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狼王のつがい  作者: 吉野
33/46

王都へ〜結〜


ふらりと食堂に現れたシルヴァン様は、とても顔色が悪いように思われた。



「ちゃんと食べてますか?

お休みになってます?」


心配だからそう聞いたのに、苦笑いで誤魔化そうとするから…。


有り合わせのものでサンドイッチを作り、適当なバスケットに入れてシルヴァン様に押しつけ、私はお茶の入ったポットを片手に裏庭の大木の下まで強引に連れ出した。


「…これは?」


「サンドイッチです。

全部食べて!そして少しでもいいから寝て!」


私の顔をサンドイッチとを交互に見比べているシルヴァン様の目の前に、ずいっと差し出す。

その勢いに押されたか、ややのけぞりながらもシルヴァン様は私の手からサンドイッチを取り、口に運んだ。



「…っ!」


一口食べて目をまんまるにするシルヴァン様にニンマリしながら、適当に突っ込んできたカップにお茶を入れて手渡す。



よほどお腹が空いていたのか、もの凄い勢いで2個3個と手を伸ばしあっという間に完食したシルヴァン様は、食べ終わってから気がついたように


「…すまん、全部食べてしまったが、ユイは良かったのか?」


と尋ねてきた。



その耳が内心のバツの悪さを表すように力無く垂れていて、思わず手を伸ばす。


「大丈夫です、私はちゃんと食べてます」


悪戯っぽく笑いながら耳に触れると、彼はくすぐったそうに肩を竦めた。


「何というか…つがいに触れられていると思うと、なかなか」


モフモフの耳は柔らかくて、その下の銀髪は絹糸のように滑らかで手触りが良くて。

つい何度も髪に指を滑らせ、耳を弄っているとシルヴァン様の肩からゆるりと力が抜けるのがわかった。


そのまま頭を私の膝に誘導する。



「このまま少しお休みください」


なんて余裕めいた事を言いながらも。




——膝枕なんて初めてだよ。


耳掃除の時に、お母さんにしてもらった事はあっても自分がするなんて…妙にくすぐったい。


心臓がドクドクと必要以上に早く打つ。


照れ臭いのを誤魔化すようにシルヴァン様の前髪を梳きながら何度も撫でると、気持ちよさそうに目を細める彼と目があった。



「猛獣使いとかくやという腕前だな」


「自分で自分のこと、猛獣とか言っちゃいますか?」


何だかおかしくてフフッと笑うと、優しく見つめられますます照れる。



「目を閉じて、少し寝ちゃってください」


「…眠るのがもったいない」


そう言いつつも、シルヴァン様の目蓋はゆっくり落ちて、すぐに寝息が聞こえてきた。


その穏やかなリズムにつられるように眠気が押し寄せてきて、私も大木に背中を預け目を閉じた。


 *


慌ただしく過ぎた数日の後、シルヴァン様と私が王都へ旅立つ朝が来た。



「くれぐれも気をつけてね、ユイ。

こんな事を言いたくはないけれど、王宮は魔窟よ。


わかりやすく尾を振る者、一見親切な者がその通りの人物とは限らない。

もっとも、最初からあなたを見下してくるような奴は、大抵権力や目に見えて分かりやすい力に弱かったりするんだけどね」


「…つまり?」


「誰であろうと簡単に信じちゃダメって事。

自分の身は自分で守らなくちゃ、誰も彼もが足を引っ張ろうとしていると思うくらいでないと。

些細な事でも揚げ足を取られるから言質を与えないように、のらりくらりと躱すのよ。


わかりやすい敵が本当の敵とは限らない。

味方のふりをして後ろから、なんて事もあるのよ…残念ながら」



一緒についていってあげられないのが本当に申し訳ないけれど…。


半分泣きそうになりながら何度も念を押すレプスさんは、散々迷った末こちらに残る事を決めたと昨夜打ち明けられていた。



「大丈夫だ、この者は意外と度胸もあるし肝も座っておる」


「それでも…どうかこの子の事、お願いします」



グリスさんと並んで頭を下げるレプスさんの姿に、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。


「おば様、おじ様……」



2人としっかり目を合わせ、必ずまたここに

帰ってくると約束する。


「ユイ、私はここで私のなすべき事をするから、あなたも頑張るのよ」


「この地は俺が守ってみせるから、安心して戻ってこい」



半年前まで何のゆかりもない、文字通り住む世界も種族すら違う2人だったのに。


今は本当の父と母のように私を案じ、思ってくれるレプスさんとグリスさんと別れるのがこんなに辛いと感じるだなんて…。



「ありがとう、行ってきます」


後ろに控えるゴルさんにも頭を下げ、瞬きで涙を散らしてからシルヴァン様と共に馬車に乗り込む。


彼らの前で涙は見せたくなかった。



護衛の指揮をとるリサさんの合図で馬車が動き出し、あっという間に砦が小さくなる。



彼らの姿が完全に見えなくなったところで、窓にかけられていたカーテンを閉めシルヴァン様と向き合う。


急遽編成された護衛部隊と2名の使者と共に王都へ向かう、その行程は馬車で7日間。



長い旅になりそうだった。

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