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狼王のつがい  作者: 吉野
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王妃の独り言


漆黒と白銀。

強さとしなやかさ。

武を好む兄と智で挑む弟。



初めてお会いした瞬間、好対照のなんて美しい兄弟なのかと子供心に憧れを抱きました。


えぇ、当時は彼らの複雑な事情は知らなかったので、単純に素晴らしい王太子と宰相補佐であると思ったのです。


そして…ゆくゆくは、彼らと共にこの国を守ってゆくのだと、そう信じてきました。



前王であるお2人の父君が亡くなられるまでは、多少ぎこちなくはあるものの仲の悪い兄弟だと感じた事はありませんでした。


今思えば…彼らのうわべしか見ていなかったからこその感想なのですけども。



それでも表面上は王とそれを支える宰相として、父君が亡くなられてからも何とかやってこられたお2人が…いえ、その頃には夫となっていたノワールが変わってしまったのは、迷いびとのせいであったと今もわたくしは思っています。



とはいえ、その者…サラが何かしでかしたのかと言われれば全くそうではないのです。


彼女は単に…ノワールの鬱屈した父と弟への思いのぶつけ所…あてつけに使われただけなのですから。

そのような意味では彼女も被害者なのでしょう。



それでも…あの時、彼女が現れなければ。


いえ、彼女でなくとも他の誰であれ何であれ…遅かれ早かれ起こった事なのかもしれません。



あの時ノワールがした事は、誰かのつがいに王といえど横恋慕、手を出す事などあってはならない事でした。


それでも真剣に恋をしていたのであれば、まだ許せなくもないとも思います。



けれどもあれは横恋慕ですらない。


異世界の知識を深めるという目的もありはしたのでしょうが、本来の目的は弟であるシルヴァン殿への嫌がらせでした。


そして側近であるゲイルのつがいを奪うという事で、己の優位性を確認しようとする行為でしかなかったと思っています。



そんな事をしなくても、シルヴァン殿はとっくに舞台から降りている…いや上がってすらいないというのに。




側室ですらない#愛妾__つがい__#の子という立場ゆえか、自分というものを押し殺し、正妃の子ノワールを優先してきたシルヴァンにとって、初めての兄への反抗。



迷いびとを斬るため振り下ろされた剣は、つがいを庇ったゲイルの利き腕を切断。

そしてシルヴァン殿の右目をも奪ったのです。


ノワールも振り上げた拳(この場合は剣だったが)を下せなかったのかもしれないが、上に立つ者としてあれは最悪の行為でしかなかったと、今でも思います。



それでも「王妃」という立場上、国の定めた夫に表向き逆らう事も離縁する事もできず、「アンリエッタ」として距離を置く事でしか一連の騒動に対する「抗議」を示す事はできませんでした。


わたくしの言葉にノワールが耳を傾けてくれていれば…いえ、わたくしがもっと上手に説得できていたら。


このような隙間など生じなかったのかもしれません。



けれどあの時、本気でお諌めしたわたくしも臣下も少しずつ遠ざけられ、王にとって耳障りの良い事しか言わない者共が重用されていったのは事実。



その頃にはわたくしとノワールの関係もすっかり冷え込んでいました。


もっとも…ノワールとの間に女児しか生まれなかった事も、あるいは影響していたのかもしれませんが。




次代の王たる後継、男の子を生む事の出来なかったわたくしの地位は、決して盤石ではありません。


再び現れた迷いびとを、ここでつがい候補という名目で取り込み、ノワールと何よりわたくしの側に置く事は、王妃としての地位固めには確かに都合が良いのです。



けれど…ノワールの、迷いびとへの固執ぶりは、妄執に近いものがあると再び危惧している状態で、保身のためにそれをして良いものでしょうか。




ノワールは…「ヒト」になろうとしている。



そう気づいたのは、最近の事です。



「ヒト」の持つ知識、技術、仕組み諸々を独占し、そして…。


この国をより良くしたい。

もっと豊かに、もっと強く、どこからも攻め込まれる事も脅かされる事もない国にしたい。


その考え自体は、決して悪い事ではありません。




けれども…上手く言葉にする事はできないけれど、ノワールの考えはそれだけではないような気がするのです。


気のせいかもしれません。

勘違いなのかもしれません。



だけど…彼は、この「世界の王」になるつもりなのではないか。


そんな気がしてならないのです。



だからこそ…今回猿の国に現れた迷いびとを欲しがり、得られないと理解すると今度は我が国に現れた迷いびとに執着しているように見えるのです。





幼い頃より現在まで、立場や地位によらない付合いをしてきたレプスに頼まれた、というのも確かにあります。


けれど今回わたくしは我が国の迷いびと…ユイの人となりを確かめる為、迎えという名目で離宮へやってきました。




彼女の持つ知識がノワールの望む物なのか。


脅しやおべっかに屈し、ベラベラと喋ってしまうような者なのか。


争いを望むのか、国に害なす存在なのか。



そして…本当にシルヴァン殿のつがいなのか。


あるいはノワールのつがい候補となり得るのか。

 



#わたくし__王妃__#が直々に迎えに行ったという事、そして王が望んで迎え入れたという点において、王宮内にてユイを粗略に扱ったり害する事はできない筈。


その意味では、レプスの願いを叶える事にもなります。




今のところ、シルヴァン殿と彼女は確かな絆を育んでいるように見えます。


彼女といる時のシルヴァン殿は、かつてのわたくしが覚えている姿よりはるかに安らぎ、心を許しているようです。




義姉としてはこのまま2人を見守り、出来る事ならば添い遂げさせてやりたいと思います。





どちらにしても、我が国の命運を左右しかねない人物なのは間違いないのですから。



冷静に、確実に見極めないと…。

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