表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/47

案内記17

「ここ、右に曲がります」


 私は中華街の真ん中で右に折れた。


「もう出口か」


 朱色の門を見て首を傾げる暴走系美女に、私は頷く。


「最後まで見ないんですか?」


 濃い顔イケメンが名残惜しそうに後ろを見ている。

 濃い顔イケメン、結構食べるの好きなのかもね。


「こっちに行きたいんで」


 西浜通りから、中華街を途中で曲がってたどり着くのは、新地バスターミナル。

 ココウォークができたけど、ここもバスターミナルとしては稼働中。

 それに、ここを通るのは、一応理由がある。


「ふぉおおお。大きな乗り物が沢山あるではないか!」


 建物の横にたどり着くと、バスが一台建物から出てきて、暴走系美女が奥を覗き込んで声を挙げた。

 そう。

 バスターミナルにバスが並んでるのを見て、暴走系美女が喜びそうかな、と思ったのもあった。


「あれは、バスと言います。沢山の人を運ぶことができます」

「バス、とな? 路面電車とどう違うのじゃ?」

「路面電車は、えーっと、決まった道の決まった方向にしか動けないし坂は上れないんですけど、バスは、通れる道があれば、山の上でもどこでも行けます」


 私は説明すると歩き出した。暴走系美女は名残惜しそうだったけど、遅れてついてくる。


「……バス、と言う乗り物のほうが、便利そうですが、どうしてロメンデンシャが存在しているんでしょうか」


 隣にいる濃い顔イケメンの疑問に、私は固まる。

 ……どうして?

 考えたこともなかったな。


「どちらも昔からあるので、考えたこともなかったですね。ただ、路面電車の方が、運賃が安いんです」


 路面電車は一律運賃だし、始発から終点まで乗っても130円で済むけど、バスは始発から終点まで乗ったらどれくらいかかるんだろう? ここからうちまででも結構かかるしね。あと、渋滞はないよね。


「データス、箱を魔法で動かせば、沢山人が運べそうではないか?!」


 どうやら我々の会話は聞いていなさそうな暴走系美女の言葉に、根暗美男子が首を傾げる。


「床が抜けます」


 ……確かに、普通の箱だったら、沢山人が乗ったら重さに耐えられないだろうね。


「……部屋を、いや、家を動かせば床は抜けぬぞ!」

「それって、乗り物ですか?」


 根暗美男子取り付く島もない。どうやら暴走系美女案は却下されたらしい。

 それでも、暴走系美女は何やらブツブツと呟いている。

 ……暴走系美女って、やっぱり王族だからなのかな? 結構、人を運ぶとかそういうライフライン的なものに興味を持つよね。


「イザドラさんって、やっぱり王族なんですね」


 私の言葉に、暴走系美女が困惑した表情で私を見た。


「なぜじゃ」

「だって、移動のためのものとかに興味を持つのって、自分のためだけじゃないですよね? きっと、国民のことを常々考えてるんだろうなー、って」

「そんなことはない」


 暴走系美女は予想外に顔を伏せた。

 そうだろう! って威張るかと思ってたけど、案外こういうストレートな賛辞には控えめなんだなー。


「動くものに興味があるだけじゃ」


 ぷい、と顔をそむける暴走系美女、かわいいかも。


「そういえば、イザドラ様、ドラゴンの背中にも乗れないかって、言ってましたわね」


 うんうん、と頷く旧たおやかさんに、根暗美男子が顔をしかめる。


「悪趣味だな」

「なぜじゃ! あの背に乗ることができれば、移動も楽じゃぞ!」

「……イザドラ様、そもそも、魔物が人間の言うことは聞くとは思われません」


 濃い顔イケメン、現実的だな。


「データス! 魔法でドラゴンを従わせるがよい!」

「いや、無理」


 ……この4人組、女性陣がドリーマーで、男性陣が現実的だな。

 あ。

 遠くから、サイレンの音が聞こえてくる。


「あれはなんじゃ?!」


 暴走系美女が大通りに身を乗り出す。


「イザドラさん! 危ないですからやめて下さい!」


 私が腕をつかむと、イザドラさんが目を輝かせて私を見る。


「あの白い乗り物は何じゃ!? どうして赤く光らせながら音を出して走るのだ!?」


 ……うーん。目を輝かせる案件ではないんだけどね。


「あれは、救急車と言って、病人を運ぶ車です。急いでいることを示すために音を出して走ってるんです」

「病人を運ぶ?」

 

 首を傾げて救急車を見つめるイザドラさんが、見えなくなったあと、サイレンの音が止まった瞬間、また私を見る。


「なぜ、音が止まったのじゃ!?」

「あの先に病院があるので、そこに到着したんじゃないかと」


 丁度陰になってるけど、道の先には長崎みなとメディカルセンターがある。


「病院とは、何ですの?」


 そうか。旧たおやかさんは治療できるから、異世界には病院って概念はないのかもね。


「あの交差点まで行くと見えてきますが、そこで病人を治療するんです」

「我が国の治療院のようなものですかね」


 うんうん、と頷く旧たおやかさんに、病院のようなものがあるんだな、と思う。

 そうか、旧たおやかさん、こう見えてお医者さんみたいなものなんだ……ちょっと、いやかなり激しいけど。


 歩いていると、視界が開けてきて、病院の建物が見えてきた。

 暴走系美女が目を見開く。


「あの大きな建物で人を癒すのか!?」

「沢山の人が来るから、あのように大きな建物なのですか?」


 旧たおやかさんがピンとこないらしく、首を傾げている。


「治療って言っても、1回治療しただけで帰ってもらうわけじゃなくて、しばらくこの場所に留まって治療を続けたりもするので、ベッドが沢山あるんです」

「一度では終わらないのですか?」


 一度で治療が終わるって、結構すごいことだよね。


「この世界の人間は、ルースさんのように癒す力があるわけではなくて……色々と薬や、問題のある個所を取り除いたりして治療するんです。だから、一度で終わる場合もありますけど、終わらないこともあります」

「取り除く? どうやって」


 濃い顔イケメンは本当に不思議そうだ。


「おなかを開けて、ですかね」


 案外説明難しいな。

 4人が目を見開いた。


「流石にそれでは、死んでしまいます!」


 あ、それは致命傷になっちゃうのね。

 そうか、輸血とかできないと、流石に無理なのかな?

 ……あれ?


「え? でも、ルースさん、人を生き返らせることができるんじゃなかったですっけ?」


 確かそんなこと言ってたような。


「血を失う前でしたら、可能ですわ」

「なるほど」


 やっぱり、失血したらダメなんだ。


「ですが、もしカーシー様が血を失ったとしたら、私の血を分けてでも生かしてみせますわ!」

「それ、ルース嬢死ぬから、共倒れ」


 根暗美男子のツッコミ、尤もだな。


「それは困りますわ! じゃあ、デー」

「断る!」


 それは、即答するわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ