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案内記16

「れんげが悪質だ」


 私の後ろから、クレーマーがブツブツと言いながらついてくる。

 鬱陶しいな!

 周りの人たちの視線も鬱陶しいけどね!

 ちょっと慣れつつある自分が怖いわ。


「チクチク毒吐く人に言われたくない!」

「絶対、驚くのを見ようと思ったんだろう!」

「ルースさん。データス、良くこれで魔王討伐行けましたね」


 根暗美男子の言葉をスルーして、私は隣を歩く旧たおやかさんに問いかけた。

 旧たおやかさんは目を丸くした後、ふふ、と笑う。


「おかげで、魔王討伐ができたようなものですわ」

「……どういう意味です?」


 私には旧たおやかさんの言ってる意味が分からないんだけど?


「魔王城に到着したデータス殿は、怯えによって、本来の力が呼び覚まされたのです!」


 力説する後ろの濃い顔イケメンに、私は首を傾げる。


「えーっと、どういうことですか?」

「魔王城、ぶっ壊した」


 ぼそり、と根暗美男子が告げる。


「は?」

「その威力のすさまじさに、魔王城の中にいた魔王を始めとする魔物がすべて消し去りました!」


 濃い顔イケメンのフォローに、私の頭はついていかない。


「おかげで、私たちは帰路につけたのじゃ」


 うんうん、と頷く一歩前行く暴走系美女に、我に返る。

 ツッコミどころ満載なんだけど!


「えーっと……魔王城を吹き飛ばすほどの威力の魔法を使ったとして、どうして勇者一行は大丈夫だったの?」


 なぜか根暗美男子が目を細める。……変な質問した?


「最初に身を守る魔法を何重にもかけた」

「流石ビビり!」


 私の言葉に、根暗美男子がムッとする。


「身を守るのは基本中の基本だろう」

「普通、何重にも身を守る魔法は掛けれぬがな」


 根暗美男子暴走系美女が肩をすくめている。

 ……えーっと、根暗美男子の魔法って、結構規格外なの?


「……えーっと、それで皆は大丈夫だった、と?」

「そうなりますね」


 濃い顔イケメンが大きく頷いた。


「勇者の出番は?」


 言ってから、ハッとする。

 しまった! 口は災いの元だから!!

 でも、普通、魔王のとどめは勇者がさすんじゃないのかなー、って……。

 私は恐る恐る、旧たおやかさんの顔を見た。

 だけど、旧たおやかさんは、うっとりとした顔をしていた。


 ……意味わかる人ー!

 私はさっぱりわかりません!


「あの……勇者は何したんですか?」

「カーシー様は、私を守ってくれたのです」


 うっとりとした旧たおやかさんは、どうやったって、自分の世界に入ってしまっている。

 説明が欲しくて、私は濃い顔イケメンを見た。

 苦笑する濃い顔イケメンが頷く。


「ルース殿は、癒しの力はありますが、戦えるわけではありませんからね。帰り道で魔物に襲われたときには、カーシー殿がルース殿を何度も助けていましたから」

「なるほど。……ルースさん死んじゃったら困るもんね。流石のデータスも生き返らせたりできないんだろうし」

「そうですね」


 どうやら規格外な根暗美男子の魔法も、人を生き返らせることはできないらしい。

 魔王城はぶっ壊せるけど。


「また雰囲気の違う場所に出ましたね」


 濃い顔イケメンの声に、私は頷く。

 目の前には、赤い屋根のついた門が立っている。


「あれは、中華街って言って……この国ではない中国って国の雰囲気を模した通り」


 横浜や神戸の中華街に比べると規模は小さいけど、長崎と言えば、って場所ではあるよね。

 昔は、はまのまちから西浜通り通って、中華街通過して……って、道を何度となく歩いたけど、最近はあまり来ることもなかったな。


「れんげ! これも私を脅すために連れてきたんじゃないだろうな!」


 中華街の門をくぐって右手にある京華園の入り口にある何とも不可思議な生き物の像を見て、根暗美男子が私を睨む。龍? 虎? それをミックスしたみたいにも見えるし、全然違うもののようにも見える。


「いや、こんな像があるの、忘れてたくらいだから」

「……いい匂いがするぞ」


 暴走系美女の言葉に、私は苦笑する。

 ここの中華料理店で食べるのは、無理だから!

 一度しか来たことないけど、多分、間違いなく高かったと思う。

 

「食べ物屋さんが多いところですからね。ちゃんぽんか皿うどんだったら、家で作りますけど?」


 ちゃんぽんとか皿うどんとか、普通に家で作るものなんだって、長崎に住むようになって初めて知った。

 まあ、麺から作るわけじゃないから、野菜と肉とかまぼこを炒めれば、スープの素を使って簡単にできちゃうんだけど。


「チャンポン? サラウドン?」

 

 首を傾げる暴走系美女と濃い顔イケメンを、京華園のサンプルの前に手招きする。旧たおやかさんと根暗美男子もあとをついてやてくる。


「そっちの丼に入っているのがちゃんぽんで、皿に入ってるのが皿うどんですよ」


 どうせ使う具材はどっちでも変わらないから、どっちでもいいかな。

 ……いや、皿うどんの方がコスパはいいかな。


「どちらがおいしい!?」


 暴走系美女の顔が輝いている。

 ……茶わん蒸しの時には、あんまり反応良くなかったけど、ちゃんぽんとか皿うどんとかの方が好みなのかなー。


「この濃い色のスープはどんな味がするでしょうか?」


 濃い顔イケメンの疑問に、はた、と止まる。……はて、どんな味だったかな? 最近食べてないけど……ちゃんぽんの味、としか言いようがないような。


「カーシー様が喜ぶ方がいいわ」


 旧たおやかさんよ、わかるわけないわ!


「おいしいほうがいい」


 根暗美男子にジロッとみられる。ハイハイ。おいしい方教えればいいのね?


「個人的には、断然皿うどんです。はい、行きますよー」


 コスパ云々の話だけじゃなくて、本当に個人的には皿うどんの方が一押しだ。

 かた焼きそばとは、ちょっと違うんだよね。

 私は店の前に立ち止まる4人を振り返る。


「日が暮れる前に家に帰るんですよね?」


 私の声掛けに、4人が足早に動き出した。


「カーシー様と二度と会えなくなったら困るわ!」


 ……一体、日が暮れたら何が起こるんだろ?


「カーシー殿に逃げられたら、二度と会えないでしょうに」


 濃い顔イケメン! 

 事実でも、言っていいことと悪いことがあるから!

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