表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/47

案内記13

「我らは観光に来たのじゃ。行くぞ!」


 暴走系美女が我先にと歩き出す。


「えーっと、このまままっすぐ川沿い歩きます!」


 私の言葉に、暴走系美女はうんうんと頷いた。

 ……歩くスピード速い! 今まで私に合わせてくれてたのか?

 流石、魔王城まで旅しただけあるな。

 いや、帰りに王城まで旅したのか。


「あの、帰りに29日かかったって、帰りは大賢者様の魔法で帰れなかったんですか?」


 何とか速足で着いていく私の疑問に、隣を歩く濃い顔イケメンが苦笑して肩をすくめる。


「転移の魔法は、大賢者様しか……使えない……はずだったので」

「……はずだったって……他に使える人が?」

「データス殿が、使えることがわかって、それで、29日で王城に着けたようなものですから」


 ……根暗美男子、やるな。言わないけど!


「じゃあ、ずっとデータスさんは転移の魔法が使えるって気づかなかったってこと?」

「使えないって言われてたから、使おうとも思わなかったですし」


 根暗美男子が首を横に振る。


「暗示みたいなものが解けたから、使えたってこと?」

「いや、破れかぶれで転移したと言うか……データス殿が『もう嫌だ』って」


 すごいんだろうけど、そこに行きついた話が……何とも根暗美男子っぽいって言うか……。


「あれ? だとすると、魔王城から王城までって、29日じゃとてもたどり着けない場所にあるの?」

「あったら、最初から転移の魔法で転移させられずに、歩いて行けって言われてるでしょうね」


 根暗美男子が首を振って告げた。


「魔王城って歩いていけないくらいのところにあったんだ?」

「海を渡らねばなりませんので」


 濃い顔イケメンがポリポリと顔をかいた。

 海渡って29日歩いてもたどり着けないところなのに、魔王倒した後放置ってひどくない?


「勇者一行の扱いが雑な気がするんですけど」

「カーシー様が勇者であることは間違いのないことだわ!」


 いや、旧たおやかさん、そこには言及してない!


「この世界なら、勇者一行をもっと丁重に扱ってくれるんですか? れんげさん」


 何か言いたげにニヤニヤと私を見た根暗美男子に、私は言葉に詰まる。

 ……いや、丁重に扱ってる気はしないけど。


「この世界を救ってくれたわけじゃないから! それとこれは別問題でしょ!」

「世界を……救う?」


 私の言葉に、3人が怪訝そうな表情になる。

 ……あれ?


「魔王を倒したってことは、世界を救った、世界の平和を守った、ってことなんじゃないの?」

「あー。そういう解釈もあるのかもしれないわ。確かに、魔物は少し減ったし、暮らしやすくはなったわ」

「え? 魔王倒したのに、魔物はまだいたんですか?」


 私の疑問に、3人は真顔で頷く。


「魔王を倒したからって、魔物がいなくなるわけはないわ」


 私を諭す旧たおやかさんに戸惑う。

 

「……えーっと、だとすると、魔王って、何?」

「魔物の中で飛びぬけて一番力の強い者、でしょうか」

 

 濃い顔イケメンの答えに、2人が頷く。


「……え? それって、しばらくしたらまた魔王が出てくるってことじゃないの?!」

「それが何か?」


 旧たおやかさんが首を傾げる。

 ……え?


「それって、魔王との戦いがエンドレスに続くってこと?!」

「当然だろう?」


 根暗美男子が呆れた表情で私を見ている。

 いやいやいやいや! 私の知ってる魔王との戦いって、魔王倒したら、めでたしめでたしだから!

 エンドレスに続くって過酷すぎ!

 え?


「勇者一行、こんなところに来て大丈夫?!」


 勇者抜きだけど!


「れんげ、この道はどれくらい続く?」


 暴走系美女がのどかな声で私を振り返る。


「いや、この道とか言ってる場合じゃなくて、元の世界にいなくて大丈夫なの?!」

「れんげが気にすることではない」


 暴走系美女はあっさりと告げる。


「え? でも……」

「れんげ様、大丈夫ですわ」


 ニコリ、と旧たおやかさんが微笑むので、私は残り2名の男性陣の顔を見る。

 2人とも、特に狼狽えた様子はなく、不思議そうな顔で私を見ている。


 ……いいのか?

 24時間限定って、実は対魔王のために設けられたタイムリミットなの?

 1日くらい羽を伸ばして来いよ、的な?


「れんげ、この道はどれくらい続く?」


 暴走系美女の声は変わらない。

 ……そうか。一日だけ羽伸ばしに来たんなら、楽しんでもらって帰ってもらいたいかも。

 ……先立つものはないから限界はあるけど。


 私は気を取り直して中島川の先を見る。


「もうすぐ目的地に着きます」


 目に入った橋に、私はそう告げた。ただ、長崎では有名な観光地なんだけど……果たして、石橋を見慣れている4人は面白いと思えるだろうか?


「イザドラさん、ちょっと止まって!」


 私の声に、暴走系美女が切れよく止まる。


「なんじゃ、れんげ?」

「そのあたりから、あの、2つのアーチがある橋を見てみてください」

「見たぞ?」


 ……暴走系美女のリアクションが薄い……。


「橋のアーチと、川に映った橋の姿が、眼鏡みたいに見えませんか?」


 よくよく考えると、この4人眼鏡かけた人いないんだけど、異世界には眼鏡ってあるかな?


「眼鏡?」


 根暗美男子が眉間にしわを寄せる。


「眼鏡……って、そちらの世界にはありませんか?」

「ありますが……レンズが一つのものを目に当てて使うものですから……眼鏡のようと言われても……」


 濃い顔イケメンの言葉に、昔の本で見た片眼鏡を思い出す。

 眼鏡の形が違った! ……それじゃ、ダメだな。

 私も眼鏡かけてないしな……。

 あ、あの人かけてる。

 でも、こっちをジロジロ見てる人を指さすなんて勇気はない!


「れんげ、それでその眼鏡がどうしたんじゃ?」


 暴走系美女の問いかけに、私は苦笑する。


「えーっと、周りを見回してもらうと、二つレンズがついた眼鏡をかけてる人がいると思うんで、見てほしいんですけど……この橋は、この世界の眼鏡のようだということで、眼鏡橋と名前がついてます」


 説明しながら、寒々しい気持ちが湧きだす。 


「そうか」


 暴走系美女は返事してくれただけましだ!

 リアクションの薄い4人に対して言えることなど、これ以上ない!

 ……果たして、この4人を楽しませる観光って、できるかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ