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狼王のつがい  作者: 吉野
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極秘の接触・後〜ゴールディ〜


——だから国王は「つがい候補」なんて理由をつけて、ユイを囲い込もうと…。


あの子がなんの力もない、知識も特別な能力もない小娘だと分かった上で。



国王の無茶な命令の真意は掴めた。


けれど、それに隣国まで絡んでくるのは…一体どういう訳なんだろう?





「自分達にとって都合の良い事を私が知っているかもしれない。

何か有益な情報を持っているかもしれない。


実際にはそうでなくとも、相手国はそう見做して私を欲しがるのなら抑止力として。

その為に私を利用しようと…そういう事?」


身もふたもない、ユイからの問いに


「有り体に言えば、そういう事になります」


あちらもバッサリと返す。





——そんなあやふやな、不確かな物がなんの役に立つというのだ。


抑止力云々というのは、やられた時の仕返しが怖いからこその話であると思うんだけど。




「だが、貴様は先程どこの国のものにもなるなと、そう言ったな?」


考え込んでしまったユイに変わり、シルヴァン様が会話を引き継ぐ。


「えぇ、私はヒトになりたいなどと恐ろしい事は考えてはおりません。

失礼、迷いびとが恐ろしいと言っている訳ではありません。

「ヒトの持つ可能性」というよくわからない物が恐ろしいと…むしろ、そのような考え方に危惧しております。


そんな物の為に振り回されて、国を疲弊させるなんてもってのほか。

我々…私は別に国を大きく強くしたい訳ではないのです。

攻め込まれなければ、こちらも攻め入ることはしない」




——ヒトの持つ可能性。


そんな事、今まで考えた事もなかった。



確かに僕達獣人とヒトとは、見た目も能力も違う事は理解している。



獲物を引き裂く為の鋭い爪も、噛みちぎる為の強い牙も、大地を駆ける為の力強い脚もない。

獣人と比べれば脆弱で、こう言ってはなんだけど簡単に倒せてしまえる存在。



けれど、それを補って余りある知恵と技術。


速く走る事が、高く飛ぶ事が、長く泳ぐ事が出来ないのなら。

それを補う物を作り上げる「力」をヒトは持っていた。


そうしてヒトはおのれの「力」を過信し…滅んだ。




——そんな力を…この子が持っているとは、正直思えない。



獣人の力といえば「個体の力」でしかない。


けれどもヒトの持つ「力」、それは何かを作り上げ、あるいは使う力。


個々の力に関係なく、我々よりもはるかに強く大きい「何か」を作り出し、使いこなす事が出来るとしたら…?




シルヴァン様の腕の中にいる事に、違和感を感じつつも離してもらえない事を諦めた風のユイをそっと見つめる。



  『可能性』



なんとも抽象的な言葉だ。


勝手に期待して勝手に祭り上げて、都合よく使い捨てられる未来しか見えない。



お人好しのこの子がそんな目に合うのは…少し、いや、だいぶ良心が咎める。

できれば、そんな未来は来て欲しくない、来ないで欲しいとさえ思ってしまう。



それぞれの想いを胸に秘めたまま、話は進んでゆく。



「我が父、猿王が…そして貴国の黒王がそのような考えを持つに至ったのも、数年前、我が国に迷いびとが落ちてきたからだと聞く」



その言葉に、ユイが小さく息を飲んだ。




——猿の国にも迷いびとが…。


王太子の言葉は我々にも少なからぬ衝撃を与えた。


もちろん、「時」も「場所」も関係なく、異世界から落ちてくるからこその「迷いびと」だと認識してはいる。



ユイの母親が前回、神狼国に落ちてきた迷いびとであり、父はシルヴァン様の騎士ゲイル殿であった話はグリス様から聞かされた。


ユイという名もその時に…。



ユイというのが本当の名前ならそれは真名ではないのかと密かに心配したが、どうやらユイの世界では「姓」と「名」が両方揃って正式な名前という事になるらしい。


つまり「名」だけなら真名とはならない、と聞かされて余計なお世話ながらほっとした物だ。



「千猿国の迷いびとが、何故?」



王太子の話によるとその者は成人男性で、しかも落ちてきた時、ユイと同じくこちらの世界にはない物を所持していたらしい。



「それは…なんですか?」


ユイの質問に王太子は胸から布に包んだ“何か“を取り出し、手渡した。



その布を丁寧に開き、その物体を見るなりユイは思い切り顔を引きつらせた。



「あなたはこれが何なのかお分かりか?」


「実際に見るのも触るのも初めてですが…でも知識としては知っています」



覗き込んで見てもそれが何なのか、何のための道具なのかちっともわからない。

けれどそれを知っているという事は、ユイはやっぱり迷いびとなんだな、と何故か今更そんな事を思った。



「何で…こんなもの」


よほど驚いたのか、独り言のように呟いたユイに


「それを持っていた男は、自分はケージだと名乗ったそうです。

そしてソーサの途中、何者かにソゲキされ、気がついたら全く見知らぬ土地にいたと」



ケージ、ソーサ。


馴染みのない言葉にもユイはよく反応し、頷いていた。


「ちなみに“弾”は入っていない」


その言葉にユイの肩がわかりやすく跳ね、そしてホッとしたように力が抜けた。



「で?それは一体何なのだ?」



訳のわからないやりとりの応酬に焦れたのか、シルヴァン様がユイの顔を覗き込む。


彼女の手にある黒光りする物体。


堅そうで妙な形をしているそれは、彼女が持つと妙にしっくり見える。



全員がユイに注目し、王太子も譲るような仕草を見せたので彼女は渋々


「武器…拳銃です」


と答えた。

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