にならないんですか?」


 南山手レストハウスを出て坂を下りながら、濃い顔イケメンに問いかける。

 すると、濃い顔イケメンが苦笑した。


「ジロジロ見られるのは、慣れてますから」


 流石、勇者一行! 見られる率半端ないんだ!

 そっか。異世界の民たち全員から見られてた人たちが、ちょっとジロジロ見られたって、平気だよねー。

 この4人は鉄メンタルなんかじゃない。慣れてるんだー。

 ……私は慣れたくないけどね。


「この道は、元の世界を思い出しますわね」


 車も何も通りそうにない細い道を歩きながら、旧たおやかさんがふい、と顔をあげた。


「あら、素敵な窓の飾りだわ」


 旧たおやかさんの視線の先には、大浦天主堂がある。

 今日の最終目的地だ。

 本当は、グラバー園に行ってから降りてくる予定だったから、もっと遅くなる予定だったんだけど、払えなかったおかげで早くついた。


「あそこは、大浦天主堂と言って、この世界の教会です」

「教会? 我が国の教会とは、趣が違うんじゃな」


 暴走系美女が目を丸くしている。


「えーっと、異世界の教会って、どんな感じなんですか?」

「もっと豪勢で悪趣味ですよ」


 根暗美男子の言葉に、旧たおやかさんが肩をすくめる。

 豪勢で、悪趣味。

 どう考えたって、誉め言葉じゃないなー。

 暴走系美女も濃い顔イケメンも、フォローする様子はなく苦笑している。

 どうやら、事実らしい。

 

「悪趣味は言い過ぎですわ?」

「自分だって思ってるくせに」 

「……そんなこと言ったかしら?」


 旧たおやかさんが首を傾げる。


「カーシーが、悪趣味だって言ったら、『私もそう思いますわ!』って、言ってた」


 呆れたように告げた根暗美男子に、旧たおやかさんが目を見開いた。


「悪趣味に違いありませんわ!」


 ぶれない、勇者第一主義。

 でもいいのか。自分のテリトリーけなされて。


「教祖様は、デブで臭くてごうつくばりのロクデナシですわ!」


 それ、絶対勇者言ってない!

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