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案内記15

「あれは、なんですか?」


 濃い顔イケメンが観光通りのアーケードを見上げる。


「アーケードって屋根です。ここは観光通りって商店街です。雨でも屋根があるから、ぬれずに過ごせるんですよ」

「商店が並ぶにしては、人がまばらですね」


 根暗美男子の指摘に、私は苦笑するしかない。


「平日だし……最近は、ここじゃなくて他の場所に買い物に行く人が増えたから」


 観光通りはもとより、しばらく歩いていくと交わるはまのまちのアーケード街も、昔と比べると人は少なくなった。今は、駅前のアミュプラザか、ココウォークに人が流れてるから。


「ぬれずに便利ですのに。これ以上の場所があるんですの?」

「……どうなんでしょうね。私は、ここのアーケードを歩くのが楽しかったですけどね」


 小さいころ、親に連れて来てもらったはまのまちのアーケードは、ワクワクしかなかったけど。

 旅行の楽しさと、両親がいつもより財布のひもが緩む楽しみと、私の好きなものが沢山あるところだって記憶が繰り返されてたから。

 今は……好きな店がいくつかあるから時々来るけど、友達と出かけるときには、やっぱりアミュプラザかココウォークに行っちゃうしね。


「店で何か買うのか?!」


 暴走系美女よ。持ち金を思い出したまえ。


「買いません! ここは通過するだけです!」

「だが、店が色々とあるのじゃろう?! トレーシーに土産を!」


 あ。しまった。あまりのリアクションの薄さに、眼鏡橋のところで写真撮るの忘れてたわ。

 まあ、いいか。4人ともリアクション薄かったし。


「後でまた写真撮ってあげますから!」


 私の言葉に、暴走系美女が渋々と口を閉じた。


「れんげ様、あれは何ですの?」


 旧たおやかさんが赤い提灯が並ぶ店を指さす。


「あ、あれは吉宗よっそうです。食べ物屋さんですよ」


 長崎では有名な店。私も、2、3回は連れて来てもらったことがある。


「どんな食べ物が置いてあるんですの?」


 ……見せた方が早いんじゃないかな。

 私は店先のガラスの中に並ぶ食品サンプルの前に立つ。


「これは、本物の食べ物をこうやって並べているんですか!?」


 濃い顔イケメンが感嘆の声を出す。


「いえ。これは本物に似せて作った偽物で、食べられません!」

「……これが……食べられぬ、じゃと?」


 4人は興味深そうに中を見つめている。


「ルースさんの前にある食べ物の、蒸し寿司と茶碗蒸しの店です」


 私の返事に、旧たおやかさんが眉を寄せる。

 ……何で、その表情?


「ムシズシ? チャーワンムシ? 虫を食べる店ですの? 私、虫を食べるのは苦手なのです」


 あー! どっちも確かに”ムシ”がある! 初めて気づいた!

 私だっていやだよ!

 ……いやいやいや。違う、違う!


「寿司です。えーっと、お米ってわかります?」

「オコメ?」


 旧たおやかさんの違うアクセントに、どうやらお米は知らなさそうだと理解する。


「えーっと、家に帰ったら見せますけど、お米はムシじゃありません! あと、茶わん蒸しは、卵料理です。虫は入ってません!」

「……卵料理?」

「えーっと……卵を出汁と混ぜて、蒸した料理です」

「出汁?」

「……魚とかを煮てつくるものを出汁と言います」

「……そんな料理がありますのね」


 旧たおやかさんは、ぼんやりとした返事を返す。これ、絶対わかってないよね。

 食品サンプルだけじゃわからないか……流石に吉宗で食べるなんてことはできないけど、茶わん蒸しなら家では作れなくはない。

 具は……ナシでもいいかな!


「それもあとで作って見せます! と言うことで、行きます!」


 暗くなるまでに家に帰りつかなきゃいけないから、ここで足止めを食らうわけにはいかないからね!

 しっかし、見ながら歩かないと、速いな。もう、ここまでついたし。あと、平日でいつも以上に人通りが少ないのもあるかも。

 4人のおかげで、視線はビシバシ感じるけどね!

 いや、4人のおかげで、皆が避けてくれてるのかも?


「右に曲がります」


 はまのまちアーケードに交わる場所で、私は右に曲がる。そして、次のわき道に入るところで左に曲がる。アーケードを出て降り注いできた光に、私は目を細めた。


「一体、どこに向かっているんですか?」


 後ろを歩く濃い顔イケメンの質問に、私は一瞬考える。


「……長崎らしい景色が見えるところです」


 多分、その説明で間違ってないと思うけど。私の思う、長崎らしい景色、だからね。


「れ、れんげ! 嘘ついただろう!」


 はて。なぜ私は根暗美男子に呼び捨てにされた挙句に、嘘つき呼ばわりされてるんだろう?


「嘘?」

「魔物はいないと言っただろう!?」


 根暗美男子を見ると、その指先は、前方斜め上を指さしている。

 指先をたどっていくと見えたものに、私は噴き出す。


「な、なぜ笑う!」


 狼狽える根暗美男子の肩を、私は訳知り顔で叩いた。


「あれは、魔物ではありません」

「だが! あれは、どう見ても、ドラゴンのようではないか!」

「まあ、龍を模したものなので、ドラゴンで間違ってはないと思いますけど……あれは、単なる看板です」


 根暗美男子が、首をちょっと傾げる。


「看板?」

「そうです。そもそも、あの上に文字が書いてあるの見えません? 西浜通り、って書いてあります」


 根暗美男子がおびえていたのは、通りの名前を書いた、龍を模した看板だった。


「そ、そんなのすぐに気づいていた! れんげを脅かそうと思ったんだ!」


 私も根暗美男子がビビるかと思ってこの道を選んだんだけどね!

アミュプラザとココウォークの話は仕事で長崎に度々出張する人が言っていた(10年以上前から行っているらしい)ので、たぶん間違ってはないと思うんですが、地元の人からすると違うよ! ということがあれば教えてください。

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