案内記10
「じゃ、階段を上ります!」
無理なものは無理だから!
「……仕方がないのう」
暴走系美女が従ってくれたおかげで、他の4人もついてくる。
……おすわさんの階段上ったの、2回目だな。
長崎に住むことになった時に、一度だけおすわさんに来てみたけど、それ以来来てないもんな。
私は思い出しながら指を折る。
……えーっと、5年ぶりくらいになるってこと?
「れんげ様、あの建物はなんですか?」
上から聞こえてきた濃い顔イケメンの言葉に、私は顔を上げる。
すでに4人は階段の上にいた。
……私、まだ登ってる最中なんだけど。
いつの間に上り切ったの?
……流石、勇者一行(勇者抜き)。体力有り余ってるのか……。
上りきると、私は濃い顔イケメンの指さす先を見た。
ええっと……何て言えばいいんだろう?
「あれは……お祈りする場所です!」
お賽銭入れてお願い事するんだから、間違ってはない!
「……本当に?」
根暗美男子、疑い深いな!
やって見せようとも!
私は境内を賽銭箱に向かってズンズンと歩く。
……特に何もない日のおすわさんだから、まばらにしか人はいないからできるんだけどね。
……それでも、彼ら4人は間違いなく、視線を集めている……。
あ、写真撮られてるなー。……そうだね。こんな派手派手しいコスプレイヤーが街中を歩くなんて、長崎じゃ珍しいよね……。
これから先も、同じような感じになるんだろうし、もっと人がいるはずだから……気にしてちゃ負ける。
気にしない、気にしない!
彼らは本格派コスプレイヤー(魔王討伐の経験アリ)だもの!
賽銭箱までたどり着いて、お賽銭を入れようとして、はた、と止まる。
……あれ。確か、手順があるんだよね……。
私はスマホを取り出すと、神社の作法を調べる。
「何をしているんじゃ?」
暴走系美女が私の手元を覗き込む。
「調べものです!」
「やっぱり違うんじゃないの?」
根暗美男子煩いな!
ふむふむ。2回お辞儀して、2回手を打って、1回お辞儀ね!
よし、いざ行かん!
私は財布を取り出して、小銭を見る。
……5円玉ない。
えーっと……1円玉もないな……10円玉ならある。
4枚はある……。
……ええい、あと一枚は50円で行こう!
「何をしているんですか?」
濃い顔イケメンが、首を傾げて私を見ている。
「あのですね、まず、あの箱の中に、このコインを投げ入れてください」
私は10円玉を4人にそれぞれ渡す。
そして、私は50円玉を握り締めた。
あ、暴走系美女、もう入れちゃった。
……気を取り直して説明を続けよう。
「それで、コインを入れたら……私の真似をしてください」
お辞儀、って言おうとして、通じない気がしたから、私はチャリン、とお賽銭を箱に投げ入れた。
「で、どうするんですか?」
濃い顔イケメンの問いかけに、私は2回お辞儀をして見せる。
4人はそれぞれぎこちなく頭を下げる。
「そして、2回手を打ったら、願い事をします。そしたら、もう1回、今みたいに頭を下げます」
私は手を2回打って、目をつぶった。
……願い事、かぁ。……何だろう? 平穏無事に生活できますように、かな?
……今の状況が平穏無事とは言い難い気がするけどね。
目を開けて1礼すると、他の4人はまだ、何やら願い事をしている最中だった。
……まだ、かな?
……えーっと。
まだ目を開けないんだけど!
いつまで願い事しておくつもりだろう?
「あの……、そろそろ、いいんじゃないですかね」
私の声掛けに、4人が目を開ける。
「まだ終わっておらん!」
暴走系美女がムッとする。
「願い事は、大体一つくらいだと思いますよ?」
「一つ? ……うん、大丈夫じゃ。一つしかしておらん!」
……どんだけ長い願いなんだ。
「……私の願いは、一つだけよ。ただ、念入りに、念入りに願っていただけ」
うん。旧たおやかさん、あなたの願いは一つだけだろうね!
「願い事をしようとすればするほど、悪いことが起こるんじゃないかって思って、願えなかった」
根暗美男子、ネガティブも大概だね。
「私の願いは、魔王が復活しないこと、それだけです」
濃い顔イケメンは、まともっちゃ、まともだなぁ。
「その割に、長かったですね」
「……少し願っただけでは、叶いそうな気がしないので」
え!? 魔王復活って普通にあるの? ……いや、心配性なだけだよね?
「あ、それで、もう一度頭を下げてくださいね」
私の言葉に、4人がまたぎこちなく礼をする。
よし、終わった!
次行こう! 次!
「ねえ、あれは何?」
私が踵を返そうとした瞬間、旧たおやかさんが何かを指さした。
指さされた右側を見ると、目をつぶって歩いている男性がいる。その近くには女性がいて、男性の動きをじっと見つめている。
……何やってるんだろ?
男性が一つの像に手をつくと、傍にいた女性が歓声をあげた。
男性は目を開けて、女性に笑いかける。
……なにやら、おまじないみたいなもの、かな?
旧たおやかさんが、近づいていく。
仕方がないので、私も近づく。
そして、目に入ってきた看板に、うげ、と思う。
「これは、何?」
問いかけてくる旧たおやかさんに、私は真実を告げるべきか否か迷う。
女性は恵比須様の像にお賽銭を入れて、そこから大黒様の像まで目をつぶってたどり着けば、願いが叶う、らしい。
「恋占い」って書いてあるんだけど……。
これで、旧たおやかさんが大黒様にたどり着かなかった日には、何が起こるか恐ろしいんですけど!
……そういえば、ここ精霊が沢山いるって言ってなかったっけ?
聖女の力が暴発すると困るんだけど!
「えーっと……」
私が言いよどんでいる間に、旧たおやかさんが目を輝かした。
……え? どうかした?
「これ、恋のまじないなんですって! 精霊が教えてくれたわ!」
精霊さん、言っていいことと悪いことがあると思うんですよ!
「やるわ!」
ですよね。
……あー。お賽銭……。




